可変電源とスペクトル・アナライザの組み合わせが便利なAnalog Discovery (1)

PCで操作できる実験用電源があると便利

 電子回路を作ったとき、電源電圧を可変し、想定している電圧範囲で正常に動作するかどうかなどのテストをします。次の写真は、2電源出力をもつ実験用電源です。二つの電源は独立して動作しますが、トラッキング機能もあります。二つの電圧値を同じに保って可変できます。

dengen1.png

 電圧と電流はアナログ・メータで読み取ります。電流の最小目盛りは100mAです。人がノブを回して利用します。

Analog Discovery2の電源

 Analog Discoveryには実験用の電源があります。Analog Discoveryは+5V 50mA、-5V 50mAが供給できます。Analog Discovery2はプラスとマイナスで0.5/0.6/0.7/0.8/0.9/1.0/2.0/3.0/4.0/5.0Vが選べます。USBの接続では250mWとAnalog Discoveryと同じですが、DCアダプタをつなぐと電流をより流せ、2.1Wまで供給できます。

vol01a.png

 Analog Discoveryの専用ソフトウェアWaveFormsに含まれている個々のアプリケーションは、次の画面のように、ランチャにあるアイコンをクリックして立ち上げます。

vo00.png

OPアンプの増幅回路で電源電圧を変化させる

 汎用OPアンプNJM4580を使った非反転増幅回路をテストします。ICの動作電源電圧は±2~±18Vです。次に回路図を示します。増幅率は約12倍です。

op01b-56e5f50c.png

(1) ±5V

 +5Vと-5Vに電源電圧をセットします。今、電源出力はOFFです。

vol02.png
 発振器を用意します。1kHzの正弦波、出力0.2Vp-pです。発振器はrunさせるとずっと動き続けます。ネットワーク・アナライザを使うときは、そちらのソフトに連動して、測定範囲の下から上までの周波数を可変するスイープ信号を出します。

vol03.png

 オシロスコープを立ち上げます。電源がOFFなので、出力波形は出ていません。

vol04.png

 電源をONにします。

vol05.png
 出力が出ました。

vol06.png

 スペクトル・アナライザを立ち上げます。ひずみ率THDを表示できます。また、2次、3次のそれぞれの周波数とレベルも表示できます。表示ウィンドウの大きさは任意に変えられます。

vol07.png

(2) +5V -4V

 NJM4580はレールツーレールのOPアンプではありません。入力電圧が200mVp-pで、約11倍増幅しているので、出力電圧は約2.2Vp-pです。オシロスコープの設定をミスって、設定項目のプローブを×1にしています。実際のプローブは1/10×に選択しているので、オシロスコープの縦軸である電圧値の表示は1/10になっています。

 NJM4580のデータシート中にある「最大出力電圧 対 電源電圧特性例」を見ると、出力2.2Vを得るには、電源は±3.0Vが必要です。+5V -4Vでは正常に出力が出るはずです。

vol08.png

 オシロスコープの波形は正常に見えます。オシロスコープでは約10%のひずみ以下では、正常な波形に見えるといわれています。

vol09.png
 スペクトル・アナライザで確かめます。±5VのときのTHDは63.74dBc、+5V -4Vでは62.98dBcとほぼ同じです。

vol10a.png

(3) +5V -3V
 マイナスの電圧を-3Vに下げました。

vol11.png

 オシロスコープを見ると、出力波形が明らかにひずんでいます。

vol12.png

 スペクトル・アナライザの波形を見ます。THDは19.37dBcと悪化しています。2nd(2次)、3rd(3次)、4th(4次)などの高調波の数字も相当悪いです。

vol13.png

(4) +5V -1V

vol14.png

 -1Vでは、マイナス側の波形は正常に増幅できないことは予測できます。オシロスコープの波形を見てもそのとおりになっています。プラス側の波形も正弦波ではないようです。

vol15.png
 スペクトル・アナライザの波形です。

vol16.png

(5) +5V -0.9V

vol17.png
 さらにマイナス側の電圧を下げます。オシロスコープの波形を見ると、-1Vのときと大幅に異なっています。内部の動作が異常になっているようです。内部の回路構成が異なるOPアンプだと、この波形とは異なると思われます。

vol18.png
(6) +5V -0.6V

 さらにマイナス側の電圧を下げます。

vol19.png

vol20.png

(7) +5V -0.5V
 さらにマイナス側の電圧を下げます。

vol21.png

 波形さえなくなりました。

vol22.png

 このように、PCの上で、電源電圧を変え、オシロスコープの波形を観察し、スペクトル・アナライザでひずみを観察できます。

 最後に、電源電圧±5V時のネットワーク・アナライザの測定結果を示します。OPアンプによる増幅回路の周波数帯域が約270kHzと読み取れます。

vol30.png

バックグラウンド

スペクトル・アナライザ;スペクトル・アナライザとFFTアナライザはおなじ周波数分析器ですが、原理は異なっています。Analog Discoveryは区別していません。横軸は周波数で、縦軸はレベルで多くはdBです。

 市販のオシロスコープには、FFTの機能が搭載されていることが多くなっています。スペクトル・アナライザ専用器は、縦軸のダイナミック・レンジが格段に広いです。抵抗の熱雑音レベルまで測れますが、オシロスコープに付属のはもっと狭いです。スペクトル・アナライザ専用器は、オーディオ帯域など低い周波数帯の測定が得意ではありません。

ネットワーク・アナライザ;市販のネットワーク・アナライザは、とても高価でRF専用です。オーディオ帯域を測るのには適していません。Analog Discoveryのネットワーク・アナライザ機能は、数MHz以下の測定が得意ですが、RFで必要なsパラメータは測れません。