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固定バイアス回路入力信号の大きさ

 トランジスタの固定バイアス回路(LTspiceでトランジスタ活用③トランジスタのバイアス回路)に関して、読者の方から次のようなご質問がありました。
 ご質問に沿って固定バイアス回路の入出力の関係を調べてみます。

<<質問1>>

 固定バイアス回路ではバイアス抵抗でベース-エミッタ間にほぼ0.7Vかかるようにベース電流が流れていると思います。ここに交流信号を入れたとき交流信号がマイナス値になったとき、ベース-エミッタ間が0.7Vより小さくなり、ベース電流が流れない方向に動き、ひずみなく増幅できないように思ってしまうのですが、なぜ正常に増幅できるのでしょうか。

考え方

  • 入力信号を数十倍から百倍以上の増幅された出力となるので、0.7V以上の入力電圧を加えた場合は電源電圧が約数十Vではクリッピングして歪みのない出力は得られません。
  • そのため、波形を再現できるのは数十mVくらいまでの入力信号のときです。
  • 負帰還回路を追加して増幅度を数倍にした場合は、電源電圧の範囲で0.7Vを超えた範囲でも増幅できることをシミュレーションで示します。

シミュレーションでどのようになるか確認する

 入力信号を変数XSとして、その値を10mVから40mVまで5mV刻みで増加してシミュレーションします。

   SINE(0{XS}1kHz)
   .step param XS 10m 40m 5m

と次に示すように設定します。

 シミュレーション結果は、次のようになります。
 35mV、40mVは上下の両端近くでクリッピングしています。

 10mVは記事で表示してあるので、15mVの結果を次に示します。

 入力30mVくらいから波形の上下に歪みが生じ始めています。増幅器の場合は、歪みのない出力を得る入力信号の大きさは、入力信号×増幅度が出力範囲となる必要があります。


ネガティブ・フィードバック回路を追加して約2倍の増幅度でテストする

 エミッタとGNDの間に、負荷抵抗R1の半分の抵抗値500Ωの抵抗R3をセットします。入力信号100mVから1000mVまで変化させシミュレーションを行います。

 入力が100mV、300mVが1.9倍、500mVで1.86倍、700mVで1.84倍、それ以上は出力がクリップングしています。

マイナス側の入力範囲

 エミッタ-GND間にR3の抵抗を挿入したことにより、次に示すように無信号時の電圧は0.8Vとなります。ベースの入力電圧の範囲は、B-E間電圧にエミッタ電圧を加えたものになります。

<<質問2>>

 (LTspiceでトランジスタ活用③トランジスタのバイアス回路)に示されている固定バイアス回路では、入力振幅何Vまで正常に増幅できるのでしょうか。

 固定バイアス回路の場合は、電源電圧マイナス1Vくらいまでの出力を得ることができます。しかし、トランジスタのばらつきなどで個別に調整する必要があり、電流帰還バイアス回路を利用したほうが安定な回路となります。

(2022/03/17)

<神崎康宏>

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