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LTspiceでノイズの検討を行う(3)OPアンプのノイズを調べる

 今回は、アナログ・デバイセズのOPアンプLT1115を用いてLTspiceのノイズ解析を行ってみます。
 LT1115のデータシートに、標準の電圧ノイズは、1kHzで0.9nV/√Hzになると表示されています。次に示す反転増幅回路、非反転増幅回路でノイズ解析を行います。

OPアンプ内部で発生するノイズを確認する

 LT1115の内部で発生するノイズのみを確認するために、最初に、外部に抵抗素子がなくてもすむ次に示す増幅度1のボルテージ・フォロア回路でノイズ解析を行います。ほかの回路に転用するので抵抗のデバイスが挿入されていますが、抵抗値は0です。

ノイズ解析の設定

 メニュー・バーのFile>Simulation>Edit Simulation CMD を選択し、シミュレーション・コマンドの入力画面を表示し、

    output     に     V(out)
    input       に     V3
    Type of Sweep  を     Octave
    Octave当たりの測定点    50
    開始周波数          1
    終了周波数          20k

と設定して、シミュレーションを行いました。


 
 
 シミュレーションを完了した後、回路図のoutのラベルをマウスでクリックすると、V(onoise)の単位帯域幅当たりのノイズ電圧密度が表示されます。

カーソルでグラフから読み取る

 グラフ上部に表示されるV(onoise)の表示データ名をマウスでクリックすると、グラフ面に水平方向と垂直方向にクロスした点線のカーソルが表示されます。マウス・ポインタをカーソルに重ねると、マウス・ポインタはカーソルの番号の1に変わります。カーソルの移動は、マウスでドラッグする以外に、キーボードの上下左右への移動キーでも行えます。
 複数の測定値のラインがある場合、上下の移動キーでそれぞれのラインを選択できます。左右のキーでは、選択されているライン上の横軸(周波数)の設定が行えます。

 ここでは1kHzの周波数で851pV/√Hz(0.851nV/√Hz)が読み取れ、LT1115のデータシートのノイズの標準値の0.9nV/√Hzとほぼ同等になっています。

反転増幅回路で確認

 次に示すR1、R2、R3の抵抗を加えて、10倍のゲインをもった反転増幅回路のノイズ解析を行います。


 

カーソルで1kHzのときの各抵抗、出力などのノイズ電圧を測定

 カーソルを1kHzに設定して、各測定値を読み取ります。V(onoise)は21.84nV/Hz1/2、R1の100Ωの測定値V(r1)は12.87 nV/Hz1/2、R2の1000Ωの測定値V(r2)は4.07 nV/Hz1/2、R3のプラスの入力抵抗100Ωの測定値V(r3)は14.16 nV/Hz1/2 となります。 

LTspiceの測定値を各抵抗の熱雑音の値と比較する

 LTspiceの測定値と、各抵抗素子の室温(300k)での熱雑音の計算値と比較します。熱雑音の計算は、次の式で行います。

  熱雑音の電力 = 4×k×T×R×Δf 

      k : ボルツマン定数   1.38E-23
    T  : 抵抗の温度(絶対温度) K
    R  : 抵抗値  Ω
    Δf : 帯域幅  Hz

 温度は300kとし、LTspiceで測定された値は両辺帯域幅で除算した値の平方根が雑音電圧密度となります。帯域幅は1Hzとして演算の処理は行わずに結果を得ています。

抵抗など 抵抗値[Ω] 計算値 [nV/√Hz] 測定値 [nV/√Hz]
R1 100 1.28 12.87
R2 1000 4.07 4.07
R3 100 1.28 14.16
V(onoise)     21.84


 
 表に示すようにR2の値は計算値と測定値が同様な値になっていますが、R1、R3の値がOPアンプで設定した増幅度に近い差が認められています。LTspiceで得られた値は、ノイズの出力に寄与する部分となります。そのため、±の入力端子に接続された抵抗の熱雑音は、それぞれ増幅度の影響を受けます。

マイナス入力に接続されたR1の場合

 R1はマイナス入力に接続されています。マイナス入力が入力端子になった場合は反転増幅回路となり、R1で生じた熱雑音は反転増幅回路の増幅度R2/R1倍した次のように評価されます。


 R1の出力雑音へ寄与する雑音電圧密度は、 
 となり、LTspiceで測定した値と一致します。

プラス入力に接続されたR3の場合

 R3はプラス入力に接続されています。プラス入力が入力端子になった場合は非反転増幅回路となり、R3で生じた熱雑音は非反転増幅回路の増幅度(1+R2/R1)倍した次のように評価されます。


 R2の出力雑音へ寄与する雑音電圧密度は、  
 となり、LTspiceで測定した値と一致します。

出力ノイズの内訳

 この回路のノイズ源は、R1、R2、R3とLT1115のOPアンプ内部で発生するノイズがあります。この雑音源は、データシートに入力換算雑音電圧は、と表示されています。

 出力に現れる雑音は、それぞれの要素から発生する雑音電圧を、増幅される場合はそれぞれの増幅度を乗じて二乗の和の平方根から求めます。この回路では、次のようになります。


 

    増幅度補正 シミュレーション結果
抵抗など 値[Ω] 計算値 [nV/√Hz] 測定値 [nV/√Hz]
R1 100 12.87 12.87
R2 1000 4.07 4.07
R3 100 14.16 14.16
入力換算雑音電圧 21.53 21.84


 
 
 入力換算雑音電圧を出力雑音電圧に換算するための増幅度は、プラス入力端子に雑音電圧が加わったものとして非反転増幅回路の増幅度で計算しているようです。これで、各素子の雑音電圧をLTspiceでどのように計算しているか確認できました。次回は、ほかのOPアンプ回路でノイズ解析がどのようになるか確認します。

(2020/12/11 V1.0)

<神崎康宏>
 

連載 LTspiceでノイズの検討を行う

(1) LTspice の .noize コマンドを試す

(2) Examplesで雑音指数を調べる

(3) OPアンプのノイズを調べる

(4) OPアンプのノイズを調べる(2)

(5) OPアンプのノイズを調べる(3)