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初心者のためのLTspice入門の入門(7)(Ver.2) 過渡特性

特性の変化を目視できる過渡特性のシミュレーション


 前回周波数特性を調べ、カットオフ周波数が995Hzであることを確認し、減衰率も-3.01dBであることを確認しました。
 この回路に、0Vから10Vに変化する電圧を加えた時に出力がどのようになるか過渡特性のシミュレーションで調べてみます。カットオフ周波数の周期で切りのいい1msの間10V、0Vと維持するパルス波形を加えてみます。

信号源のパルスの仕様を設定
 Voltageをマウスの右ボタンでクリックし、表示される設定画面で詳細設定のボタンをクリックすると、次に示すVoltage の詳細を設定するウィンドウが表示されます。FunctionsからPULSEを選択してクリックします。選択されたファンクションに応じて入力欄の見出しも変わります。

 
 

パラメータ 意味 設定値
Vinitial[V] 開始時の電圧 ここでは0を指定
Von[V] パルスがHIGHの時の電圧 ここでは10を指定
Tdelay[s] ディレイ・タイム ここでは0を指定
Trise[s]  立ち上がり時間 0.0001mと十分小さな値に ミリ秒
Tfail[s] 立ち下がり時間 0.0001mと十分小さな値に ミリ秒
Ton[s] オンタイム(HIGHの時間) ここでは1ms
Tperiod[s] 周期ミリ秒[ms] ここでは2ms

 メニューバーのSimulate>Edit Simulation Cmdを選択しTransientのタブを選択すると、次に示すように過渡解析の設定のためのウィンドウが表示されます。シミュレーションを開始して4ms間でシミュレーションを終えるようにStop Timeに4mを設定します。mはミリ秒を示します。

 入力欄は、LTspiceXVIIになってから入力データは中央に配置されるようになりました。

 このウィンドウの設定でSpiceの.tranのコマンドが設定され、次に示すように回路図のウィンドウに表示されます。

 電圧源(Voltage Source)にパルスの設定、開始後4m秒後に過渡解析を終えるように設定しました。ツールバーのRunのアイコンをクリックしシミュレーションを行います。マウスでOUTラベルをクリックし、コンデンサの充放電電圧の様子をグラフ表示します。赤いラインがその様子です。
 V1とR1の接続ラインをマウスでクリックすると、青で示すV1の出力でCR回路の入力となるパルス波形が表示されます。

グラフの軸の罫線の表示を変更する
 グラフ画面の右上の最大化のボタンをクリックすると次のようになります。1msの罫線がないので罫線の間隔の変更を行います。

 マウス・ポインタを横軸の見出しの位置にもっていくと、物差し(スケール)の表示に変わります。その状態でクリックすると次に示すように横軸の表の設定ウィンドウが表示されます。罫線の間隔を示すtickが400μs(マイクロ・セカンド)となっています。

 tickの値を400μsから次に示すように200μsに変更して「OK」ボタンをクリックします。

 次に示すように、横軸の罫線の表示を変更することができます。パルスの立ち上がりでコンデンサへ充電を開始し、1ms後にパルスが立ち下がり放電を開始し放電が完了するまでのようすを確認するために、2msくらいまでの範囲をドラッグして拡大します。

 拡大したい部分をドラッグするだけで、グラフの必要部分の拡大が容易に行えます。コンデンサに抵抗を介して充放電する場合の波形は次に示すようになります。

時定数
 CR回路の充放電の様子は抵抗値(Ω)と容量(F)を掛け合わせた値、時定数(τ)を求めると推定することができます。
 今回のCR回路の時定数 τは次のようになります。

     τ =1600(Ω) × 0.0000001(F)
       =0.000160(s)
       =0.160ms

  • 充電時の充電開始後 τ経過後のコンデンサの充電電圧は充電完了時の63.2%になる
  • 放電時の放電開始後 τ経過後のコンデンサの電圧は放電開始時の36.8%になる

 充電経過後の0.160us付近のグラフを拡大しマウス・ポインタをグラフのラインと160usの交点にセットして電圧値を読むと次に示すように、

    x=160.07us   y=6.322V


となります。10Vの入力ですから、6.322は63.22%となり予想値と誤差の範囲で一致しています。


 同様に放電時の状態も調べるために、放電開始後160us付近のグラフを次のように拡大しました。
 1.1600msは放電開始時が1msですので、1.1600msが放電開始後 τ 経過したことになります。


 1.16mの罫線とグラフの交点にマウス・ポインタをセットし座標を読みとります。このときの電圧が 3.669Vとなり36.69%と36.8%に対して少し足りません。
 放電開始時の様子を確認するために放電開始時付近のグラフを拡大すると、次に示すようにコンデンサの充電電圧が入力電圧の10Vまで達していないことがわかります。そのため少し電圧が少なくなりました。


 シミュレータを利用すると、電圧の設定をわかりやすいものに設定したり、パルスも理想的な形状を設定するだけで実現できます。そして何も壊すことなく実現できます。怖がることなくどんな実験もできます。

(2016/2/21 V1.0)

(2017/12/18 V2.0)OSがWindows 7->Windows 10、バージョンがLTspice IV -> LTspice XVIIへの変更に伴い、加筆修正しました。

<神崎康宏>

バックグラウンド

実測;発振器:Analog Discovery2 WaveForm Generator 500Hz,5Vp方形波。オシロスコープ:キーサイト DSOX3012T。

Screen-09-05-02-1.png

連載 LTspice入門の入門

(1) LTspiceの入手とインストール
(2) LTspiceXVIIの起動
(3) LTspiceXVIIのシミュレーション手順
(4) 初めての回路入力 コンデンサと抵抗で回路図を作成する
(5) 初めてのシミュレーション AC解析
(6) グラフ表示を見やすくする方法
(7) 特性の変化を目視できる過渡特性のシミュレーション
(8) はじめての増幅回路シミュレート
(9) はじめての反転増幅器
(10) もうひとつの基本回路‥非反転増幅器
(11) オーディオ用に設計されたOPアンプOPA1622を利用する (1) SPICEモデルの入手
(12) オーディオ用に設計されたOPアンプOPA1622を利用する (2) .stepコマンドで負荷抵抗を変化

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初心者のためのLTspice入門 ◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定
(2) .measコマンド E/I=R
(3) .step .praramコマンド IR=E
(4) 電流源currentで過渡解析 I=E/R

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割
(2) 抵抗分割で得た電圧に対する前後の回路の影響
(3) 抵抗分割で得た電圧に対する後回路の影響
(4) 電池の内部抵抗をシミュレーション

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示
(2) 日本語表示をいろいろ試す
(3) グラフ画面にも日本語表示

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする
(2) LTspiceで出力されるwaveファイルの保存先
(3) BVコンポーネントでいろいろな信号を作る
(4) waveファイルを電圧源として読み込む
(5) waveファイルを有効利用

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路
(2) ダイオードによる半波整流回路に平滑回路を追加する
(3) ダイオードによる全波整流回路
(4) 全波整流回路のリプル
(5) レギュレータICを利用して±の安定化電源を作る

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路
(2) 電圧制御スイッチで負荷をON/OFFする
(3) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(1)
(4) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(2)
(5) ステップアップ・スイッチング・レギュレータ回路(3)