ラズパイ4用アナログ電源の製作⑥出力保護回路
実験に限らず、電源を利用している最中でも出力をショートするという事故は起こりやすいです。すると大電流が流れ、トランジスタは破壊されます。製品の多くは、何らかの方法で、電流をシャットダウンするか、電流を少なくする保護回路が入っています。保護回路があっても出力をショートする実験すると、壊れる製品もありますが。
●ポリスイッチ
ポリスイッチは、こちらで実験しました。
製品のスペックに書かれている電流値は、抵抗がほとんどなく電圧降下がない最大電流付近のようです。そこに書かれた約3倍の電流が流れると、数秒以下で抵抗値が上がって電流を制限します。
したがって、出力がショートしパワー・トランジスタに過大な電流が流れて一瞬でも最大定格を超え、破壊するような回路/デバイス保護には使えないことがわかりました。
●トランジスタによる電流制限回路(1)
次の回路は、現在の電源にトランジスタを1石追加するだけで、過大な電流から保護ができます。ただし、設計した最大電流がずっと流れ続けます。
出力Io=3Aで電流制限をかけるための抵抗Rsは、
Rs = Io / Vbe
= 0.6 / 3 = 0.2[Ω]
手元にあったのが0.5Ω/5W抵抗なので、並列にすると0.25Ωです。そうすると電流は2.4Aで制限できるはずです。実際に組み立てて実験しました。
本連載で作っている回路は、フィードバック回路がありません。したがって、出力ラインに0.25Ωが入ったので、電流が流れるほど、出力電圧は下がっていきます。
増加する電流が止まり、電圧が急激に低下したのは3.0Aでした。その直前の出力電圧は、3.9Vでした。
5Vが安定して出ていない回路では、ラズパイの電源として使えません。
電流 [A] | 0 | 0.3 | 0.5 | 1 | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 |
出力電圧 [V] | 5.02 | 4.89 | 4.86 | 4.76 | 4.64 | 4.5 | 4.33 | 2.03 |
出力側に入っているR2を、パワー・トランジスタのエミッタではなく、Rsの先に変更しました。
出力電圧が、電流値にかかわらずほぼ5Vと安定しました。
電流 [A] | 0 | 0.3 | 0.5 | 1 | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 |
出力電圧 [V] | 4.96 | 4.97 | 4.98 | 4.99 | 4.98 | 4.95 | 4.95 | 3.3 |
パワー・トランジスタは空冷しているので、実験中は33℃(室温28℃)程度でした。空冷しないとこの放熱器では、20分で70度を超えます(⑤電流と温度特性)。したがって、この保護回路では、短時間であればパワー・トランジスタを保護できます。
●トランジスタによる電流制限回路(2) フォールド・バック型
最大制限電流を超えたら、電流が少なくなるというのが望ましいですね。理想的には、シャットダウン(出力を出さない)ほうが電源にとってはよいのですが、ラズパイが止まってしまいます。しかし、出力がショートしているのですから、別のトラブルがあると考えられるので、そのほうがよいかもしれません。
次の回路は、設定した最大電流を超えると、電流と電圧がともに減少します。したがって、出力をショートしたことに気が付かなくても、パワー・トランジスタが発熱を続けて高温になりにくいという特徴があります。
電子負荷で電流を増やしていくと、最大電流を超えると出力電圧が1V以下になります。しかし、電流は2.68Aのままです。抵抗値を変更しても電流は減りませんでした。ためしに、出力をショートしたら、実験用電源は約2.7Aになっていました。出力OUTの電圧がほぼ0Vですが、入力電圧はパワー・トランジスタにかかっているので、電位差8V×2.7A=21.6Wという大きな電力を消費し、短時間に高温になります。
抵抗値をいろいろ変更しても、保護動作時の電流をわずかに減少させられましたが、1A以下にはできませんでした。参考文献のように、最大電流と保護動作時の電流値は別個に決められますが、相関関係もあって、独立したパラメータではないです。
これらの回路は、基準電圧源にツェナー・ダイオードを用いています。今回の回路では、IC自体が利得のあるデバイスなので、そのことを考慮した回路が必要だと思われます。
そうすると、(1)の保護回路のほうが、Tr1の電力損失は少ないです。大きめの放熱器を使えば、数十分は耐えられそうです。そしてメリットは、5Vの電圧は出ていることです。ラズパイを止めなくて済むという意味では(1)のほうがよい回路といえます。
(参考文献)渡辺明禎、トランジスタ回路の実用設計、CQ出版社。
平賀 公久、レギュレータに保護回路を加える、CQ出版社。