記事-  TOPに戻る

LTspiceでトランジスタ活用④ 温度の影響

●固定バイアス回路
●温度の影響を受けるトランジスタ回路

 トランジスタ回路の温度の変化により影響を受ける要素を調べます。まず、トランジスタのベース-エミッタ間の電圧が温度によってどのような影響を受けるか確認します。
 次に示すように、温度の上昇(-25~+100℃)に応じて750mVくらいから550mVくらいまで電圧が低下しています。


 
 .measコマンドで平均値を求める方法もありますが、グラフ表示させるために、入力信号をより小さくして信号の影響をより小さくします。入力信号の正弦波の大きさを1μVにしてシミュレーションしてみました。次に示すようにベース電圧の変動がよくわかります。

ベース電流はあまり変動しない

 次に、ベース電流の変動を確認します。次に示すように、9.04μAから9.46μAと温度の上昇により電流は大きくなります。しかし、変動は約5%と電圧の変動に比べ大幅に少なくなっています。
 ベース電流の増加は、ベース電圧の低下分約0.2VをR2の電圧降下の増加で補っています。その増加分の電流が次のように計算されます。

     I  = 0.2[V] / 470[kΩ] = 0.00000042[A]
      = 0.42[μA]

 ベース電流の増加は、ベース電圧の低下分をR2の電圧降下でバランスをとるために増加したものです。

 
コレクタ電圧とコレクタに流れる電流の変動

 コレクタ電圧は、3.6Vから2.35Vまで温度の上昇に伴い電圧は減少しています。一方、電流は1.9mAから3.7mAへと温度の上昇と共に電流は増加しています。


 
 
自己バイアス回路の場合
●ベース電圧、ベース電流の変動

 ベース電圧の変動は0.75Vから0.55Vと固定バイアスの場合と同じ範囲となっています。ベース電流は-25℃で11.3μAで、温度の上昇に応じて100℃で8.9μAまで減少しています。

 
コレクタ電圧、コレクタ電流の変動

 コレクタ電圧は3.2Vから2.47Vと、固定バイアス回路の3.6Vから2.35Vまでの範囲より少し狭まっています。同様に1.75mAから2.48mAと固定バイアス回路の値より少し狭くなっています。


 
 
 固定バイアス回路では、コレクタの電圧がR2の抵抗を介してベースにフィードバックされます。ベースに流れる電流が減少するとコレクタに流れる電流が減少します。コレクタ電流が減少するとR1に流れる電流が減少しR1の電圧降下が減少し、コレクタの電圧が上昇します。コレクタ電圧が上昇するとR2経由でベースに流れる電流が増加します。ベース電流が増加するとコレクタに流れる電流が増加しR1の電圧降下が増加しコレクタ電圧が下がり、一定の値でバランスします。

電流増幅率も大きく温度の影響を受ける

 コレクタ電流/ベース電流で示される電流増幅率を確認するために、LTspiceでシミュレーションした結果を次に示します。
 グラフ画面にadd tracesで ic(q1)/IB(Q1) を選択し次のような結果を得ました。緑色の一番小さな値が-25℃で150、100℃で280と大きく増加しています。


 
 
 固定バイアス回路からフィードバック回路による自己バイアス回路で少し安定度は増していますが、トランジスタの電流増幅率が大きく変動しています。固定バイアス、自己バイアス回路のどちらも個別の調整が必要になります。

 次回は、電流増幅率のばらつきの影響を緩和できる電流帰還バイアス回路について検討します。

 (2021/12/9)

 <神崎康宏>

-