初心者のためのLTspice 入門 ダイオードの動作確認(1)ダイオードのモデル
LTspiceXVIIには、2018年4月現在、744種類のダイオードの実モデル・データが格納されています。シリコン・ダイオード、ショットキー・バリア・ダイオード、ほかツェナー・ダイオード、日亜のLEDなど、各種のダイオードのモデルがありました。
小信号用シリコン・ダイオードの1N4181、ショットキー・バリア・ダイオードRB10L-40(ローム)、デフォルトのダイオードの電圧-電流の関係をDC解析によりシミュレートしました。
メニュー・バー>Simulate>Edit Simulation Cmd で、Edit Simulation Commandのダイアログを表示します。DCsweepのタグを選択します。
Name of 1st Source to Sweepの欄には電圧源V1をセットし、開始電圧を0V、終了電圧を1.5V、インクリメントを0.01Vに設定します。
シミュレーションの実行前に、電圧源V1をマウスの右ボタンでクリックし、DVバリューを空白のままOKボタンをクリックします。これで、電圧源の電圧表示のVがクリアされます。
次に、メニュー・バー>Plot SettingかWaveForm Viewerをマウスで右クリックして、次のメニューを表示しAutorangingのチェックを外してください。
Runを実行した後、最初にD2の電流を表示してください。これで、電流の少ない小信号用ダイオードを基準にしたグラフの目盛り表示になります。D1を先に選択すると120GAなどという天文学的な値になってしまい、スケールの変更が必要になります。
●デフォルトのダイオード(D1)(赤色)
デフォルトのダイオードは真中の赤色のラインで、順方向降下電圧が0.7Vから0.8Vくらいです。
●小信号用のスイッチング・ダイオード(D2)(緑色)
右の緑色のラインは、小信号用スイッチング・ダイオード1N4148の特性です。このダイオードは最大定格が0.2Aで、電源回路より一般の電子回路の中で多く利用されます。図では順方向電圧降下が1.2V以上になっていますが、実際の運用ではこの領域では使用しません。回路シミュレータでは絶対定格以上の電圧を加えても何も被害はありません。感電の危険もないので安心して試してください。
●ショットキー・バリア・ダイオード(D3)(青色)
シリコン・ダイオードはPN接合の整流作用を利用していますが、ショットキー・バリア・ダイオードは、金属と半導体を接合したときに生じる整流作用を利用します。PN接合に比べ順方向電圧が低く、スイッチング特性が良いのでスイッチング電源などによく利用されています。ただし、逆方向耐圧が低く高耐圧が必要な場面では利用できません。順方向電圧降下が小さいため、ダイオードの発熱、損失も少ないので電源回路に利用すると効率が良くなります。低損失の整流回路として利用されます。
●温度の影響を調べる
ダイオードの順方向電圧降下は、温度上昇と負の相関があります。温度の-25℃から100℃まで25℃間隔でシミュレートします。「.step」コマンドで行います。ツール・バーの(.op)アイコンをクリックし、SPICEディレクティブを入力するダイアログを表示します。エディタ画面をマウスの右ボタンでクリックして、次のエディタの画面を表示します。
.step temp 開始温度 終了温度 ステップ幅の温度 開始温度 : シミュレーション開始時の温度、これら温度の検証範囲は、軍事、工業、民生用と用途に報じて範囲が異なります。ここでは日常の生活環境を考えて-25℃を開始温度としました。 終了温度 :ここで設定された温度までシミュレーションを繰り返します。 ステップ幅の温度 :ここで設定された温度間隔でシミュレーション終了温度まで繰り返します。 |
上記のダイアログで設定した条件で行ったシミュレーション結果を次に示します。
各デバイス、温度を変えて、右側から-25℃、0℃、25℃、50℃、75℃、100℃の6本の線で温度変化が示されています。
●小信号用ダイオードの利用範囲の部分を拡大する
上の図では、小信号用ダイオードが使用範囲を大きく逸脱しているので、実際に利用されるときの電流の範囲の部分を拡大しました。
1N4148の小信号用ダイオードのシミュレーション結果のみ表示しました。青が-25℃、赤が0℃と各温度が色分けして表示されています。
この他に、温度を変化させるシミュレーションを行うコマンド「.temp」が用意されています。このコマンドは次のようして使用します。
.temp <T1> <T2> ・・・・ |
T1,T2はシミュレーションを行う温度を示すもので、コマンドの後にリストとして任意の数を設定します。この方法でも温度変化時のシミュレーションが行えます。これは、「.step」を利用した、
.step temp list <T1> <T2> ・・・・ |
と同じ結果になります。
●ツェナー・ダイオードの場合
ダイオードは順方向の電圧に対しては、順方向電圧降下分以上の電圧を加えると電流が流れ出します。逆方向の電圧に対しては、初めは電流が流れませんが、この耐圧は無限でなくある電圧を超えると、急激に電流が流れ出します。これはツェナー降伏、なだれ降伏と呼ばれる二つの機構によって起こります。不純物が多い場合、ツェナー降伏が起こりやすくなります。
このツェナー降伏を利用して、所定の電圧で電流が流れ出す定電圧ダイオード(ツェナー・ダイオード)が作られています。定電圧源として利用されます。
●ツェナー・ダイオードに±の電圧を加える
LTspiceXVIIに用意されていた6.2Vの定電圧出力のツェナー・ダイオード(BZX84C6V2L)に、-7V~1Vの電圧を加えました。
●DC電圧の加え方
DC解析で、開始電圧 -7V、終了電圧1V、刻み幅0.01Vと設定します。また温度の変化に対する状況を確認するために、
.step temp -25 100 25 |
と設定します。前出のダイオードとは異なりマイナスの電圧をかけています。
シミュレーション後の状態では、電流の目盛りが-0.8Aから1.4Aです。このツェナー・ダイオードは1mAくらいの値で使用します。その状況を確認するために、電流の目盛りを-10mA~10mAに変更します。この変更は、電流目盛りをマウスでクリックし設定を変更します。その結果を次に示します。
電圧がプラス側の順方向電圧降下分は、温度の変化に応じてほかのダイオードと同様に大きく変化しています。一方、マイナス電圧を加えて生じたツェナー降伏時の電圧は、温度による変化はほとんどありません。特に1mAの電流が流れているときの電圧は、温度の影響を受けていません。確認のため-1mAを中心にグラフを拡大しました。
拡大したグラフでも-1mAの部分では温度変化の影響を受けず―25℃から100℃まで同じ電圧を示しています。 このため、ツェナー・ダイオードは適切な設定を行えば安定な基準電圧となります。
ダイオードの基本的な動作確認を行いました。各デバイスの基本的な働きを理解しておくと実際の回路での働きを理解するのに役立ちます。またこれらの実際の回路での働きもLTspiceXVIIで確認できます。
(2018/4/30 V1.0)
<神崎康宏>