初心者が知っておきたい放熱器の利用方法 (1)
■半導体は発熱するので適正に放熱して使う
パソコンのCPUは仕事をすると発熱するので、空冷ファンを使って熱を逃がしています。電子工作で使うレギュレータICやパワー・トランジスタのように、電力用途の半導体も放熱が必要です。放熱器を取り付けないと、そのデバイスがもつ能力の数分の一の電力しか扱えません。
次の写真は、市販の放熱器です。ヒートシンクともいい、材料はアルミニウムです。大きくなると高価になります。電子工作では、パーツ・ショップにおいてある既製品を使うことが大半です。放熱器メーカのデータシートを見ると、あらゆる用途に向けて製品が用意されていることがわかります。しかし、通販などで入手しやすいわけではありません。
半導体はどのくらい発熱して、どのように放熱したらよいかを実験で確かめます。
●温度計を用意
長時間温度を記録したいので、温度データロガー TR-71nwを使います。温度センサにサーミスタを用いています。放熱器を手で触れるぐらいの温度範囲の測定に適しています。100℃を超えるような温度を測る用途には、熱電対(ねつでんつい)というセンサを使える温度計を利用します。
項目 | スペック、備考 |
---|---|
センサ | サーミスタ 内蔵・外付け |
測定チャネル | 温度 ;内蔵1ch、外付け2ch |
測定範囲 | 内蔵センサ -10~60°C |
測定範囲 | 外付けセンサ 付属センサ:-40~110°C、オプション・センサ:-60~155°C |
測定分解能 | 0.1°C |
データ記録容量 | 8000個×2ch |
記録間隔 | 1、2、5、10、15、20、30 秒 1、2、5、10、15、20、30、60 分の15通り |
電源 | 単3アルカリ電池×2、単3ニッケル水素電池×2、USBバス・パワー(5V 200mA)、ACアダプタ(AD-05A2)、PoE IEEE 802.3af(TR-7nwのみ) |
本体寸法 | H 58 × W 78 × D 26mm |
(株)ティアンドデイの温度計は、複数の温度や湿度などを長時間測定するのに適したデータロガーです。USBケーブルでパソコンにつないでデータを吸い上げられますし、有線LAN経由でクラウドにデータを保存することもできます。無線でつながるTR-71wfシリーズもあります。
●半導体はどのくらいの温度で使うか
2SC3423という中電力用のトランジスタのデータシートを見ます。
項目 | 定格 | |
---|---|---|
コレクタ損失Pc | Ta=25℃ | 1.2W |
Tc=25℃ | 5W | |
接合温度 | 150℃ |
扱う電力の指標であるコレクタ損失の項目に2種類の条件が書いてあります。Taは半導体の周辺の空気の温度です。25℃とか23℃は、常温の数値としてよく使われます。
Tcは半導体のケース(パッケージ)の温度です。半導体は利用しているときに発熱するので、ケース温度は25℃より上昇します。その熱を常に奪っていけば、Tc=25℃という条件を保つことができます。そうすればコレクタ損失は5Wまで許容できることを示しています。
しかし、放熱するために放熱器やファンを使っても、Tc=25℃は無理で、25℃以上になります。
接合(ジャンクション)温度は、半導体のチップの表面部分がここまで上がっても動作するという数字です。多くは150℃です。
次の図は、パワー・トランジスタを横から見た図です。チップからでた熱は、ケースもしくはフィンを通して放熱されます。
フィンは金属ですから、この部分を通して多くの熱が伝わります。ここに放熱器を取り付けます。しかし、それ自身の熱伝導率がありますし、チップ、フィン、放熱器それぞれの境界では隙間ができたりして、効率よく熱は伝わりません。したがって、Tc=25℃を満たすことは、空気中では無理があります。
Tc=25℃時に5Wですが、ケースの温度はそれ以上になるので、コレクタ損失5Wはとれません。ケースの周辺温度が上がるとコレクタ損失がどのくらい少なくなるかはデータシートに書かれています。2SC3423のデータシートに掲載されているグラフから、60℃のときには許容できるコレクタ損失は3.5Wと読み取れます。
チップの温度が60℃のとき、放熱器の温度はもうっと高くなっています。通常、熱抵抗というパラメータを用いて計算します。
バックグラウンド
発熱;電子回路で使われる半導体は発熱します。高温の状態では半導体自体の寿命が短くなります。それ以上に問題になるのが電解コンデンサです。周囲の温度が高いほど寿命が極端に短くなります。なので、配置や通風を工夫して電解コンデンサの温度を上げないようにします。
フィン;トランジスタならコレクタがこの金属フィンにつながっています。放熱器も金属なので、放熱器がケースのグラウンドにつながっているとショートしてしまうので、絶縁をします。従来は絶縁用シートを挟みましたが、実装の手間が大きいので、今は、半導体自体が絶縁物で全体を覆ったフルモールドした製品が多くなっています。取り付けねじの部分も絶縁されています。
三端子レギュレータ。左がフルモールド。右のフィンがむき出しのパッケージ。このICはフィンがGND端子なので、絶縁しないでも使える。
パワー・トランジスタを絶縁シートで実装している実験用電源の放熱器部分。