3端子レギュレータを測る その3 7824で24V以上の電圧を得る
■3端子レギュレータの電圧より、高い出力電圧がほしい
3端子レギュレータICにはいろいろな電圧の製品がありますが、高い電圧は24Vが上限かもしれません。STMicroelectronicsの24V、1A出力の7824を使いました。24V以上の電圧を安定に得る方法を探ります。
使用したオシロスコープはKeysight DSOX3012T(100MHz)、DMMはKeysight 34461Aです。実験用電源はMetronix 541C、電子負荷は菊水電子のModel PLZ 72Wを使いました。
●出力の安定度を見るために0.5A-0.8Aと負荷電流を切り替える
切り替えの周波数は約1.1kHzです。 次に示す接続で測定しており、入出力にコンデンサを入れていない状態です。DMMでは23.9Vを表示しています。
出力端子の電圧は緑色の波形です。AC結合で、24V付近の電圧変動部分だけを表示しています。5Vのときと比べると電圧変動の幅が大きいです。そうはいっても、縦軸は10mV/divなので、変動は少ないです。安定な動作には、出力電圧より入力電圧が3V以上必要なのは、7805と同じです。
◆入力電圧が28V
◆入力電圧が27V
◆入力電圧が26V
入力電圧と出力電圧の差が小さいと制御できていません。ただし、DMMでは23.2Vを表示していました。
ここまでの出力波形を見ながら、出力電圧をかさ上げするときのリファレンスとします。
●GNDに小信号用シリコン・ダイオードを入れて出力電圧を上げる
ダイオードを入れる前に、3端子レギュレータのGNDへ流れる電流を測ります。実験用電源で28Vを入力端子にいれました。出力端子はDMMの読みで23.92Vでした。次の測定結果のように、負荷電流を変化させても、GNDに流れる電流はほとんど変化しません。
出力電流 [mA] | GNDの電流 Ignd [mA] |
---|---|
0 | 4.8 |
100 | 4.8 |
500 | 4.7 |
1000 | 4.7 |
電子工作で使われるダイオードはシリコン・ダイオードが一般的です。ゲルマニウム・ダイオードは使われません。シリコン・ダイオードでも、使用目的で呼び名が変わることがあります。
- 最大でも100mA程度の電流を扱う信号処理で利用するスイッチング用(小信号)ダイオード
- 整流して直流電源に使う目的の整流用ダイオード
整流用ダイオードには、高速といわれる逆回復時間の短いタイプも一般に入手しやすいです。ショットキー・バリア、ファースト・リカバリなどと、製法や機能上の名前があり、スイッチング電源の利用に伴って性能が向上しています。
ダイオード1本はオフセット0.7Vぐらいが得られます。ショットキー・バリア・ダイオードは0.3Vが得られるといわれますが、流す電流によって変化します。電力用デバイスとして注目を浴びているSiCは1.5Vぐらいあります。
負荷電流を0.2Aと0.4Aを切り替えます。電子負荷の最大速度1.1kHzで切り替え、安定度をみます。
◆入力電圧は28.0V
出力端子を測っているDMMの読みは24.58Vです。ダイオードによって0.66V、電圧がシフトしました。
◆入力電圧を29V
安定度に変化はないようです。
●赤色のLED
◆入力電圧を29V
DMMの読みは25.80Vです。1.88V、電圧がシフトしました。
●青色のLED
青色と白色LEDの順方向電圧Vfは、赤色より高いです。DMMの読みは26.70Vです。2.78V、電圧がシフトしました。
◆入力電圧は29V
少し不安定です。
◆入力電圧を30V
上げると、安定になりました。
●6.2Vツェナー・ダイオード
DMMの読みは30.01Vです。6.09V、電圧がシフトしました。
記号上、ダイオードと反対向きに接続します。安定な電圧を得るために、ある程度の電流を流して使います。おおむね数mAです。
◆入力電圧は31V
不安定です。DMMの読みは29.9Vです。
◆入力電圧は33V
安定になりました。
●9.1Vツェナ・ダイオード
DMMの読みは33.3Vでした。定電圧ダイオード=ツェナ・ダイオードにはいろいろな電圧の製品があります。5.xVが温度特性がよく、温度の変化に対して電圧変化が少ないです。5.xV以下だと負の温度係数なので、温度が上がると電圧が下がります。5.xV以上では正の温度係数なので、負の温度係数をもつ一般のダイオードと組み合わせることもあります。
温度係数がすごく小さいのがTL431などの基準電圧デバイスです。現在は、TL431が多くつかわれます。
◆入力電圧は36V
少し不安定です。
◆入力電圧は37V
安定です。
例えば、32V出力が必要であれば、6.2Vのツェナ・ダイオードと赤色LEDの組み合わせが適切です。実際に測ると31.995Vでした。そのとき安定な出力を得るには、入力は36.2V以上必要です。
なお、ダイオード、LEDは製造方法や素材によって電圧は微妙に異なります。
7824を利用する以外に、可変型3端子レギュレータLM317は37Vまでの電圧に対応しているので、32Vぐらいの電圧を利用するときに役立ちます。
バックグラウンド
温度係数;半導体は、温度によって特性が変わります。温度が上がると電流が増えたり、下がったりするので、安定な動作を求めるときには、温度係数を考慮した設計が必要です。
半導体ではなく抵抗も温度係数をもっています。宇宙産業用など特別の製品を除くと、金属皮膜抵抗器の温度係数は数ppm/℃から数十ppm/℃です。ppmは小さなものを表すときに使われます。
1ppm = 0.000001 = 0.0001%
10ppmは0.001%ですから、ほとんど変化しないという優れた数値といえます。
シリコン・ダイオードは、1℃温度が上がると順方向電圧 Vf が -2mV下がります。夏と冬の室温の差が20℃であれば、40mVの差が生じます。電子工作ではほとんど問題になりませんが、室外で利用するときなどは考慮します。
トランジスタのベース-エミッタ間はダイオードとみなせるので、同じく -2mV /℃の温度係数をもちます。
自動車のラジオのように-40℃から+85℃まで動作を保証するような電子機器は、デバイスの選定や回路設計には経験が必要です。