記事  TOPに戻る

キットの製作 USBを電源にした可変電源 4/5

5 動作確認


入力はUSB充電器のスイッチング電源
 パソコンなどのUSB2.0の規格では1ポート当たり5V 500mAの電源を供給できます。これを本電源につないで実験してもよいのですが、電流を流しすぎるなどもしものことを考え、スマホの充電器を使いました。スイッチング電源のAC-DCアダプタで、出力コネクタがUSB A端子タイプの製品もあれば、これらも使えます。
 写真3はNexus7に付属していた充電器です。5.2V/1.35Aと書かれています。Nexus7の充電に必要な電力を供給するためのものなので、常時、最大5.2/1.35Aを供給できることをだれも保証していません。ですが、350mA程度なら十分使えると考え、このスイッチング電源を入力に使って本ボードをチェックしてみます。

写真3 スマホNexus7に付属していたスイッチング電源(左)、右はiPad用

 いずれも安定した5Vが得られる。

acapapta.jpg

 


動作確認の測定環境
 出力側にテスタ(DMM)をつなぎました。
 入力側にはUSB充電器にタイプAのUSBケーブルを使って5Vを供給します。
 このキットで使われている可変レギュレータICのNJM2397の入力許容電圧は35Vですから、5.2Vは問題ありません。プリント基板上にあるUSBの電源電圧(VBUS)端子CN3を測ると5.11Vでした。
 入力をつなぐ前に半固定抵抗を左に回しきっておきます。取り扱い説明書によると、最低電圧の設定になります。回していると、どこが最後かわかりません。いくらでもまわります。なので、抵抗値をテスタで測ると左に回しきったかが確認できます。

測定…その1

最小電圧
 電源の出力に何もつながない無負荷時に、実際に測ると1.29Vでした。カタログの仕様上では1.5Vとなっています。無負荷時というのは、出力端子に何もつないでない状態です。実際はLEDが点灯しているので、少し電流が流れています。電圧が低いので、うっすらと点灯しています。

最大電圧
 半固定抵抗を右に回していきます。回しきったときの電圧は4.87Vでした。カタログの仕様上は最大4.5Vですが、レギュレータICの規格では、入出力間電位差は0.2Vとなっているので、妥当な電圧です。

  5.11-4.87=0.24V

 ボリュームを少し左に戻し、無負荷時に4.50Vにします。電子負荷装置を電源の出力につないで、いろいろな条件で測定をします。

  •  200mA 4.36Vからゆっくりと電圧が下がっていく
  •  250mA 4.3Vから下がっていく
  •  300mA 4.1Vから下がっていく

 350mA 3.5Vから下がっていく2.0V付近まで下がるが、電流もこの時点では200mA程度。放熱器の温度は30℃。負荷電流を0にすると、電圧はすぐに4.5Vに復帰する。

ポリスイッチによる電流制限はきっちりと利いている

 200mAを流しと電圧は4.36Vからゆっくりと電圧が下がっていき、約4.43Vで下げ止まります。約4分間そのままにし、電流を350mAにします。そうすると、最初の測定と同様に、電圧は2.0V付近まで、電流は200mA付近まで下がっていきます。

 負荷電流を0に戻します。電圧はすぐに4.5Vに戻ります。これは、最初の測定時と同じです。

 3分待ちます。今度はいきなり500mA流します。電圧は1.6V電流は180mA付近まで落ちて落ち着きます。1分この状態を続けて、電流を0に戻すと、数秒で4.5Vに戻りました。

 これら一連の測定中、放熱器の温度は約30度でした。

 ポリスイッチRXEF025の仕様は、定格250mAで倍の電流で遮断とデータシートに書かれています。ほぼそれに近い特性になっています。限界(ここでは250mA)前後では、無負荷時の電圧から出力電圧が下がっていくことがわかります。

 ここで、電流を流したときあまりにも電圧が下がりすぎて、定電圧回路ではないようにみえる!という疑問が出ました。そこで、ICの入力電圧を監視しました。そうすると、電流を0から増やしていくと、電圧も下がり始め、120mAで4.7Vまで下がります。

 つまり、この充電アダプタは4.5Vの出力を得るには使えないことになります。

測定…その2

 NeXUSの充電アダプタが問題と考え、初代iPadの充電アダプタを用意しました。5.1V/2.1Aと書かれています。出力電圧は5.15Vでした。170mA流したときに4.7Vまで下がりました。これも使えません。

 今度は普通のAC-DCアダプタ、5V/3Aを用意しました。無負荷時の電圧は5.10Vです。しかし、同じように負荷電流を増加させると、電圧が下がっていきます。ここまで来て、1次側の電源が2次側の電圧低下と直接関係ないことが分かってきました。

 ポリスイッチをショートして電流を増加させたところ、電圧の低下はほとどありません。つまり、ポリスイッチの抵抗が電流が少ない時から増加しているのが原因のようです。

ポリスイッチを0.5A用に変える

 ポリスイッチを定格500mAのRXEF050に変更しました。データシートによれば、4.7Vに下がるときの負荷電流は300mAでした。つまり、ポリスイッチは、既定の電流を超えると急速に抵抗値が増えるという特性があります。しかし、300mA以下でも抵抗値はあるので、電圧降下があります。

 本電源を低い出力電圧で使う分にはキットに付属していたポリスイッチでも支障はないでしょうが、高めの出力電圧の設定では、カタログに書かれていた350mAは流せないということです。

 実験途中で付属のポリスイッチにダメージを与えたかもしれません。

 ポリスイッチは、出力のショート時に、1次側、ここではUSBの電源側(500mAmax)を保護するというのが目的で挿入されているので、その目的は果たしています。

0.5Aのポリスイッチに変更して測定

 無負荷時に4.50Vにします。電子負荷装置を電源の出力につないで、電流値を増やしました。

  •  200~480mAのときに4.49V。480mA流したときの5分間の温度上昇3.8℃

 ポリスイッチの個体差もあると思いますが、本電源で4.5Vを得たい場合、480mA以下であれば、定電圧出力が得られました。また、この程度の電流を流しても、入力と出力の電圧差が小さいので発熱は少ないことも確認できました。

 もっと低い電圧で使うときは、

  (入力電圧-出力電圧)×電流=発熱量

になるので、この小さな放熱器で温度が上がりすぎないことを確認しなくてはなりません。

コラム 使用したテスタはKeithley2000

 表示桁数が普通のテスタより多い6.5 桁マルチメータです。中古品を入手し、校正は行っていないので、どこまでの精度があるかはわかりません。ここでは小数点第3位を四捨五入して、小数点第2位までの数値を記録しました。

 測定を始めたときの気温は25.5℃でした。温度計はタニタの料理用温度計です。

写真A Keithley2000 6-1/2桁ディジタル・マルチメータ

DC 電圧100nV ~ 1kV 、DC 抵抗100 μΩ~100 MΩなどの測定ができる

k2000.jpg

コラム 使用した電子負荷装置

 菊水電子のPLZ72Wの中古品です。電圧計は付いていますが、テスタと比べ、3ケタ目が数%異なる値が表示だったので、今回は、Keithley2000の表示値を記録しています。

 利用できる負荷電圧は4~100Vなので、今回の実験では3.3Vなどの低めの電圧のテストはできませんでした。

写真B 電子負荷装置PLZ72W

電圧と電流が表示できる。負荷のかけ方を2種類の時間で切り替える機能がある

plz72w.jpg

連載メニュー キットの製作 USBを電源にした可変電源

(1) 電源電圧を変化させられると実験に便利

(2) 回路図を読もう

(3) キットの組み立て

(4) 動作確認

(5) もし実験中にショートしたとき