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初心者のためのLTspice 入門 コイルを利用した電源回路 (4) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(2)

 次に示すように、スイッチング・パルスのONの時間に比例して出力電圧が増加しています。0.002msでは約1.7V、0.005msでは約3.4V、0.008msでは約6.6Vで安定しています。

各パーツに流れる電流を確認する

  • コイルL1に流れる電流I(L1)
  • ダイオードD1とコイルL1の接続点Sの電圧の変化
  • コンデンサC1への電流の入出力の様子とS1のスイッチングの関係

を調べます。S1のスイッチングの様子はV2の波形でわかります。シミュレーション結果のうち、ON時間が0.002msの波形から調べます。波形の様子がわかりやすいように、V2の波形が数個から多くても5個くらいの表示になるようにグラフの時間軸を拡大します。
 また、グラフのペインを追加し、そこにS1のグラフを追加したグラフを表示し、スイッチングのタイミングと各パーツの電流、電圧の変化の関係がわかりやすくなるようにしました。

表示するステップを選択する

 .stepでON時間を0.002、0.005、0.008の3種類でシミュレーションした結果をグラフに表示します。メニュー・バーの Plot Settings>Select Steps を選択して、次の Select Displayed Steps のウィンドウを表示します。1から順番に設定し、各ステップのシミュレーション結果を表示します。

 

ON時間0.002msの場合

 ON時間0.002msの場合のシミュレーション結果を次に示します。
 V2のパルスが1VのHighの状態になると、vtで設定したS1のスレッショルド電圧0.5Vを超えるので、スイッチがONになります。

S1がONになると

 V(s)の電圧は、S1を経由してGNDと同じ電圧になります。
 V(s)の電位がGNDと同じになると、L1にV1の1.5VとGNDの電位差が生じ、V1から電流が流れ込みます。インダクタンスであるため、青色のラインで示すようにS1がOFFになるまで直線で電流が300mAくらいまで増加します。

S1がOFFになると

 V2のパルスが0Vになると、制御電圧がvt=0.5Vより小さくなるので、S1のスイッチはOFFになります。
 ダイオードD1とコイルL1の接続点SはGNDと切り離され、入力電圧V1にコイルに蓄積された電力に基づく電位差が加算された2.4Vくらいの電圧になります。コイルに蓄積された電力は、ダイオードD1を経由して負荷およびコンデンサC1に電力を供給するために電流が流れます。
 コイルに蓄積されたエネルギーがなくなるとコイルL1からの電流はゼロになり、コイルの電位差は0となり、V(s)の電圧は入力電圧V1と同じ1.5Vとなります。出力電圧はこの電圧より高く、次にスイッチが閉じでGNDに接続するまでは、コイルL1に電流は流れません。

コンデンサC1の入出力電流

 負荷R1には、主にコンデンサC1から電流が流れます。V2がHighでS1が導通状態ではコイルからの電流は負荷に流れませんから、コンデンサC1から負荷に電力が供給されます。S1のスイッチがOFFになると、コイルから電流がコンデンサと負荷に流れます。このタイミングでコンデンサは充電されます。より詳しい説明は、次の0.005msの例でグラフを拡大して説明します。

  
ON時間0.005msの場合

 ON時間0.005msの場合のシミュレーション結果を次に示します。グラフの様子をよりわかりやすくするために、グラフを全画面表示にしています。
 V2のパルスが1VのHighの状態になると、vtで設定したS1のスレッショルド電圧0.5Vを超えるので、スイッチがONになります。

S1がONになると

 V(s)の電圧はS1を経由してGNDと同じ電圧になります。
 V(s)の電位がGNDと同じになるとL1にV1の1.5VとGNDの電位差が生じ、V1から電流が流れ込みます。インダクタンスであるため、青色のラインで示すようにS1がOFFになるまで直線で電流が740mAくらいまで増加します。

S1がOFFになると

 V2のパルスが0Vになると制御電圧がvt=0.5Vより低くなるので、S1のスイッチはOFFになります。
 ダイオードD1とコイルL1の接続点SはGNDと切り離され、入力電圧V1にコイルに蓄積された電力に基づく電位差が加算された4.2Vくらいの電圧になります。コイルに蓄積された電力は、ダイオードD1を経由して負荷およびコンデンサC1に電力を供給するために電流が流れます。
 コイルに蓄積されたエネルギーがなくなるとコイルL1からの電流はゼロになり、コイルの電位差は0となり、V(s)の電圧は入力電圧V1と同じ1.5Vとなります。出力電圧はこの電圧より高く、次にスイッチが閉じでGNDに接続するまではコイルL1には電流は流れません。

コンデンサC1の入出力電流

 負荷には、主にコンデンサから電流が流れます。V2がHighでS1が導通状態ではコイルからの電流は負荷に流れませんから、コンデンサC1から負荷に電力が供給されます。S1のスイッチがOFFになると、コイルから電流がコンデンサと負荷に流れます。このタイミングでコンデンサは充電されます。ピンク色のI(C1)が、コンデンサの入出力電流を示します。V(s)が1Vのときは、青のI(L1)のコイルに流れる電流はV1より電力の供給を受けてコイルの電力を蓄えています。その期間のピンク色のI(C1)は、マイナスの値になっています。コンデンサから負荷に電流が流れていることを示します。
 次に、V(s)が0VになりL1からダイオードを経由して電流が流れるときの電流は、青色のI(L1)の右側へ下りの直線となっています。このラインに平行で少し下がったピンク色のラインがI(C1)の電流値で、プラスの値になっています。この期間、コンデンサは充電されます。I(L1)とI(C1)の垂直方向の差が、負荷に供給されている電流です。I(L1)が0になると、コイルからの電力の供給がなくなり、コンデンサから電流が流れます。この期間のI(C1)の値はマイナスの値になっています。

 
 
ON時間0.008msの場合

 ON時間0.008msの場合のシミュレーション結果を次に示します。グラフの様子をよりわかりやすくするためにグラフを全画面表示にしています。
 V2のパルスが1VのHighの状態になると、vtで設定したS1のスレッショルド電圧0.5Vを超えるので、スイッチがONになります。

S1がONになると

 V(s)の電圧はS1を経由してGNDと同じ電圧になります。
 V(s)の電位がGNDと同じになるとL1にV1の1.5VとGNDの電位差が生じ、V1から電流が流れ込みます。インダクタンスであるため、青色のラインで示すようにS1がOFFになるまで直線で電流が1.6Aくらいまで増加します。

S1がOFFになると

 V2のパルスが0Vになると制御電圧がvt=0.5Vより小さくなるので、S1のスイッチはOFFになります。
 ダイオードD1とコイルL1の接続点SはGNDと切り離され、入力電圧V1にコイルに蓄積された電力に基づく電位差が加算された7.4Vくらいの電圧になります。コイルに蓄積された電力は、ダイオードD1を経由して負荷およびコンデンサC1に電力を供給するために電流が流れます。コイルに蓄積されたエネルギーは十分な量があるので、なくなる前にS1が接続されコイルL1にV1からの電流が流れ込みます。

コンデンサC1の入力電流

 負荷には、主にコンデンサから電流が流れます。V2がHighでS1が導通状態ではコイルからの電流は負荷に流れませんから、コンデンサC1から負荷に電力が供給されます。
 S1のスイッチがOFFになると、コイルから電流がコンデンサと負荷に流れます。このタイミングでコンデンサは充電されます。ピンク色のI(C1)は、コンデンサの入出力電流を示します。V(s)が1Vのときは、青色のI(L1)のコイルに流れる電流はV1より電力の供給を受けてコイルの電力を蓄えています。その期間のピンク色のI(C1)は、マイナスの値になっています。コンデンサから負荷に電流が流れていることを示します。
 次に、V(s)が0VになりL1からダイオードを経由して電流が流れるときの電流は、青色のI(L1)の右側へ下りの直線となっています。このラインに平行で少し下がったピンク色のラインがI(C1)の電流値で、プラスの値になっています。この期間、コンデンサは充電されます。I(L1)とI(C1)の垂直方向の差が負荷に供給されている電流です。この場合、十分な電流が供給されているので、I(L1)が0にはなりません。

 
 このように、シミュレーションを行うと、各デバイスに流れる電流の変化、昇圧がどのような仕組みで行われるかよくわかります。
 この回路では、スイッチング周波数、コイルの容量、コンデンサの容量などがキーになる要素です。また、実際の安定化された昇圧電源はフィードバック回路をもち、負荷の状況に応じてデューティ比を変える制御回路で出力電圧が一定になるように働きます。次回は、周波数、コイルを変えると出力はどのように変わるか調べます。

(2018/5/15 V1.0)

<神崎康宏>

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