ラズパイ4用アナログ電源の製作⑤電流と温度特性

 トランジスタは約 -8mV/℃の温度特性をもちます。言い換えると、

  • 温度係数は負である
  • 温度が高くなると電子の動きが活発になって電気抵抗率が下がるので
  • コレクタ電流は流れやすくなる

という性質です。実験で確かめます。
 電源にとっては不都合な性質です。電流が増えると発熱によって空気中に発散させる熱の容量が増え、発散が遅れるとトランジスタの温度が上がって電流が増えるという循環を繰り返します。さいごには熱暴走というトランジスタのジャンクション温度を超え、デバイスが破壊される状態が起こります。

測定条件 1A

 電子負荷に1A流します。測定するのは、温度、Tr1のベース電流、Tr1のベース電圧、Tr2のベース電流、Tr2のベース電圧です。

 測定前の室温は24℃でした。約20分後に46℃でほぼ飽和したので、温度差は22℃です。
 左側のグラフはhFEです。どちらのトランジスタも、データシートに書かれている範囲の値でした。
 右側のグラフはVbeで、どちらのトランジスタも、温度が上がってもさほど小さくなりませんでした。

測定条件 3A

 電子負荷に3A流します。約20分後に約74℃で飽和しそうなので、温度差は50℃です。
 右側のグラフにあるように、温度はまだ少し上がりそうですし、Vbeはまだ下がりそうです。したがって、コレクタ電流が3Aと多い場合、今回使った放熱器(54×50×15mm)では小さすぎるようです。

 1Aのとき、パワー・トランジスタ2SC5198(Tr1)のhFEは120前後でしたが、3Aでは約45まで低下しています。Tr2の2SC1815GRのhFEは、1A時は約280弱、3A時は約280なので、ほとんど変化はありません。
 パワー・トランジスタは、電流を多く流すとhFEが下がる傾向の製品があるようです。データシートでは、100を超えていますが、これは測定がパルスを使っているためだと推測します。電源のように、連続して電流が流れる場合とは異なる値になるようです。

 温度差が50℃なので、室温が30℃であれば、この電源は20分経過するとトランジスタは80℃になります。近傍で80℃の電解コンデンサを利用する場合、寿命は2000時間です。1日8時間使えば、250日過ぎれば劣化が始まります。

 データシートから温度が上がるとVbeが小さくなります。TL431の温度係数は大変小さいので温度の影響は無視できます。TL431もしくはほかの素子を使って温度係数が+8mV/℃であれば、Tr1の温度係数を相殺でき、トランジスタの熱暴走を止めることができます。

 もう一つの対応は、放熱器の大きさを今の倍以上にして、飽和する温度をもっと下げます。
 確実なのは、Tr1が40~50℃になったら、ファンを回して空冷する方法です。

現実解

 この実験で、3Aの連続負荷時の発熱は大きな不安材料です。しかし、最悪1Aの連続負荷であれば、金属ケースに入れ、放熱器を自然空冷させれば熱暴走せずに済みそうです。

 現実、ラズパイ4では、USBソケットにいろいろつないで、プログラムを連続して実行するような特別な状態で1Aが流れます。常時1Aは流れないので、ファンで冷却するまでもないと考えます。