OPアンプの怪 その1 電源電圧は適当でよいのか

両電源必要な回路で電源電圧はいかに

 回路がわかっている人にとって明快な事柄も、そうでない初心者にはわからないことがたくさんあります。ここではOPアンプを題材に実験をします。

 OPアンプはプラスとマイナスの電源を使います。そうすると、DCから交流信号を扱えます。電圧も±15Vで利用することが多かったのですが、最近は±5Vで利用する例も多くなりました。これは、電源電圧ぎりぎりまで出力が取り出せる製品の入手が容易になったためです。

100倍増幅する非反転増幅器

 「非」はあらずという意味ですから、反転にあらず、つまり、入力と出力は同じ位相だということです。普通に増幅器と呼べばいいような気もしますが、反転増幅器に対する回路ということで使われています。

 OPアンプの性能は用途によって様々な項目が要求されます。DCから増幅したいときは、温度によって出力が変化しないような温度ドリフトが低いなどの性能が求められます。

 電子工作では、最低限、


  • スルーレート
  • GBW(GB積)

に注目します。スルーレートは、入力信号にどれだけ追随して増幅できるかの指標です。オーディオ用途では10V/usあれば十分といわれています。GBWは、Gain Bandwidth (利得帯域幅)で、オープン・ループ・ゲインと周波数の積でGB積とも呼ばれます。OPアンプのオープン・ループ・ゲインはDCで100dBを超えます。周波数が上がるにしたがって、ゲインは下がっていきます。GBWが大きいほど、広帯域の増幅器が作れます。

 OPアンプ1個で10倍の増幅器を作る場合は、上記の2点を気にすることはなく、現在普通に購入できるOPアンプであれば、だれでもうまく動かせます。しかし、100倍のアンプでは、いろいろな限界が出てきて、理想的な増幅ができなくなります。

  実験回路図を示します。増幅率は100倍になるように抵抗値を決めました。


  R1 + R2 / R1 =1 + 99 / 1 =100 

OPアンプ OPA2134

 電源は-10V、+10Vです。スーレートは20V/us、GBWは8MHzです。オシロスコープで、入力と出力信号をみます。本実験で用いたPicoScopeの5242BというUSB接続のオシロスコープはDCから60MHzの帯域をもち、2チャネル利用時には15ビットのA-Dコンバータが利用できます。デスクトップのオシロスコープは8ビットが一般的です。発振器を内蔵しています。

 オシロスコープのプローブ(ch1)と発振器AWG出力をアンプの入力に、プローブ2(ch2)をアンプの出力につなぎます。

入力50mV

(※)2017/03/20 プローブを1/10で使っていて、ソフトウェアのほうで、x10を選択しわすれたので、縦軸の値が1/10になっています。10倍に読み替えてください。

 1kHz;入出力はほぼ同じ波形が観測できます。出力のスケール(縦軸)は入力の100倍です。

 10kHz;出力の立ち上がりが少し遅れています。青色が入力で、赤色が出力波形です。

 100kHz;似ても似つかない波形になりました。

 

入力90mV (100mVでは出力が10Vになるため、電源電圧目いっぱいの増幅できない)

 1kHz;立ち上がりが少し遅れ、全体にプラス側に出力がシフトしています。

 10kHz;マイナス側の増幅率が下がっているようにみえます。

 100kHz

OPアンプ AD827

 電源は-10V、+10Vです。スーレートは300V/us、GBWは50MHzです。

◆入力90mV

1kHz

10kHz

100kHz;OPA2134に比べて、方形波の形を保っています。

OPA2134の電源を変更

 +10Vはそのままで、マイナス電源を-10Vから-6Vにしました。入力は50mV、10kHzです。

 ±10Vのときと同じ波形です。プラスとマイナスの電源電圧は同じでなくてもよいことがわかります。

 +10Vはそのままで、マイナス電源を-10Vから-4Vにしました。入力は50mV、10kHzです。

 マイナス側の振幅が縮小し、正常な増幅ができていません。

 正弦波にすると、出力がクリップしているのがわかります。電源電圧を超えて信号を出すことはできません。

 この電圧の状態で、発振器に30mVのオフセットを与えます。つまり、波形の中心が0Vではなく30mVにします。

 増幅機能としては正常で、±10Vのときと同じ波形をしています。OPアンプは、電源電圧に自由度があることがわかります。