電流プローブ入門 その3 普通のトランス
■入力100V、出力12V、9VA、EIコアのトランスを使った電流波形
電圧を測った波形はよく見るのですが、特にノイズは電流の波形の観測も重要です。EVカーやエアコンのようなパワー・エレクトロニクスの世界では、電流と電圧を同時に観測して問題解決にあたります。なお、本Webではパワー・エレクトロニクスは扱いません。
AC100V入力側のラインの電流を測ります。電流プローブには高い周波数のノイズを表示しないように10kHzのフィルタをかけています。トランスでは、 入力側は1次、出力側を2次と呼びます。
負荷(2次側)に何もつながないときの1次側の波形です。EIコアは鉄損(てっそん)が多いので、なにもつないでいなくても電流が流れているようです。トランスには銅損もあります。負荷に電流が流れると銅線自体がもつ抵抗によって発熱が起こるのを銅損と呼びます。
負荷50Ωの抵抗を2次側につなぎ、負荷に電流が流れたときの1次側の電流波形です。
トランスの2次側の電流波形です。
ブリッジ・ダイオードを使って整流した波形です。脈流と呼ばれます。電源の周波数50Hzごとに充電と放電が繰り返されます。
電解コンデンサを入れた後では直流になっています。わずかに増減があります。オーディオ・アンプなどでは、ブーンというハム音が聞こえるのはこのわずかな電流(電圧)の変化が原因です。
●ノイズの成分を見る
家庭内のAC100Vラインに上記の電源ユニットを取り付け、2次側のDC出力のノイズをみます。
20kHzまでのスペクトルです。ノイズを見たいので窓関数は矩形を選びました。AC100Vは関東なので50Hzの正弦波ですが、100Hzが強く出ています。
31MHzまでの広い範囲のスペクトルです。
●正弦波出力のインバータをつなぐ
電源をDC12VからAC100Vを作るインバータ出力(60Hz正弦波)を上記の電源ユニットをつなぎました。電流の波形です。家庭のAC100Vラインと同じに見えます。
20kHzまでのスペクトル、窓関数は矩形です。60Hzの2倍である120Hzが強く出ています。500Hz付近から上に、スペクトルのピークの数が少なくすっきりしています。正弦波がほとんどひずんでいない結果と思われます。
しかし、31MHzまでのスペクトルでは、高い周波数のノイズが増えています。インバータ自身から発生していると思われます。
●フィルタ1 1:1のトランス
インバータは、AC100Vラインからのノイズを減らすのを目的で利用しています。周波数を変換することもできます。しかし、上記のように、高い周波数ではノイズが増えています。
AC100Vの1:1のトロイダス・トランスを、インバータのAC100V出力と、EIコアを使った電源ユニットの間に入れました。
20kHzまでのスペクトルです。
31MHzまでのスペクトルです。トロイダル・トランスの性能がよいのか、ノイズはすり抜けていて、ノイズ・フィルタとしての機能を期待したのですが、意味がないようです。
●フィルタ2 コモン・モード・フィルタ
電源ラインに空気中から飛び込んだり、もしくは電源ライン自体に含まれているノイズは、コモン・モード・ノイズといいます。電源ラインは2本あり、ノイズは2本共通に乗っているからです。2本が同じ条件でノイズが乗っていれば、コモン・モード・フィルタで除去できます。
20kHzまでのスペクトルです。1kHz付近から高い周波数に向かってベース・ラインがすっきりしています。
31MHzまでのスペクトルです。ずいぶんすっきりとしたスペクトルになっています。コモン・モード・フィルタが効いていることがわかります。このフィルタは、コモン・モード・コイルの前後にコンデンサが入っていて、フィルタを形成しています。AC100Vラインはインピーダンスが低く、大容量のコンデンサを入れてもフィルタとしての効果はありません。
コモン・モード・コイルはフェライト・コアに10回ほど銅線が巻かれているだけで、インダクタンスはすごく低い値で、50Hzの交流に対しては、ほとんど抵抗になりません。しかし、数百kHz付近から数十MHzの高い周波数に対してはインピーダンスが高くなり、その結果、コンデンサと共にフィルタとして効果が出ます。ノイズは、高い周波数に集中しているので、効果的な働きができます。
コンデンサは、値が大きいものほど広範囲にフィルタの効果が期待できますが、AC100V間に電流が流れてしまうので、最近では4700pFではなく3300pFが多くなってきているようです。電源メーカのノイズ・フィルタのカタログを見ると、コンデンサの容量は幾種類も用意されています。
AC100Vですが、コンデンサは1.5kV以上の耐圧が求められます。これは、電源を入れた瞬間の位相によっては、高電圧が発生するためです。
コモンモード・ノイズは、2本の線が違う経路を通ったり、長さが異なると、ディファレンシャル・ノイズに変わります。日本ではノーマル・ノイズと呼ぶのが一般的です。電子機器の入り口でコモン・モード・ノイズを除去できれば、機器の内部にノーマル・ノイズが入り込むことを避けられます。
電子機器の内部でもノイズを発生するので、入り口だけノイズを取り除くことはできませんが、内部で発生するノイズを機器の外に出さないためにも、フィルタは欠かせません。
※測定日が異なり、極性が入れ替わった測定結果があります。