LTspiceでトランジスタ活用③トランジスタのバイアス回路
トランジスタのアナログ増幅回路を考えるとき、出力の波形にひずみが生じないように、無信号時の出力が電源電圧の中間くらいになるように調整します。そのための調整回路がバイアス回路で、
①固定バイアス回路
②自己バイアス回路
③電流帰還バイアス回路
があります。この中でも電流帰還バイアス回路が主に利用されます。
●固定バイアス回路
固定バイアスの場合は、電源から図に示すR2の抵抗でベースに電流を供給します。この電源電圧VC、ベース-エミッタ間電圧VBE、抵抗値R2とベースに流れる電流Ibの関係は、次のようになります。
Ib × R2 = VC - VBE
コレクタの電圧Vcと負荷抵抗 R1とコレクタ電流 Icの関係を確認します。無信号時のコレクタ電圧は、上下に同じように振れることができるように電源の1/2くらいになるように調整します。
Vc = VC - Ic × R1
2Vc = VC
IcはIbの数百倍の値になっていて、その関係は、
直流電流増幅率 hFE = Ic / Ib = 100~300
となります。ただし 直流電流増幅率hFEはばらつきが大きな特性値で、同じ型番のトランジスタでも数百から7、8百の値になるものもあり、Y、GRなどと選別してグレード分けしている製品もあります。
信号源と電源を追加し、それぞれの素子の値を決めます。最近は、アナログ回路も特別な理由がないとマイコンなどの電源と同じ5Vの電源でテストすることが多くなっているので、5Vの電源電圧とします。
トランジスタは2N2222を選択しました。R2の負荷抵抗の値は数mAの電流を流すことを想定し1kΩの抵抗を設定しました。ベース電流が10μAくらいの電流になるようにR2の値を設定します。
R2 =4.4V / 0.000009A
10μAで440kΩ、9μAで470kΩくらいになります。ここでは470kに設定しています。
信号源は±10mV、1kHzの正弦波を用意し、C1は交流の正弦波信号を加えるため、C2はoutで交流成分のみ取り出すためです。シミュレーションは過渡解析で、10msの期間設定します。
±10mVの正弦波はひずみはありますが、+600mV、-800mVと60倍から80倍に増幅されています。
●自己バイアス
自己バイアス回路の、バイアスの抵抗値を決めていきます。
電源電圧を5Vとして、ベース電流を10μAくらいでR1の負荷抵抗の電圧降下を2Vから2.5Vくらいに想定します。Vbeは0.6Vを想定すると、
R2 =(5V - 2.0 - 0.6)/ 0.00001A
=2.4 / 0.00001
=240000
R2は、入手が容易な220kΩの抵抗値にします。
シミュレーション結果は電源電圧、ベース電流、負荷抵抗が、ほぼ同じ設定になっているので、同じような出力結果となっています。
LTspiceでは周囲の温度の影響を調べることができます。周囲の温度を‐25℃から0℃、25℃、50℃、75℃、100℃に変化させてシミュレーションするために .stepコマンドで次のように設定します。
.step temp -25 100 25
シミュレーション結果は次のようになります。表示されているグラフは交流成分だけ抜き出しているので波形の谷の部分に温度による若干の差が認められますが、大きな影響は認められませんでした。
同じシミュレーション結果ですが、直流成分がカットされていないトランジスタのコレクタの出力波形を示します。
温度の上昇に応じて、波形が電圧の低いほうにシフトしています。
次回、この温度による変化の原因の確認、電流帰還バイアスの設定方法を調べ、増幅された波形のひずみを調べていきます。
(2021/7/17 V1.0)
<神崎康宏>