Raspberry Piのアナログ電源をキットで作る (1) 3A のキット

Raspberry Piが高性能になると消費電力も増える

 現在出荷されている最新のRaspberry Pi 3 model Bは、5V-2.5Aの電源を用意するように説明されています。一般にはAC-DC(AC)アダプタと呼ばれるスイッチング電源を利用します。スイッチング電源は軽くて小さいうえに、安価です。

 機器組み込み用のスイッチング電源も中国製は安価です。スイッチング電源のほとんどは中国で作られています。

 ラズパイへはマイクロUSBで給電しますが、部品販売会社のカタログを読むと、このコネクタの接点の最大電流容量は1.5Aです。スマホなどで急速給電がサポートされる時代、2.5Aで使っても大丈夫なのかもしれません。

 ラズパイ自体が動作するために、2.5Aの電流が必要なわけではありません。USBにいろいろな機器をつないだときにも電流容量を確保するための2.5Aと思われます。電源の容量は2.5A以上であれば使えます。ただし、容量が増えるほど、電源は高価になります。

 連載の最後で消費電流を測りますが、通常の利用では1Aを超えませんでした。

アナログ電源とは

 次のような構成のものをアナログ電源と呼ぶようです。

 ◆家庭に来ている交流のAC100Vを整流し、直流のDC5Vを得る回路
 ◆12Vもしくは6Vのバッテリからシリーズ・レギュレータで5Vを得る回路 

 5Vのモバイル・バッテリは、中に3.6Vのリチウム-イオン電池が入っていて、DC-DCコンバータで5Vへ昇圧します。DC-DCコンバータはスイッチング電源ですから、これは、ディジタル電源です。

 スイッチング電源はノイズが多いといわれています。もちろん、CPU(SoC)が誤動作するほどノイズが多いわけではありません。オーディオ用途に利用すると、音が軽いとかの評価をする人がいます。ハイエンドのオーディオ機器もスイッチング電源に変わってきています。ノイズ対策のノウハウがあるのでしょう。

 下記の測定条件で比べました。



 0.01uFと56Ωを直列にプラスとマイナスにつないだ回路をアルミ・ケースに入れ、1.5mの同軸ケーブルで電子負荷の入力端子につなぎます。ケースの反対側はオシロスコープにつなぎ、AC入力にします。

 秋月電子通商で購入した5V-2AのAC-DCアダプタの出力をUSBケーブルで電子負荷につなぎます。電子負荷で1Aの電流を流したときの波形です。スイッチング電源の典型的なノイズ波形が見れます。

 同じ条件で、今回製作した5V-3A電源をつなぎます。電子負荷に0.5Aを流したときの波形です。

 明らかにノイズのレベルが異なります。電源はノイズだけで性能が決まるわけではありません。産業用では、負荷の変化に素早く追随できる能力が最も求められている分野もあります。

製作したアナログ電源の構成

 次のように大きなトランスで、交流電圧(100V)を低い電圧に変換します。トランスの大きさと価格は電流容量に比例します。

 購入したのは豊澄電源機器のHT-123です。

  • 入力(1次):100/110V
  • 出力(2次):6/8/10/12V 3A
  • 重さ:1.2kg

 2次側の端子から整流用ダイオード2個を用いて直流を得ます(正確には脈流)。トランスの中点はGNDにつなぎます。両波整流回路といます。このままでは負荷(今回はラズパイ)に流れる電流が変動すると、電圧が変化するので都合が悪いですし、きちっと5Vの電圧が得られません。

 交流は実効値rmsで表されているので、AC100Vとは100Vrmsです。オシロスコープで最大と最小の差を見ると141Vp-p(ピーク-ツー-ピーク)であることがわかります。2次側の0-6V端子を見ます。

6Vrms * 2*√2 = 16.9Vp-p

 負荷3Aの時の測定波形です。ほぼ計算と同じ電圧が出ています。

 ダイオードで整流し、コンデンサ・インプット回路の場合、直流は√2倍で計算上約8Vになります。しかし、約6Vしか出ていません。ダイオードのデータシートをよく読むと、Vfが1.2V以上あります。これでは、定電圧回路の入力に足りません。定電圧回路で使うLM338Tは入出力の電圧差は3V以上必要とデータシートに書かれています。

 両波整流回路をあきらめ、ブリッジ整流回路に変更しました。これは、キットに入っている回路図と同じです。トランスは0-8Vをつなぎます。

 無負荷時に9.2Vでしたが、0.5Aと負荷が増えると、レギュレータICの必要な入出力差3Vが確保できなくなりました。トランスの接続を0-12Vに変更しました。14.9Vでした。負荷を3A流したときでも9.2V確保できていたので、この状態で進めます。

 この14.9Vを定電圧回路に入れます。名前のとおり、負荷が変動しても一定の電圧を出力する回路です。実現方法はたくさんあります。今回利用したキットは、

  大容量出力可変安定化電源キット LM338T使用 放熱器付 最大5A

LM338TというICを利用したシリーズ・レギュレータです。出力電圧は調整(可変)ができ、出力範囲は1.2~20Vですから、5Vの電源が作れます。

 最大5Aというのは、IC自体が制御できる電流を指しています。放熱しないとIC単体だと条件によっては1Aさえ取り出せません。半導体は、使用できる上限の温度が決められています。一般的には、内部にあるシリコンのチップが耐えられる温度が最大150℃ですが、パッケージなどは熱を伝えにくいので、現実はもっと低い100度ぐらいが限界と考えます。

 今回使ったトランスが3A用なので、連続してこれ以上の電流を流すこともできません。3A以上流すとカタログの電圧以下になりますし、発熱も増えます。

キットとは別に追加購入するパーツ

 家庭のACコンセントにつなぐところからパーツを用意します。

※ 順方向電圧Vfが大きいため低圧回路では電圧降下が大きくて使えないことがわかったので、変更した。

 これ以外に配線用ケーブルが必要です。赤色、黒色、そのほかの色で、AWG22(直径約0.6mm) 前後の太さがよいでしょう。AWG規格の数字は芯線の太さを表します。感覚的に細いケーブルはAWG24(直径約0.5mm)以下、太いケーブルはAWG18(直径1mm)以上です。

パーツの外観

 インレット・ノイズ・フィルタは、ACインレットとコモン・モード・ノイズ・フィルタが合体した製品です。接続部分が3か所あるので3Pとも呼ばれます。電流容量が少ない場合は、メガネ型をした小型のACインレットも使われます。

 コモンモード・ノイズ・フィルタは、写真の左側が入力で、最初に入っているコンデンサがXコンと呼ばれ、数千PFの耐圧1.5kV以上のコンデンサがが入っています。その次がコモン・モード・チョークというコイルで、高い周波数のインピーダンスを上げます。その後ろの二つのコンデンサをYコンと呼び、入力の3Pの中点に戻しています。

 しかし、日本では中点には何も配線されていないので、中点は、シャーシ(金属ケース)につなぎます。コモンモード・フィルタは、外部から入っているのと内部から外へ出ようとしている高い周波数のノイズを約1/100に減衰させます。

ヒューズの選択

 ヒューズ・フォルダとヒューズが必要です。ヒューズの値は、回路がショートしたときに迅速に切れ、通常は影響がないというのが条件です。5V-3Aを流すと、電力は掛け算をして15Wです。100V側の電流は、

15W / 100V = 0.15A

なので、0.2Aもしくは0.5Aでよいでしょう。ただし、電源を入れた瞬間に電流が多く流れるラッシュ・カレントという現象があるので、1Aを選ぶのが賢明かもしれません。2次側が何らかの理由でショートしたら、1Aなら確実に切れます。電圧の表記は250VACが多いです。125VACでも使えます。

 ただ、運用時に2次側がショートするというのもあまり考えられません。組み立て実験時に間違って起こることは考えられます。それは、レギュレータICには負荷がショートしたときは、過大な電流が流れない保護回路が内蔵されているからです。

 電子工作で使われるヒューズには、大きさが2種類あります。

 左がミゼットと呼ばれる小型のタイプで、右が標準です。

 どちらのタイプがよいというわけではありません。業務機器でもミゼット・タイプが使われていますが、近くのホーム・センタではガラス管ヒューズは標準型しか置いていないかもしれません。

 ACインレットとヒューズ・フォルダを一体にして製品もありますが、国内では見かけません。

 ヒューズ・フォルダ、ACインレット、コモンモード・フィルタが一体になった製品もありますが、国内では見かけません。

 電源スイッチは小型ですが、125VAC 5Aと書かれているので十分です。ON/OFFしたときのフィーリングで選ぶとよいでしょう。パネルに取り付け部分の穴あけは丸が楽です。四角はとても大変です。



コラム AC100Vは触ると感電します

 電流が大変少ないと感電してもショックは少ないですが、今回の製作ではAC100Vを扱うので、触ると感電します。水がついていると被害が増大します。感電は個人差があります。

 まず、作業環境を整理整頓します。感電したとき、ショックのあまり、腕や体が反応し、間違ってはんだゴテのケーブルを引掛けたりすると、余計なけがをします。

 頭の上の空間もクリアにします。座って作業をしていて、突然ショックで立ち上がって、頭をぶつけないようにすることは大切です。とくに、真空管アンプを作っていてもっと高圧部分に触ったとき、反射的に体が動くときがあります。頭の上に何かあると、飛びのけられません。

 慎重に、AC100Vを触らない工夫をします。熱収縮チューブで触れないようにするとか、ビニール・テープで端子をカバーするなどすれば、ケアレス・ミスで感電しにくくなります。

 日本ではアナログ電源はほとんど市販されていませんが、ebayでは入手できます。

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