Analog Discoveryのスペクトル・アナライザのBasicな使い方 (1)

 Analog Discoveryは、オシロスコープだけではなく、

  • 実験用電源
  • 発振器
  • スペクトル・アナライザ
  • ネットワーク・アナライザ

など、多機能な測定ツールです。2016年9月現在、アプリケーションのWaveForms2015はバージョン3.3.7です。立ち上げると、NIカラーがデフォルトになっています。

  スペクトル・アナライザが動作するときは、オシロスコープのアプリケーションは動作を停止します。中級以上のオシロスコープは、オシロスコープとスペクトル・アナライザを同時に動かして、特定な信号を解析しやすくしたモデルが増えています。将来そのようなソフトウェアが出てくるとよいですね。

 スペクトル・アナライザはオシロスコープと同じく、プローブを測定したい場所につなぎます。Analog Discoveryは2本の入力を同時に表示できます。プローブは100MHz以上のスペックが望ましいです。

スペクトル・アナライザのスペック

 スペクトル・アナライザは、周波数に対する入力信号の大きさを測定します。表示する周波数範囲(Freq. Range)は、デフォルトはAutoです。プルダウンで選ぶこともできます。StartとStopでも設定できます。Stopは50MHzが選べるので、0Hzから50MHzが測定範囲です。

 縦軸は入力信号の大きさで、単位はdBVです。リアルな電圧Vrmsも選べます。信号発生器で約10kHz 10Vrmsを入力していますが、10Vrmsに足りていないことがわかります。

 dBVは1Vを0dBVとした対数表記です。負荷のインピーダンスは無関係です。10Vrmsは20dBVですから、上記の二つの画面はその通りになっています。

dBV Vrms
20 10
10 3.162
0 1
-10 0.3162
-20 0.1
-30 31.62m
-40 10m
-50 3.162m
-60 1m
-70 316.2u
-80 100u
-90 31.62u
-100 10u
-110 3.162u
-120 1u
-130 0.3162u
-140 0.1u

 ほかにも単位を選べます。

  • Vpeak: ピーク値。V0-p
  • Vrms: 正弦波の実効値。実効値は、凸凹を平らに直したときの電圧値
  • dBV: 正弦波1Vrmsをもとに次式で換算 20*Log10(Vrms)
  • dBu: 正弦波0.775Vrmsをもとに次式で換算 20*Log10(Vrms/0.775)。日本ではdBvと表記される。
  • dB: ピーク値のdB表記

スケールの変更

 マウスのドラッグやホイールの回転で、値を変更できます。

トレースするときのタイプ

 常にデータを見たいときはデフォルトのsample、ランダムなノイズを軽減するAverage(平均)など、観測したい信号によって使い分けます。

  • Sample:デフォルトです。更新頻度により表示が大きく変わるので見にくいが、突然現れる現象の観測には欠かせない

  • Peak Hold Cont.:最大値を常に表示する。ベースラインのノイズが表示されないので、常に出ている信号が見やすくなる 

  • Peak Hold:countの数値回数ごとにピーク値を表示する。常に出ている信号が見やすくなる

  • Min Hold Cont.:countの数値回数ごとに最小値を表示する

  • Min Hold:最小値を常に表示する

  • Linear RMS Average:countの数値回数ごとにVrms(実効値)の平均を表示する

  • Linear dB Average:countの数値回数ごとにdB(ピーク値)の平均を表示する

  • Exp. RMS Average:次式を用いて、Vrms(実効値)の指数平均を表示する。

      Averagei = Rrms(Sweep)/Weight + Rms (Average)(i-1)*(Weight -1)/Weight

  • Exp. dB Average:次式を用いて、dB(ピーク値)の指数平均を表示する。

      Averagei = dB(Sweep)/Weight + dB (Average)(i-1)*(Weight -1)/Weight

 Countは平均化するときのサンプル数として使われます。デフォルトは100です。

 Sample時の波形です。100kHzの正弦波を入力しています。高調波はどのあたりに出ているかがわかりません。

 Linear RMS Averageを選ぶと、ノイズが消え、高調波などがはっきり見えてきます。

窓関数

 スペクトル・アナライザで使われるFFTは、過去から未来に向けて連続する信号を扱いますが、取り出せる信号数は有限です。なので、初めと終わりが波形の途中だとスペクトル漏れという現象が生じ、間違った結果になることがあります。そのため、初めと終わりの信号を減衰させてできるだけ、連続した信号を正しく見るための窓関数が何種類か用意されています。使い分けをします。通常、ハン(Hann(ing))かブラック・ハリス(Blackman-Harris)を使うことが多いようです。

 変更は、Trace1の右にあるギア・アイコンから行えます。

  • Rectangular: 矩形。窓関数を使わない状態。近接した正弦波(相互に周波数が近く、ほとんど等しい振幅)やホワイト・ノイズの解析に使われる

  • Triangular:三角形。Bartlettとも呼ばれる

  • Hamming: 間隔の狭い正弦波の解析に向いている

  • Hann(ing):未知の正弦波、狭帯域、およびこれらの組み合わせに向いている。一番汎用タイプ

  • Cosine:

  • Blackman-Harris:サイド・ローブが大きく減衰するが、メイン・ローブは太くなる。解析対象となる周波数に近くに障害のある信号がある場合に役立つ

  • Flat Top: 解像度は低いが、振幅精度が高いので、振幅の確度が重要な場合に使われる

  • Kaiser: メインとサイドのローブの幅を調整できる

 100kHzの方形波を入力しました。Rectangular=窓関数をかけていない状態です。



 Blackman-Harrisを選ぶと、波形のすそ野がシャープになり、隣接した信号が浮かび上がってきます。