負帰還の発明者 ハロルド・ブラック Harold S. Black、1898-1983

ひずみが問題

 増幅器(アンプ)では入力された信号を増幅します。どのくらい増幅するかを表すのが増幅率です。増幅するとき、切っても切れない関係が「ひずみ率」です。

 ひずみのない理想正弦波の入力を真空管もしくはトランジスタのアンプで増幅すると、2次ひずみや3次ひずみなどの高調波を伴い、元の正弦波の波形が崩れます。

 次の図は、約1kHzを出力している発振器のスペクトラムです。2次(2nd)の2kHz、3次(3rd)の3kHz、およびそれ以上の周波数に、本来あるはずのない出力成分が出ています。これは、発振器自身のひずみですが、アンプでも同じように高調波が出ます。

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真空管による増幅器のひずみを劇的に減らす技術が負帰還

 大陸横断電話線のコスト低減を目指すウェスタン・エレクトリックに勤めていたブラックは、長距離の伝送途中に入れる中継器(アンプ、レピータ)の問題点が高調波ひずみにあることを解析しました。

 まず、フィードフォワード増幅器を発明し、ひずみは改善したが回路自体が不安定でした。1927年8月に負帰還、つまりネガティブ・フィード・バック、NFB(NegativeFeedback )のアイデアを思いつき、特許を出願。その後、電気にとどまらず、機械、音響などの制御に使われるようになりました。結果、アンプのひずみを50dB改善したので、レピータの設置数量を少なくでき、結果的に長距離伝送の信頼性を上げることに貢献しました。

100年後の世界でも必須の技術

 現在、高性能なOPアンプICが1個数十円で入手できる時代になりました。アナログ信号を扱うとき、OPアンプICを使うと手軽に増幅ができます。その増幅回路ではNFBをかけて使います。ひずみ率は0.001%をはるかに下回ります。

参考文献

バックグラウンド

アンプのひずみ;通常THD(Total Harmonic Distortion;全高調波ひずみ)で表されます。真空管を使ったオーディオ・アンプでNFBのかかっていない場合はTHDは0.1~1%以上だが、NFBをかけると0.1%以下にできます。ブラックの時代は、寿命の短い真空管が使われていました。トランジスタはベル研で1947年に発明されました。改良に次ぐ改良で、電子回路の寿命が飛躍的に伸び、今日に至ります。

ウェスタン・エレクトリック;電話会社であったAT&Tは、ベル研究所という研究開発部門と製造を担うウェスタン・エレクトリックを傘下に持っていました。

書籍「世界の技術を支配する ベル研究所の興亡」は、優秀な人材を集め、どのようにすれば研究開発が活性化するかという人材活用に多くの話を割いています。ベル研の話が中心で、電子工作をする人が知っておきたい、ショックレーの役割や性格を知ることができます。

 

測定機器;

発振器 Kenwood AG-203D。アッテネータ -20dB

スペアナ Digilent Analog Discovery2

 

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