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LTspiceでトランジスタ活用⑤ 電流帰還バイアス

 今回は、次に示す電流帰還バイアス回路の検討をします。この電流帰還バイアス回路は、電源電圧をR1とR2で分圧してトランジスタのベースに電流を供給します。ベース電流は、ベース電流をhfe倍したコレクタ電流と合わせてエミッタからR4を経由してGNDに流れます。

ベース電圧とエミッタ電圧の関係

 この回路では、R1、R2、R4でベースに流れる電流を決めます。電源電圧V1をR1とR2で分圧した電圧がトランジスタのベースとなります。この電圧からトランジスタのベース-エミッタ間電圧(Vbe)を引いたものが、トランジスタのエミッタ電圧となります。R2の電圧降下分が、この電圧になるようにトランジスタから電流が供給されます。この関係を次に示します。

     V1 × R2 /(R1 + R2) = Vbe + R2 × (Ib + Ic)


      V1  : 電源電圧
      Vbe : トランジスタのベース-エミッタ間電圧
      Ib  : トランジスタのベース電流
      Ic  : トランジスタのコレクタ電流

 トランジスタのエミッタに流れる電流はベース電流+コレクタ電流になりますが、ベース電流はコレクタ電流に比べ数十分の1から数百分の1となり、コレクタ電流とほぼ同様な電流とみなせます。

R3とR4の関係

 R3はあまり大きな値にすると、出力電流を大きくとることができません。次の回路を駆動できる電流を流せる値にします。また、正弦波などのアナログ信号の増幅を行う場合は、次の事項も留意します。

 正弦波のプラス・マイナスの波形が歪みなく増幅できるようにするため、無信号時のコレクタ電圧が可動範囲の中間になるようにバイアス電流を決めます。そのときのR3、R4とコレクタ電流との関係は、次のようになります。

      V1 = 2 × (R3 × Ic) + R2 × Ib + Ic) + Vce(sat)


   Vce(sat) : ベース電流を十分流し飽和したときのコレクタ-エミッタ間電圧 0.1V
   V1   : 電源電圧
   Ib   : トランジスタのベース電流
   Ic   : トランジスタのコレクタ電流


R3のコレクタ抵抗の値を決める

 コレクタ抵抗の値を決めます。ここではコレクタ抵抗R3の値を1kΩとします。これで、この回路の出力インピーダンスは1kΩとなります。この回路の入力インピーダンスも数kΩ以上となります。十分駆動できます。

増幅度を基にR4を決める

 この回路の増幅度はR3/R4となります。ここでは10倍の増幅度を想定してR4を100Ωとします。

所定のコレクタ電流になるようにR1、R2を決める

 Vceは0.1V、トランジスタのhfeを100としてIbはIcの1/100となりIbの値は無視できるものすると、コレクタ電流をIcとしてはR3、R4で想定された電圧降下は次のようになります。

   V1 - Vce =(2 × 1000Ω + 100Ω)× Ic

   Ic =(5.0V - 0.1V)/ 2.1kΩ = 4.9 / 2100 = 0.002333A

 コレクタ電流は約2.3mAとなります。
 これにより、無信号時のコレクタ電圧(バイアス電圧)は正弦波の上下の振れの範囲の中間の電圧になることが期待できます。

コレクタ電流を2.3mAを流すため

 コレクタ電流を2.3mAにするためには、R1、R2で電源電圧を分圧してトランジスタのベースに加える電圧を次の値になるようにします。

  ベース-エミッタ間電圧 + R4の電圧降下
       0.64V    + 0.23V
  =    0.87V

ベースに加える電圧をR1、R2で決める

 V1の電源電圧をR1、R2で分圧してベースに加える電圧を設定します。R1とR2の抵抗値を小さくすると入力インピーダンスが低くなります。そのため、R2は5kΩ、R1を20kΩとすると、電源電圧は4Vと1Vに分割されます。そのうえ、ベースに0.02mAの電流を流すものと仮定すると、次の関係になります。

   5V = R1 × Ir1 + R2 ×(Ir1 - 0.023mA)
   5V = 20k × Ir1 + 5k ×(Ir1 - 0.023mA)
   5V =(20k + 5k)Ir1 - 5k × 0.023mA
   5V = 25k × Ir1 - 0.115V
   Ir1 = 5.115V / 25k = 0.2046mA

 20kΩの抵抗に0.2046mAの電流を流したときの電圧降下は4.092Vで、このときのベースに加わる電圧は0.908Vになります。

 デカップリング・コンデンサの値をC1、C2ともに10μFに設定しました。周波数特性に影響するので後ほど具体的な検討を行います。

 あわせて、.measコマンドでトランジスタのベース電圧、電流、コレクタ電圧、電流のそれぞれの平均値も求めます。

シミュレーション結果

 上記条件で行ったシミュレーション結果を次に示します。
 この波形はコレクタ電圧の出力波形で、グラフから読み取ると2.35Vくらいを中心とした正弦波となっています。

 .measコマンドによる測定結果を次に示します。

    コレクタ電圧の平均電圧  2.359V
    コレクタ電流の平均電流  2.65mA
    ベース電圧の平均電圧   0.94722V
    ベース電流の平均電流   0.01318mA

 ベース電流が想定したものの半分くらいの値になっています。hfe=2.65/0.01318=201とhfeの値が倍になっています。そのために想定した値と若干差がありますが、ほぼ想定した値になっています。

  温度の変化に対するコレクタからの出力電圧の変化を、次の .stepコマンド確認しました。

    .step temp -25 100 25

 -25℃から100℃までを25℃刻みで変化させた結果です。実際の室内環境は0℃から50℃くらいまでなので、上から2番目から4番目までがその範囲に入ります。

入力を230mVの正弦波にする

 出力を増大したときの様子を確認するために、入力信号として230mVの正弦波を加えます。またバイアス電圧を少し上げるために、R2の値を4.7kΩに変更しています。結果は次に示します。

 赤のラインがコレクタからの出力で、青がエミッタからの出力です。エミッタからの出力はベースに加わった信号と同じ位相でほぼ同じ振幅となっています。コレクタ側の正弦波は約十倍の振幅に増幅されています。バイアス電圧もR2の抵抗値を4.7kΩに下げた効果があり2.65Vになっています。

出力に対する温度変化の効果

 温度変化が増幅に影響を確認するために、温度を変えたときのoutの出力を表示します。

 C2より出力側にあるoutの出力は直流分をカットした正弦波の信号が得られます。温度の変化でhfeとVbeが変わりますが、増幅度は一定で出力波形は同じになります。


 
 トランジスタの電流帰還バイアスは、このようにトランジスタなどのばらつきも吸収して比較的容易に回路の設定ができ一番一般的な増幅回路となっています。次回は、周波数特性を確認します。

 (2022/01/21)

<神崎康宏>

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