初心者のためのLTspice 入門 オームの法則で回路に任意の電圧を作る(4)抵抗分割で得た電圧に対する前後の回路の影響
■電池の内部抵抗をシミュレーション
最近少なくなりましたが、大容量のヒータやヘアー・ドライヤなどのスイッチを入れたときに部屋の照明などが暗くなることがありました。電池なども、負荷を接続すると負荷を接続していないときより電圧が下がります。電源から取り出す電流に比例して出力電圧の降下が認められます。これは、電源に直列に抵抗を接続しているかのような結果が示されます。この抵抗成分は電源の内部抵抗と呼ばれています。
LTspiceの電源デバイスも、次に示すように電源電圧(DC value[V])とともに、内部抵抗(Series Resistance[Ω])の入力欄も用意されています。
電池などはこの内部抵抗の存在が確認できます。しかし、電源としてよく利用される安定化電源は、定格範囲内の出力電流の場合は、出力電流にかかわらず所定の出力電圧となります。そのため、その範囲では内部抵抗はゼロとみなされます。多くの安定化電源は出力電流が定格を超えると出力電圧が下がり、出力が短絡した場合出力電圧は0となり、安定化電源を保護する回路が働いて回路を守ります。
●電池の内部抵抗を確認する
次に示す回路で電池の内部抵抗を確認します。V1は単三のアルカリ乾電池2本です。新しい乾電池だと内部抵抗が小さいので、少し消耗した乾電池を選びました。抵抗は抵抗値330Ωを用います。
330Ωの抵抗を接続しないとき、乾電池2本を直列に接続したときの電圧を測定します。この電圧がV1の出力電圧となります。
実際のテストは次に示す回路で行いました。次の写真では負荷の抵抗は接続されていません。電池の出力は2.524Vです。
2.497Vが、330Ωの負荷抵抗を接続したときの電池の出力電圧です。
電池の内部抵抗による電圧降下は、
2.524V - 2.497V = 0.027V |
となります。330Ωの抵抗値を実測すると327Ωでした。その抵抗値を用いて、そのときの出力電流を計算すると、
2.497[V] / 327[Ω] = 0.007636[A] |
この結果をLTspiceで確認します。
●乾電池の電圧と内部抵抗を設定
無負荷時の出力電圧と内部抵抗3.535Ωを、次のように電圧源V1に設定しました。
負荷抵抗R1の抵抗値も実測値の327Ωに設定しました。シミュレーションの結果は次に示します。
出力電圧は、実測値と同じ2.497Vです。
ここからは、.stepコマンドでV1の内部抵抗の値を変化させ、該当する出力電圧になる内部抵抗の値を推定する方法を検討します。
ツール・バーの.opのアイコンをクリックしてEdit Text on the Schematicを表示します。エディタの画面をマウスの右ボタンでクリックし、ドロップダウン・リストを表示し、.step Commandを選択します。エディタの部分は見やすくするため縦方向に少し広げてあります。
最初は、内部抵抗値の設定値の範囲を1Ωから50Ωと少し広くとっています。
V1の内部抵抗の値を .stepコマンドで設定したパラメータ変数 内部抵抗値 とします。
シミュレーションの実行結果を次に示します。緑色のラインの内部抵抗値は1Ωで出力電圧は2.5148V、青のラインの内部抵抗値は11Ωで出力電圧は2.442Vです。
次は、2~4Ωの範囲を、0.25Ω刻みでシミュレーションします。
上から7番目のラインが内部抵抗値3.5Ωのラインです。このときの出力電圧は2.4972Vです。この近辺をより細かく設定を行います。
内部抵抗値の値を、3.5Ωから3.6Ωの間と0.01Ω単位の刻み幅でシミュレーションを行います。
上から4番目の緑色の3.53Ωのラインのときの出力電圧は2.497044Vです。
次は、3.53Ωから3.54Ωの間を0.001Ω刻みでシミュレーションして次の桁を決めます。
上から7番目の内部抵抗値3.56Ωのラインの出力電圧は2.496998Vです。出力が2.4970Vになる内部抵抗値は、3.55Ωから3.56の間の値になります。
もう1桁確定するために、次に示すように3.535Ωから3.536Ωの間を0.0001Ω刻みでシミュレーションします。
下から3番目の内部抵抗値が3.5359Ωのとき、シミュレーション結果の出力電圧値が2.4970002Vです。
.stepコマンドを利用して、目的となる変数の値を替えながらシミュレーションを繰り返して絞り込むことで、計算することなく目的の値を定めることもできます。
(2018/3/20 V1.0)
<神崎康宏>