ヘッドホン・アンプ・キットで快適に (1) 組み立て

ディスプレイの音声出力の音量が低い

 PCのディスプレイのイヤホン・ジャックにヘッドホンをつないで、音量を最大にしても小さな音しか聞こえないことがあります。そういうときは、ヘッドホン・アンプが必要です。

 ここでは、秋月電子通商で販売している「NJM4580DD使用ヘッドホンアンプキット」を組み立てます。2017年8月現在540円と安価です。ケースは付属しません。

ヘッドホン・キットの内容

 キットいう商品名があっても、はんだ付けをしなくても完成する製品がありますが、このヘッドホン・キットは部品が基板に一つも載っていません。表面実装部品も使われていません。プリント基板の上に部品をはんだ付けして、電池をつなぐと利用できます。メインの増幅回路で使われているOPアンプは汎用OPアンプのNJM4580DDです。

 OPアンプは動作時、プラスとマイナスの電源が必要です。このキットでは、プラス電源から仮想電源回路により、OPアンプは±で動作しています。OPアンプはプラスだけ使った電源でも、オフセット回路を追加して動作させられますが、本回路はそうではありません。

 OPアンプの出力に直列に47Ωが入っているので、このヘッドホンアンプの出力インピーダンスは47Ωです。ヘッドホンの平均的なインピーダンスは32Ωなので、適度の抵抗値です。この値を使っていると、ダンピング・ファクタは約1です。オーディオ全盛の時代、メーカはダンピング・ファクタの高いトランジスタ・アンプを売りたかったため、ダンピング・ファクタが高いほど音がよいと宣伝しました。ダンピング・ファクタが1ということは、アンプの出力と負荷であるヘッドホンのインピーダンスがほぼ一致しているので、反射もほとんどなく、信号を伝送されます。

 しかし、NJM4580DDのデータシートに書かれているように、電気的特性は負荷が2kΩ以上のときです。47Ωのように重い負荷時にはデータシートに書かれている数値にはなりません。47Ωはパワー・アンプの領域です。OPアンプは小信号用のデバイスなので、ヘッドホンは駆動しきれません。したがって、いろいろなOPアンプの重い負荷時にひずみ率などの特性は、データシートに書かれていない劣化した領域で動作するので、いろいろな音が出ます。

 現在のアンプのほとんどは、出力インピーダンスが1Ω以下です。そこへたとえば600Ωのインピーダンスを持つヘッドホンをつなぐと、ケーブルの長さや、銅線のまわりにある誘電体による周波数特性によって、ある周波数のレベルが持ち上がったり減少するということが起こります。その結果、女性のサシスセソが強調されて聞こえたりするという、現象も起こります。

 入力と出力にはコンデンサが挿入されているので、OPアンプのオフセットによりDC(直流)が出力に出ることはありません。ヘッドホンやスピーカにDCが出ると、ボイス・コイルが定位置からずれ、ひずみの原因になります。

部品の確認

 OPアンプとソケットです。1番ピンを示す、へこみやぽっちがあるのを確認します。1番ピンから反時計回りでピン番号が振られています。一度、データシートを確認しておきます。パッケージは数種類あって、電子工作にはDIP(ディップ)が多く使われます。それは、それ以下の大きさが扱いにくいからです。DIPの8本あるリード線は、1/10インチ間隔で並んでいます。2.54mmです。2.5mmと略されることもあります。

 ソケットは丸ピンタイプで、ほかに板バネタイプもあります。半円形のくぼみが1ピン側の目印です。プリント基板のシルク印刷にくぼみが示されているので、それに合わせて挿入します。ICやソケットの1番ピンは、丸いランド(はんだ付けするエリア)ではなく四角くするのが通例ですが、この基板はそのような配慮はされていません。

 抵抗の値が色で表された炭素皮膜抵抗が入っています。抵抗値は、色をおぼえるよりテスタで調べましょう。調べたら、メンディング・テープで台紙に貼り付け、横に値を書き込みます。

 電解コンデンサは、白い帯のある側のリード線をマイナスもしくはグラウンド(GND)へつなぎます。逆に、白い帯の反対側のリード線をプラス(+)につなぎます。プリント基板の上には円形の横にが印刷されているので、確認ができます。

 電解コンデンサは、プラスがどちらかを二通りの方法で確認できることがわかります。

 キットならば、基板の外側がマイナスとかいう統一された配置になっていることもありますが、この基板は、あっちこち向いているので、挿入時は何度も確認し、はんだ付け後も確認します。

 ±を逆に挿し込んで電源をつないでも、昔のように爆発するようなことはありません。たぶん。特に5V以下では反対に取り付けても動作してしまいますが、気が付いたら、その電解コンデンサは捨てて、新しいのを取り付けます。再利用は厳禁です。化学的に内部が変化しています。

 電源用のコネクタとケーブルです。プラスは赤色、GNDは黒色です。JSTのXHシリーズのコネクタはポピュラです。

 プリント基板は両面です。表と裏に銅箔のパターンが描いてあります。白い文字や外形の線はシルク印刷と呼びます。プリント基板の材質はCEM3とポピュラです。古いキットではべーク板が使われ、片面だけに銅箔があり、片面基板と呼びます。数年経過すると基板が反ります。

 表と裏の配線以外の部分がほとんど銅箔です。少し前までは不要な部分はエッチングで溶かし去るのが一般的でしたが、現在は低い周波数でもノイズなどを抑える目的で、ベタ・アースになっています。部品が挿さる部分の穴は、内面が銅メッキされ導通しています。これをスルーホールと呼びます。ベタ・アースの表と裏を同じく小さな穴が開いていますが、これも、内面がメッキされ導通しています。これはビアと呼ばれます。

 広いベタ・アースにつながる部品、例えば、半固定ボリューム、電解コンデンサのGND側のパターンは十字の文字のような細い線で結ばれています。これは、はんだ付けの際、ベタ・アースが熱を奪うためにはんだの流れが悪くなるのを避けるための工夫です。工夫はされていても、はんだゴテの先の熱はすぐにベタ・パターンに奪われるので、少し長めにコテ先をランドに押し付けます。

 部品のGNDは、ベタ・アースの任意の場所につながっています。高周波回路では最短でGNDつなぐのが原則なので多く利用されますが、低周波では、ノイズやグラウンド・インピーダンスを考慮してパターンが描かれることが多いです。この基板はそのような配慮はされていません。

はんだ付けの準備

 はんだゴテは、温度調節機能の付いた製品を用意します。100円ショップでも通常のはんだゴテは購入できますが、温度調節機能があると、2段階ぐらい、腕が上がったように、はんだ付け作業が向上します。

 はんだは100円ショップでも購入できるなるべく細いの、例えば0.8mmΦを購入します。

 できれば、はんだゴテ台も購入してください。はんだゴテを机の上に置くと、熱くなった先端は空中に浮いているので問題はないのですが、AC100Vのコードをひっかけたりすると、机のどこかを焦がします。

 はんだ付けは、1秒、コテ先をプリント基板の部品のランドに押し付け、はんだの先端をそこに持っていって1秒、流れるのを確認しはんだを離し、1秒後にはんだゴテをランドから離すというリズムで行います。慣れが必要です。

はんだ付け開始 STEP1

 部品を取り付けるのに順番があります。背の低い部品からはんだ付けします。もう一つの条件は、熱に弱くない部品からです。熱というのははんだゴテの温度です。300℃以上です。

 なので、抵抗からスタートします。

 47Ωを用意し、リード線をアバウトに曲げます。シルクのR1が描かれた抵抗のところに挿し込みます。はんだ付けします。もう1本の47Ωもはんだ付けします。裏で、余分なリード線をニッパでカットするという手順です。

 抵抗を穴(スルーホール)に挿し込んだら、リード線を曲げます。このとき、抵抗にプラスやマイナスはないので、どちらの方向でも挿し込めます。けれど、金色の帯が基板の右端を向くように、もしくは左端になるようにそろえて挿し込むようにします。

 根元をはんだ付けします。最初、プリント基板のランドとリード線の両方にコテ先が当たる位置に持っていきます。はんだ付けする部分を温めるのが基本です。はんだ自体をコテに持っていくことはしません。

 1,2秒温まったら、その隙間、もしくはリード線の根元にはんだを持っていき、溶かします。溶けたはんだがじわーとその付近に広がると、はんだを離します-約1秒。コテはまだそのままです。1秒たって、コテ先をリード線の部分から離します。

 リード線をニッパで、根元からカットします。

 2本の抵抗の取り付けがすんで、ここで、あれ、と気が付きました。R1とR2は4.7kΩではないですか。

 はんだ吸い取り線ではんだをとります。はんだをとらないほうが、抵抗が抜けやすいかもしれません。

 ランドをコテ先で温め、反対側の面で、細いドライバを使っててこの原理でリード線を抜きます。強引な作業です。はんだ吸い取り器も市販されていますが、利用時には熟練が必要です。

 抵抗2本とも抜けました。しかし、片方のスルーホールがはんだで埋もれています。はんだ吸い取り線ではんだをとりますが、穴のなかまで吸い出せません。はんだゴテの先でランドをあっため、息をプッと吹きかけて、はんだを飛ばしました。間違って部品をはんだ付けすると、5倍も10倍も作業時間が伸びます。

 4.7kΩをはんだ付けしました。終わったら、回路図に、マーカ・ペンでチェックを入れます。

 すべての抵抗のはんだ付けが終わりました。切り取ったリード線は再利用するので、空き缶に入れます。

 はんだゴテは300℃以上になっているので、直接手で触れないようにします。もし、軽いやけどをしたときは、すぐさま、流水で5分以上冷やします。そのあと、やけどをした部分を保冷材や氷を手拭いでまいて、冷やします。

 アニメや漫画のシーンによくあるコテの金属部分を手のひらで握ってしまったようなやけどは、同様の対処をして、医者に掛かってください。対処が速く適切だと、やけどの跡は早く消えます。

 抵抗が正しい場所にはんだ付けされているかをチェックをします。もともと、右側に金色の帯(±5%の誤差を示す)の方向をそろえていたので、左側から抵抗値を読みます。

 R10を見ます。黄色は4です。次は紫色なので7です。3番目の黒色は、掛け算の乗数が×1です。黄、紫、黒は、47×10^0なので47Ωです。10^0は1です。

 R1を見ます。黄紫赤色です。最初の2桁は47です。赤色は2ですから、x10^2=100倍=4700Ωになります。つまり、4.7kΩです。

 R7とR9を見ます。赤黒オレンジ色は、1、0、10^3=10000=10kΩです。確認できました。

オレンジ グレー
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

 右端に金色を見るようにし、最初の二つが抵抗の値です。3本目の帯が乗数です。10のn乗です。nが上の表の数字です。

 これらは、4本線の抵抗の場合です。主流は5本線ですが、色が判別しずらいので、テスタで測るのが賢明です。

STEP2 ICソケット

 ICソケットは、8ピンの1本だけをはんだ付けした後、傾いていないか、方向が間違っていないかを確認します。板タイプのソケットなら、プリント基板の挿し込んで、抜けないようにリード線を曲げますが、丸ピンはリード線が太いので曲がりません。これ以前に抵抗しかはんだ付けしていないので、裏返すと、ソケットの背が一番高いので、抜けずにはんだ付けができます。

 8ピン全部をはんだ付けします。

 表側です。ここまではんだ付けして、ソケットの向きが逆だったことに気が付いても、取り外しは無理です。あきらめたほうがよいです。ソケットはそのままにし、逆にICを差し込まないように1ピンのマークを白色のペイントなどで目印を書いておきます。

STEP3 ミニジャック

 ヘッドホンのミニジャック端子を取り付けます。1か所はんだ付けし、ずれがないかを確かめます。

 4か所全部はんだ付けします。

 二つともはんだ付けします。

STEP4 電源コネクタ

 2pの電源コネクタは、シルク印刷の形状を確かめると方向が定まります。

 電池からのリード線を挿し込んで確認します。コネクタは1番と2番の番号が振ってあります。回路図を見ると、1番はプラスです。プラスは赤色のリード線です。

STEP4 半固定ボリューム

 半固定ボリュームを取り付けます。リード線が3本あります。リード線の配置が二等辺三角形になっているので、挿し間違えません。

 2個取り付けます。

STEP4 電解コンデンサ

 最後は、熱に弱いといわれる電解コンデンサです。コンデンサはオーディオのような交流信号を通しますが、直流を阻止します。電解コンデンサは、容量の割にはコンパクトです。耐電圧が高くなると、形状が大きくなります。

 オーディオ信号の流れるところには、フィルム・コンデンサがよく使われます。電源には大きな容量が必要なので電解コンデンサが使われます。オーディオ・アンプでは、電源にもオーディオ信号が流れますから、本来、すべてフィルム・コンデンサを使うのが理想です。しかし、形状が大きくなり、高価にもなります。

 マイナスとプラスを確認します。

 入力用の10uFを取り付けます。シルク印刷は「C3、+」が見えます。電解コンデンサのリード線の長いほうが+記号側です。+の文字の反対側に白い帯が来ているのが正解です。

 470uFも同様に取り付けます。迷ったら、秋月電子通商の製品ページの写真を拡大します。

電池をつなぐ

 キットの説明書には4.5Vから動作すると書かれているので、単3電池4本用の電池ケースを用意します(キットには入っていない)。エネループを使う予定です。アルカリ電池だと@1.5Vです。電池も別途用意します。

1.2V * 4 = 4.8V

 充電直後だと4.8Vより高めの電圧になります。電源スイッチがないので、コネクタの抜き差しで代用します。

 ワイヤ・ストリッパでケーブルの被覆をむきます。ニッパを使っても同じに作業できますが、芯線を傷つけることがあり、慎重に指先に力を加えます。

 熱収縮チューブ(スミチューブ)を通し、はんだ付けする部分をねじり、はんだ付けします。

 はんだ付け部分が冷えたら、熱収縮チューブをはんだ付けした部分に移動させます。ヒート・ガンを用意します。

 熱します。道具がなければ、セロハン・テープやビニル・テープで絶縁すれば、はんだ付け部分をむき出しにせずにすみます。テープは、時間がたつとはがれるのが欠点です。

●確認作業

 テスタをΩレンジにします。電源のプラスとGNDにテスタの赤色と黒色の端子を当てます。0だと、どこかのはんだ付けが間違っています。アナログ・テスタであれば、一度針が触れた後、逆に戻っていきます。

 ディジタル・テスタ(DMM)では、値がパラパラと変化します。落ち着いたときに0Ωではまずいです。実測で9kΩぐらいでした。

 0Ωでなかったら、OPアンプは挿し込まず、電源をつなぎます。OPアンプのソケットの4番と8番ピンにテスタのリードを当てます。電池の電圧5.27Vでした。

 正常であれば、電源を抜き、OPアンプをソケットに挿し込みます。リード線は広がり気味なので、まっすぐに挿し込めません。事前に内側にほんの少し曲げておきます。

 イヤホン、ヘッドホンはイヤホン・ジャック(out)に挿し込み、耳に当てないでおきます。いきなり大きな音やノイズが出る可能性があるからです。

 半固定ボリュームは、上の写真のように真ん中あたりに回しておきます。

 入力ジャック(in)に音源をつなぎます。

 電源コネクタをつなぎます。音が出たでしょうか。