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初心者のためのLTspice入門の入門(9)(Ver.2) 反転増幅器

初めての反転増幅器

 フィードバック回路にR1(10kΩ)の抵抗を挿入し、マイナス側の入力端子に1kΩの入力抵抗R2を取り付け反転増幅器とします。プラス側にもR2と同じ値の入力抵抗を接続しもう一方をGNDに接続しています。プラス/マイナスの入力抵抗を同じ値にしているのはバイアス電流を同じにするためのものです。バイポーラ入力のOPアンプではバイアス電流を同じにする必要があります。

 この回路で、前回と同じようにAC解析を行うと次に示すような結果が得られます。200kHzくらいまでフラットな20dBの増幅率を示しています。

 フィードバック回路がない場合はカットオフ周波数が10Hzでした。負帰還回路付きの反転増幅器の場合は、次に示すように約900kHzとなります。

 前回と同様に次に示すようにフィードバック回路をオープンにしてシミュレーションすると、カットオフ周波数が10Hzでオクターブ当たり6dBの減衰があります。

 前回説明して、次に示すカットオフ周波数が10Hz の裸の特性では20dBの増幅率となるのは約900kHzとなります。負帰還回路を付加したOPアンプの周波数特性は、裸のオペアンプの特性の範囲内となります。そのために反転増幅器の周波数特性は、裸のOPアンプが同じ増幅率になる周波数900kHzまでフラットになります。

 このように、フィードバック回路を付加することで周波数特性は大幅に伸びます。

信号源のインピーダンス
 これまでの信号源のインピーダンスは0ですが、信号源もインピーダンスをもつ場合があります。信号源へのインピーダンスの設定は、次に示すように次のウィンドウでParasitic Serial Resistanceの欄に設定するインピーダンスの値を入力します。

LT06-a7866011.png

 信号源に100Ωのインピーダンスを設定してシミュレーションを行います。信号源のインピーダンスを0とした場合は20dBの増幅率でしたが、信号源に100Ωのインピーダンスがある場合、20dBより増幅率が下がります。

現実の電圧がどのくらい変わっているのかを見るためにグラフの縦軸を変更
 グラフの縦軸は次に示すようにDecibel表示となっています。

LT08-e85fa494.png

 この表示をLinearに変更します。

LT09-6d9f78fd.png

 Linearの表示に変更すると、縦軸の表示はV(ボルト)の表示になります。


 20dBの増幅率の場合は出力は10Vですが、信号源のインピーダンスのため出力は9.09Vになりました。


反転増幅器の増幅率
 OPアンプのプラス/マイナスの入力端子に加わる電圧と出力電圧の関係を検討します。反転増幅器では、プラス側の端子を入力抵抗を介してGNDに接続するのが一般的です。マイナス入力端子の電圧とグラウンド電圧の関係と出力電圧の関係を考えます。

(1) マイナス入力端子の電圧がマイナス側に振れたとき
 マイナス端子の電圧がGNDよりマイナス側に振れたとき、出力電圧はプラス側に振れます。出力電圧が上昇すると出力とマイナス入力端子がフィードバック抵抗で接続されているのでフィーバック抵抗に流れる電流が増加しマイナス入力端子の電圧が増加します。マイナス入力端子の電圧がGND電圧と同じになるまで上昇します。

(2) マイナス入力端子の電圧が増加するとき
 マイナス入力端子がGNDより高い電圧になると、出力電圧が減少し、フィードバック回路の抵抗を介してマイナス入力端子に流れる電流が減少します。その結果、マイナス入力端子に加わる電圧が下がります。マイナス入力端子とGNDと一致するまで出力電圧が下がります。

(3) 増幅率は入力抵抗とフィードバック抵抗で決まる
 マイナス入力端子は、プラス入力端子が接続されているGND電位と常に一致しています。入力と出力の間で入力抵抗とフィードバック抵抗の間に流れる電流は同じで、入力信号の電圧と出力電圧の比は入力抵抗値とフィードバック抵抗値の比と同じになります。

50a.png

 入力抵抗とフィードバック抵抗に流れる電流は同じでIrとします。

    Vi = Ri × Ir
    Vo = Rf × Ir
    Vo / Vi =(Rf × Ir) / (Ri × Ir)=Rf / Ri
    ( Vi 入力電圧、Vo 出力電圧
      Ri 入力抵抗、Rf フィードバック抵抗
      Ir フィードバック抵抗に流れる電流 )

 反転増幅器の場合増幅率は、フィードバック抵抗と入力抵抗の値により決まります。そのため、信号源のインピーダンスが100Ωと入力抵抗の1/10の大きさですと9%くらいの増幅率の減少になりました。
 次回は、非反転増幅器を調べます。

(2016/3/21 V1.0)

(2017/12/25 V2.0)OSがWindows 7->Windows 10、バージョンがLTspice IV -> LTspice XVIIへの変更に伴い、加筆修正した。

<神崎康宏>

バックグラウンド

バイポーラ入力;OPアンプの入力は差動回路です。同じスペックの半導体デバイスをペアで使います。トランジスタを使うと「バイポーラ入力」、FETを使うと「FET入力」と呼びます。バイポーラは、バイポーラ・ジャンクション・トランジスタという呼び名から来ています。FETはユニポーラ・トランジスタですが、FET入力と表現されるのが一般的です。

 FETは電界効果トランジスタですから、大きなくくりで「トランジスタ」と呼ぶときはバイポーラとFETの両方を含みますが、通称トランジスタはバイポーラだけを指します。

バイアス電流;入力バイアス電流です。OPアンプの入力トランジスタを動作させるために、わずかな電流が流れます。データシートでは Ib や Ibiasの記号で表します。

インピーダンス;直流DCでは抵抗とインピーダンスは同じです。市販されている発振器の出力インピーダンスは、50Ω(高周波)と600Ω(オーディオ)の2種類があります。

フラットな増幅率;周波数特性見た時、ほぼ一定の値を保っている部分=平坦な領域をフラットなと表現します。

フィードバック回路;負帰還回路、NFBのことで、1827年、ロルド・ブラック(Harold S. Black)が発明しました。

反転増幅器;反転とは、入力と出力の電圧が逆方向になっていることを意味します。非反転とは、入力と出力の電圧が同じ方向です。

連載 LTspice入門の入門

(1) LTspiceの入手とインストール
(2) LTspiceXVIIの起動
(3) LTspiceXVIIのシミュレーション手順
(4) 初めての回路入力 コンデンサと抵抗で回路図を作成する
(5) 初めてのシミュレーション AC解析
(6) グラフ表示を見やすくする方法
(7) 特性の変化を目視できる過渡特性のシミュレーション
(8) はじめての増幅回路シミュレート
(9) はじめての反転増幅器
(10) もうひとつの基本回路‥非反転増幅器
(11) オーディオ用に設計されたOPアンプOPA1622を利用する (1) SPICEモデルの入手
(12) オーディオ用に設計されたOPアンプOPA1622を利用する (2) .stepコマンドで負荷抵抗を変化

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初心者のためのLTspice入門 ◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定
(2) .measコマンド E/I=R
(3) .step .praramコマンド IR=E
(4) 電流源currentで過渡解析 I=E/R

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割
(2) 抵抗分割で得た電圧に対する前後の回路の影響
(3) 抵抗分割で得た電圧に対する後回路の影響
(4) 電池の内部抵抗をシミュレーション

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示
(2) 日本語表示をいろいろ試す
(3) グラフ画面にも日本語表示

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする
(2) LTspiceで出力されるwaveファイルの保存先
(3) BVコンポーネントでいろいろな信号を作る
(4) waveファイルを電圧源として読み込む
(5) waveファイルを有効利用

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路
(2) ダイオードによる半波整流回路に平滑回路を追加する
(3) ダイオードによる全波整流回路
(4) 全波整流回路のリプル
(5) レギュレータICを利用して±の安定化電源を作る

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路
(2) 電圧制御スイッチで負荷をON/OFFする
(3) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(1)
(4) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(2)
(5) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(3)