TL431で電源の実験  (2)  出力インピーダンス

実際の回路はシミュレーションどおりに動く?

 前回の回路をブレッドボード上に組みます。

 R2は47Ω、R1とR3は33kΩに変更しました。電解コンデンサは、ブランドのわからない製品です。特にESRが低くはないと思われます。

 無負荷のときの電圧は5.04222V、100Ω負荷のとき5.02892V(0.0047A)でした。直流の出力インピーダンスは、次のように計算できます。データシートには0.2Ω(標準)と書かれているので、近い値です。

  Zo = ( 5.04222V - 5.02892V ) /0.047A = 0.283Ω

出力インピーダンスをシミュレート

 定電圧電源の性能は、

  • 出力電圧の安定性
  • ノイズ
  • 出力インピーダンス

などが重要です。出力インピーダンスが低ければ、負荷の変動に対して安定な出力が得られます。

 インピーダンスは、オームの法則でいうところの抵抗です。最初に直流のインピーダンスを測ります。

 負荷電流が0のときと50mAのとき、マウスをR4の記号上端に持って行くと電圧のアイコンになるので、左下の欄外に表示されている電圧を読み取ります。

 R4が100MΩのときの電圧は5.03426V(50nA)、R4が100Ωのときは5.00106V(50mA)でした。

  Zo = ( 5.03426 - 5.00106 ) /0.05 = 0.67Ω

 実測よりシミュレーションのほうが高めの出力インピーダンスです。

交流時の出力インピーダンス

 出力端に電流源をつなぎます。便宜的に、いずれも1を設定します。

 1~1MHzの周波数特性をみます。

 実行します。左の縦軸目盛りのところにマウスを持っていき定規アイコンに変わったとき右クリックします。単位の設定画面が出るのでLinearに変更すると、dBがV表示に変わります。

 直流時には0.67Vでしたが、約1kHzまではその出力インピーダンスは変化せず、5kHz付近で大きく変化します。

 シミュレート画面の上にあるV(out)を右クリックして、インピーダンスを求めるように「電圧を電流で割る」式V(out)/I(I1) に変更します。

 縦軸の単位がオームになりました。



 出力側に入っているコンデンサの影響をみます。ESRを50mΩと低くします。

 ピークがなくなりました。 

 コンデンサの容量を4.7uFに少なくすると、5kHz付近にピークができました。

 コンデンサの容量を4700uFと大きくすると、低い周波数からインピーダンスが変化しました。

 出力コンデンサの容量やESRによって、出力インピーダンスに変化があることがわかります。

 A-D変換器の基準電圧源として利用するとき、TL431の出力にOPアンプによるボルテージ・フォロワをつないでいる回路をよくみます。将来実験してみます。

実際に測定

 シミュレーションと同じように電源出力に発振器の信号を注入し、出力インピーダンスを測りました。

 PicoScopeのFRAでは、B(ch2)出力をA(ch1)出力で割った値を適切なレンジに切り替えながら測ります。Aには電流プローブを、Bには電圧プローブをつなぎました。PicoScopeの発振器の出力はDUTである電源出力に直接はつなげないので、1:1のトランスLL7401を利用しています。トランスの周波数特性から200kHz以上と5Hz以下は正しくありません。トランスの直流抵抗は数Ωと低いため直列に電流制限用の抵抗820Ω、負荷抵抗に1kΩを入れています。



 DUTに1Ωの抵抗をつなげたときに縦軸が40dBになります。これを基準に出力インピーダンスを表示すると、次のような632mΩ前後になりました。DUTまでの配線長によっても測定値は大きく異なるので参考値です。

 シミュレーションの結果とほぼ同じレベルの出力インピーダンスが測れました。シミュレーションでは10kHz以上ではインピーダンスが変化しますが、実測では、100kHz付近まで大きな変化はありません。コンデンサ自体のESRや容量によって大きく変わる可能性があります。

インピーダンス測定の参考資料

コラム コンデンサのESR

 コンピュータが市販されるようになって、大電流の電源が必要になりました。リニア・レギュレータでは賄いきれないので、スイッチング電源が主流になっていきます。それまでの電解コンデンサは短時間に寿命が尽きました。それは、スイッチング電源の大きなリプル電流に対応できなかったからです。電解コンデンサ・メーカは改良につぐ改良を行い、対応しました。同時にESRを低くすることで、ノイズを外部に出してしまうことが抑制できます。

 したがって、現在の電解コンデンサのカタログには、リプル電流とESRの値が書かれています。ESRは等価直列抵抗で、周波数に依存します。理想は0なのですが、製品によって大きく異なります。ESRが低いほどノイズを抑え込みますが、周波数特性があるので、回路の発生するノイズ範囲にあった製品を選択します。複数の容量や電解コンデンサやフィルム・コンデンサの組み合わせが用いられることもあります。

 上記のインピーダンス測定器で日本ケミコンSMG-1000uFを測った結果です。20dBが100mΩに相当します。