LTspiceでトランジスタ活用⑥ 電流帰還バイアス
●AC解析を行う
前回の電流帰還回路を利用してAC解析を行います。周波数1Hzから100MHzの範囲で周波数特性を調べます。
前回の回路にAC解析のためのコマンド .ACを追加します。このコマンドの追加はメニュー・バーのSimulate>Edit Simulation Cmdを選択して、次のコマンド入力画面でAC Analysis(AC解析)のタグを選択します。スイープ・タイプをOctaveに、オクターブ当たりのサンプル数を100にして、1Hzから100MHzまでスイープするように設定します。
この設定を行うと過渡解析の .tran 10mの前に;が追加されコメントなっています。解析結果は、次に示すように低域と高域でゲインが減少しています。
●入力部の検討
この回路の入力部のC1、R4、R3がハイパス・フィルタを構成しています。そのため、低域の周波数がカットされているものと想定されます。C1の値を十分に大きな値と考えられる10000μFに変更して、シミュレーションしてみます。
次に示すように、低域の減衰がなくなっています。
●高域の減衰
高域の減衰は、2N2222のもつ高域特性をシミュレートしているものと考えられます。確認のため、理想トランジスタでシミュレーションしてみます。
使用するトランジスタのモデルは、次に示すLTspiceで標準のトランジスタとして用意されているBipolar NPN transistor npnのモデルを利用します。
2N2222のモデルをnpnのモデルに置き換えて、シミュレーションした結果を次に示します。
高域の周波数特性はフラットとなっています。2N2222のトランジスタのシミュレーションの結果では、高域の減衰が認められましたが、この減衰は2N2222の高域特性に起因するものと考えられます。
●コンデンサと抵抗で波形の特性を変える
入力部にコンデンサが接続されていたため、低域の周波数で波高が減衰しました。このようにコンデンサと抵抗を組み合わせた回路で交流波形の特性を変えることができます。
次に示すようなCR回路を3段組み合わせると、移相が60度×3で180度の移相となる周波数が存在します。CR回路を通過するたびに波高は減衰します。この3段分の減衰分をトランジスタの増幅回路で増幅し、その出力を入力にフィードバックすると発振機となることが期待できます。
エミッタに追加したC5は、交流の増幅率を増加するためのものです。このC5が接続されていないと増幅度が足りなくて発振しません。コンデンサを外して試してみてください。
コンデンサの容量を増加すると、発振周波数は低い周波数になります。コンデンサの容量を小さくすると、発振周波数は高い周波数になります。しかし、トランジスタの高域の増幅度があまりよくないので、0.015μFで約700Hzの発振周波数となります。しかし0.01μFにすると発振できなくなります。
波形の部分を拡大すると、次のように正弦波が得られます。380Hzくらいの周波数になっています。
現在は、増幅回路としては一石のトランジスタを利用するよりOPアンプを利用したほうがバイアスも考えずに、目的を実現するためのフィードバック回路を要するだけで安定した結果が得られます。
次回は差動入力回路について検討します。
(2022/06/14)
<神崎康宏>