ヘッドホン向けに開発されたOPアンプ OPA1622を試用

汎用OPアンプは低い負荷抵抗を駆動しずらい

 簡易型のヘッドホン・アンプの出力には、汎用OPアンプが使われています。いくつかのOPアンプは負荷抵抗600Ωで仕様を規定していますが、ヘッドホンはそれ以下のインピーダンスが大半です。負荷抵抗値が低くなるほど、OPアンプは無理をします。

汎用OPアンプで出力負荷を可変してひずみを見る

 オーディオ用途に適した汎用OPアンプのNJM4580DDのデータシートでは、多くのスペックの条件は負荷抵抗が2kΩ時の値です。

 12倍の非反転増幅回路で、負荷抵抗を下げながらひずみ率を見ました。

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 測定は、Windows 10マシンに発振器ソフトWaveGene、ひずみを表示するためにWaveSpectraを使いました。

WaveGene 周波数の欄に1kHzを入れ、右クリックでFFTに同期を選ぶと、996.0937Hzに設定されます。

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WaveSpectra 窓関数は「なし(矩形)」を選びます。音声の入出力にはSteinbergのUR12を用い、24ビット/192kHzの設定で測定しました。

 UR12のライン出力LeftをOPアンプの入力につなぎ、OPアンプの出力をUR12のマイク入力に入れます。

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入力信号がないときのスペクトル

 青色は300回の平均値です。ノイズ・フロワが-125dB付近です。50kHz以上の信号は、測定系のノイズです。

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負荷抵抗57Ω

 1kHz(996.0937Hz)をWaveGeneで発振させました。少し2次、3次、5次の高調波が見えています。ひずみ率THDは0.016%です。OPアンプの電源電圧は±10Vです。

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負荷抵抗35Ω

 ヘッドホンのインピーダンスは、30Ω付近が多いといわれています(根拠は不明)。高調波が少し目立ち始めました。ひずみ率THDは0.022%です。一番レベルの高いのが2次ひずみです。2次ひずみは倍音ですから、耳障りなひずみではありません。

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負荷抵抗20Ω

 ひずみ率THDは0.037%です。

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負荷抵抗10Ω

 ほとんどスピーカのインピーダンスに近づきました。ひずみ率THDは0.10%です。

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ヘッドホン用に開発されたOPアンプOPA1622

 いままで、ほかの分野で使われていたOPアンプをヘッドホン・アンプ用に流用することが多かったのですが、テキサス・インスツルメンツから専用OPアンプOPA1622が出荷されました(2015年12月)。

 パッケージが3×3mmと小さいため、ユニバーサル基板で製作するのは大変です。ICのピン配置も、それまでの2個入りタイプとはまったく異なり、入出力の部品が理想的な配置になるように考えられています。

 従来の2個入りDIPパッケージにピン配置をレイアウトした製品が秋月電子通商から2016年3月に発売されました。 OPA1622DIP化モジュール(AE-OPA1622-DIP)です。

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負荷抵抗57Ω

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負荷抵抗35Ω

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負荷抵抗20Ω

 ひずみ率THDは、ここまで0.008%です。

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負荷抵抗10Ω

 少しひずみ率は悪化し、0.01%です。しかし、

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 5秒後に発振したようです。

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 ここまでは電源電圧は±10Vでした。±15Vでは同様に発振しました。±5Vに下げると発振しませんでした。

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 データシートでは16Ω負荷のデータが掲載されていますが、ヘッドホン・アンプとして利用する増幅率2倍少しの事例です。今回のように10倍も増幅しません。もちろん、プリント基板のレイアウト事例も掲載されており、安定に、そしてノイズなどの性能劣化を最小限にする説明が掲載されています。

 また、このOPアンプにはイネーブル端子があります。たとえば、DACの出力に利用する場合、PCMとDSDの切り替え時にハード・ミュートが必要な場合があり、そのような用途にも適しています。

周波数帯域

 Analog Discovery 2で帯域を測りました。負荷抵抗は20Ω、電源電圧は±15Vです。GBW、スルーレートのいずれもそれほど高くないのですが、周波数帯域は広いです。

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 OPA1622の内部では、高速OPアンプに電流バッファが追加され、ヘッドホン・アンプにぴったりの構成です。過電流保護回路も内蔵されており、ヘッドホン端子にヘッドホン・プラグを入れるときのショート対策もなされています。また、内部の入出力にはダイオードによる静電気の対策回路も入っています。