最新ラズパイ・ゼロと真空管アンプでハイエンド・オーディオを その10 完成形1

リクロッカで信号を整える

 前回でラズパイによる音出しチェックが終わりました。WebRadioなどを再生するのであれば、これで十分な品質が得られると思います。オーディオ用として、リクロッカを使って、ガラッと音質を向上させます。

リクロッカにもいろいろある

 安価で入手しやすいのがKALIというリクロッカです。I2SインターフェースではD-Aコンバータの内部処理で使うために高い周波数のクロックが必要で、MCLK(MCK)と呼ばれます。MCLKを作るためには、水晶発振モジュールを利用します。周波数は、音楽信号の基準となるサンプリング周波数の整数倍が望ましいので、22.5792/24.576MHzや45.1584/49.152MHzが使われますが、ESS社の製品では50/80/100MHzのように整数倍になっておらず、非同期で動作するD-Aコンバータもあります。PCM5122のようにIC内部で作成するD-Aコンバータもあります。

 I2Sの中でLRCLKがサンプリング周波数そのものの信号で、名前のとおり、ステレオのLeftとRightの信号を送るときにHigh/Lowがトグルに切り替わります。したがって、この端子の周波数を測れば、送られてくる信号のサンプリング周波数がわかります。

 データ自体は、LRCLKの切り替わってBCK 1クロック置いてから、BCKクロックに同期して送られてきます。データが右詰めか左詰めかでモードがありますが、I2Sモードが採用されています。

 ラズパイから送られてくるBCK、LRCLK、Dataを、MCLKとなる水晶発振モジュールに同期させて、出力しなおすのがリクロッカです。といっても、KALIの内部は公開されていないので、推測した動作です。

KALIはラズパイに重ねるだけ

 GPIO端子同士で、ラズパイとリクロッカのKALIを重ねます。前回までのようなI2S-DACボードを使う場合には、さらにGPIOに重ねるので、3段重ねになります。

 PianoとHifiBerry Plusは、重ねるだけで利用できます。ES9023はMCLKを内部の50MHz(ほかの周波数もある)の水晶発振モジュールで作っているので、これを使わず外部入力に切り替える作業が必要です。

 水晶発振モジュールから直列に入っているダンピング抵抗10Ω(100R)を外し、GNDへつながっているR1へ付け替えます。R1のランドには最初から何もついていません。
 左の白いコネクタのMCLK端子に、KALIからGPIOの29ピンにMCLKが出力されているので、ジャンパ・ケーブルで接続します。この二つの修正で、ES9023のMCLKは外部クロックで動作します。白いコネクタはGPIOのピンより細いので抜けやすいです。筆者は、MCLKにつなげるジャンパピンの黒いプラスチックを取り去り、ラジオ・ペンチで接点を少しつぶして接触しやすいように加工しました。

 いずれのボードも、Volumioの設定に変更はありません。

音出し

 5Vの電源はKALIだけにつなぎます。ラズパイ・ゼロにはKALIから電源が配給されます。I2S-DACはラズパイ・ゼロから電源が供給されます。

 前回と同様に再生します。ガラッと芯のある音に変わります。

 以上で完成形1は終了ですが、もう少し音質を向上する方法があります。

電源を分離する

 ラズパイはコンピュータなので、いろいろなプログラムが動きます。音楽用だけでなく、OSとして必要なプロセスが動いたり止まったりします。したがって、複数のプログラムが動くと電流が増えます。電流が増えるとグラウンドの電位が小刻みに変動します。I2S信号にもその影響があります。ロジック信号のレベルでは安定に動作しているのですが、時間軸方向のずれが音に影響を与えるようです。

 ラズパイとKALIは、ジャンパ・ピンの変更で電源5Vを切り離せます。

 I2S-DACも単独で電源を配給できますが、Pianoのように最近設計されたボードは、ノイズを減少させるフィルタを搭載したり、従来より性能の良いLDOを搭載しているので、KALIと兼用してもよいかもしれません。こだわれば、3電源になるので、それはそれで運用が大変です。三つのAC-DCアダプタを電源スイッチ付きテーブル・タップにつなぐとよいでしょう。

 電源にAC-DCアダプタを利用するのが一般的ですが、スイッチング電源なので、リニア電源に比べてノイズが多いです。特にノイズが少ないオーディオ用と呼ばれる製品もありますが、ノイズは電波ですから、ケーブルの長さや配置によっても、ラズパイに入るノイズは異なります。

 ラズパイ・ゼロは5V 1A出力のリニア電源でも動作します。しかし、リニア電源はあまり市販されていません。KALI、I2S-DACはそれぞれ500mA以下の電源で動作します。リニア電源にするとノイズが減るように思われますが、ラズパイの電源に載ったノイズが電源トランスの1次側に出てしまうため、一つの電源トランスから作った5V 2A(1.5A以上)電源の出力を三つのボードに配給してしまっては、ノイズ低減の効果は少ないです。

 スイッチング電源の発振周波数は100kHz前後です。数MHzから10MHzを超える領域までノイズは出ます。D-Aコンバータはサンプリングの定理で動作しています。したがって、適切なローパス・フィルタが入っていないと数MHzに存在するノイズも可聴領域に折り返してきます。

 電源の分離は大変重要です。しかし、KALIを使うことによる音質の向上に比べると差は小さいかもしれません。ノイズは、電線を伝ってくるものと、空間から降り注いで導線を通過することでノイズになるものの二系統があります。

 次回からは、D-Aコンバータに、廉価版ではなくハイエンド・オーディオ用を利用します。