SpresenseでLチカから始める (12) アイソレータ Si8710BC

 フォト・カプラはアイソレーションのために昔から使われています。1次側のLEDを点灯させ、2次側の受光素子に信号を伝えます。つまり、光が伝わる空間で絶縁をしているわけです。絶縁にはパルス・トランスも使われていました。最近のI2C、SPI、USBなどのシリアル・インターフェースは高速なので、いろいろな原理と実装方法でアイソレータが作られています。

 ここでは、フォト・カプラと同様の使い方のできるシリコンラボのSi8710BCを利用します。入手したのは8ピンDIPです。

Si8710BCのおもな特徴

 1次側はダイオード・エミュレータ回路があり、フォト・カプラのLEDのように電流を流して駆動します。2次側とはキャパシタで信号を絶縁しています。Si8710BCの2次側はフォト・カプラTLP152と同様のFETのトーテム・ポール出力なので、高速に負荷をスイッチングできます。TLP152はNチャネル+Nチャネルの構成ですが、Si8710BCはハイ・サイドはPチャネル+ロー・サイドはNチャネルの構成です。出力電流はTLP152の2.2Aに比べると大変少ないです。

  • 電源電圧
  • 出力電圧 2.5~5V(Vdd-0.2V)
  • 速度 DC~15Mbps
  • 入力ダイオードのスレッショルド電流 最大3.6mA
  • 出力電流 最大22mA

回路

 Spresenseの拡張ボードのI/Oは約6mA流せるので、Si8710BCの1次側を直接駆動できます。TLP152では電流増幅用にトランジスタのために+5Vが必要でしたが、ここでは不要です。

 Si8710BCの2次側の出力電流は22mAと少ないので、MOSFETを使って負荷を駆動します。MOSFETは電圧駆動型のデバイスですが、入力ゲートの容量は比較的大きいです。駆動パルスの立ち上がりと立ち下がりで瞬間に電流がたくさん流れ、そして立ち下がり時には溜まった電荷を適切に放電しなければ高速に駆動できません。ArduinoのPWMは約490Hzと低速のスイッチングなので、2次側の出力を直接MOSFETにつないで使います。うまく駆動できているかは、波形を見て判断します。

NチャネルMOSFETを用いた回路の検討

 TLP152と同様の回路を組みましたが、モータ(TLP512の記事と同じモータを使っている)は動きません。Si8710BCの出力Voをオシロスコープで観測すると、入力に同期してわずかに何か信号が出ているのはわかりますが、次段を駆動できる電位差の信号ではありません。5V程度の電圧が出るのを期待していました。Si8710BCの出力回路は電源側がPチャネル、グラウンド側がNチャネルのCMOSで構成されています。

  • 入力がLowのとき、PチャネルのFETがONになり、VddからVoへ電流を流す
  • 入力がHighのとき、NチャネルのFETがONになり、VoからGNDへ電流を吸い込む

という動作をします。次段がPnPトランジスタであれば、Highのときに電流が流れるので駆動できそうですが、MOSFETのゲートにはトランジスタのベースのように電流は流れません。

 今度は、ゲートとGND間に入れた抵抗R3を、ゲート-12V間へ変更し、抵抗値を下げていきました。Si871xの評価ボードの回路には、Voにプルアップ抵抗を入れる場所が用意されていました。この回路が正しいインターフェースかどうかは不明ですし、長期にわたって働くかどうかはわかりません。

 SpresenseのPWM出力は、3番、5番、6番、9番ピンの四つです。3番ピンにつないで次のスケッチを動かします。

#define pinNumber 3

void setup() {
pinMode(pinNumber,OUTPUT);
}

void loop() {
analogWrite(pinNumber,225);
}

 波形を観測します。

 R3に2.7kΩを入れたときのMOSFETのゲート波形です。Lowが約1.7Vあって高めです。使用しているMOSFETはVthが低いので、OFFするぎりぎりです。

高速にスイッチングするときの回路の波形

 Arduino UNOでは約1kHzがPWM出力できます。Spresenseのメイン・ボードのPWM出力は最大で6.5MHz、分解能は15ビットですが、筆者は現在、SDKのサンプル・プログラムを使って出力する方法がわかっていません。そこで、別途発振器の出力を利用して、高速にスイッチングしたときの波形を観測します。

 上の青色はSi8710BCの入力部分、下の赤色はMOSFETのゲートを観測しています。

◆490Hz

 立ち下がり付近の拡大です。

◆10kHz

 立ち上がりの部分です。

◆100kHz

 ゲートの立ち上がりの波形が2段になっています。最初の山の部分が、入力キャパシタを充電するときの波形です。(※)東芝アプリケーション・ノート、MOSFET ゲート駆動回路。

◆1MHz

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