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電子工作に関係する金属(鉄、銅、アルミニウム)の基礎知識 - 鉄

■鉄
 鉄は鉄と炭素の合金で,微量なリンと硫黄,そしてシリコンから構成されています。
 地球では20億年ほど前に,シアノバクテリアがそれまでほとんど存在しなかった酸素を作り始めます.原料は二酸化炭素とリン酸などです.
 地球を構成する元素で一番多いのが鉄です.酸素がなかったことは,海に二価の鉄イオンとして溶けていてました.しかし,酸素が増えてくると鉄は酸化され,海底に溜まっていきます.動植物や微生物の死骸に含まれているリンも.火山活動が激しかったので硫黄も、地表の約半分を構成しているシリコンも巻き込んでいきます.鉄だけを取り出す精錬の過程で、これら微量元素は取り除けず残ります。

鉄は炭素の比率で性質が大きく変わる
 鉄という合金で,一番要になる元素は炭素です.主に炭素の割合によって,鉄,鋼鉄とか呼び名が変わります.
 正確な炭素量ではありませんが,0.3%以下では軟鉄(一般構造用圧延鋼材SS400)です.ばねとか刃物を作るときのように焼き入れしても硬くなりません.電子工作で使う鉄のケースはこの軟鉄です.軟鉄とは言いますが、薄く加工する熱間/冷間圧延工程で硬くなっています。

 抵抗やコンデンサのリード線は、鉄の細い線にスズ・メッキをしています。


 炭素量が0.55%を超えると,はがね になります.リンと硫黄は鉄の性質を悪くするだけなので,できるだけ少ないほうがよいといわれます.
 この炭素量の割合は,分類する人や規格によって数値が異なります.


 一般の鉄製品ではシリコンは少なめですが,電子工作によく使われるトランスやモータの鉄心は,シリコンが多めの電磁鋼板でできています.

 次の写真はチョーク・コイルです。電圧を変化するものではなく、たんに交流信号を通しにくくするために使われます。薄い電磁鋼板を重ねています。形状がEという文字の中央部分に銅線を巻いています。巻き終わった上にIという文字の形状をしている電磁鋼板を重ねています。EIコアと呼ばれます。

 では,純鉄というものは存在するのでしょうか.半導体に使われるシリコン材の純度が99.9999999%という本当に不純物がない金属です。同じ製造方法であるゾーン・メルティング法で作ると,鉄でも99.9999%とか作れるようです.なんと,空気中ではきわめてさびにくいとか!

鉄の酸化物で役に立っているもの

 バックアップ装置用磁気テープ、ハードディスクの磁気媒体用磁性体などは磁性酸化鉄が出発点で、改良が加えられています。

 世の中のほとんどがスイッチング電源を使うようになり、その心臓部はフェライト・コアです。酸化鉄にマンガンやマグネシウムを混ぜて一度焼き、粉砕して型にいれて成型、焼結したものです。加藤与五郎氏と武井武氏によって発明され、TDKが設立されました。

 次の写真は、スイッチング電源です。いろいろな形状なフェライト・コアが使われています。

鉄の合金で利用の多いのはステンレス・スチール

 ステンレスと一般に言われるステンレス鋼が一番有名で、電子機器の筐体などに使われます。一番利用の多いのは、SUS304というニッケル8%、クロム18%の鉄合金です。刃物などはSUS403が向いているようです。

 表面にできるクロムの薄い不動態皮膜により、酸化が進みません。SUS304は鉄に比べると磁性は弱いですが、わずかにあります。

鋳鉄(チューテツ)

 鋳物(イモノ)用鉄のことで、炭素の含有量約2.5%超えます。砂型に流し込んで作られるのを、ねずみ鋳鉄と呼びます。電子工作ではほとんど利用されません。

参考文献

(1) 堀石 七生;錆の科学、日刊工業新聞社。

(2) 理科年表 2008、丸善。

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