初心者のためのLTspice 入門 AC電源から直流電源を作る(5)レギュレータICを利用して±の安定化電源を作る
センタ・タップ付きのトランス、ブリッジ整流回路、コンデンサによる平滑回路、±のレギュレータICで構成した安定化電源をシミュレートします。
レギュレータICはリニアテクノロジー製でプラス電源は電圧出力が12V固定のものを、マイナス電源は最大電流200mAの可変電圧のものを利用して±12Vの安定化電源にしました。
電源電圧は、前回15Vの電源を得るためにピーク値21VのAC電源でした。今回は12Vの電源なので、3V低いピーク値18VのAC電源をvoltageで用意しました。
●プラス電源
プラス電源はLT1086-12を使用しました。0.5Aの電流を流すため、シミュレーションのテスト時の負荷抵抗を24Ωにしました。
●マイナス電源
マイナス電源は、可変出力のLT1964-SDをコンポーネントのPower Productsの中から選びました。最大電流は200mAです。
●コンポーネントの配置を変える
マイナス電源LT1964-SDは、上記のように配置します。リニアテクノロジー製の多くのICがコンポーネントの中に用意されています。まずSelect Component SymbolのPowerProductsを選択し、LT1964-SDを次のように選択します。
コンポーネントを取り出したときはGNDが下になっています(図の左端)。このコンポーネントを確定する前に、CtrlキーとRキーを押して配置を90度回転します。これを2回続けて180度回転すると上下が変わります(図の中央)。この状態ではINとOUTが反対になっているので、確定せずCtrlキーとEキーを押して左右反転(ミラー)します。これで右端の状態になります。
途中で確定した場合は、ツールバーにある大きな手のひらの形をした移動コマンドを選択し、コンポーネントをマウスでクリックするとコンポーネントはグレイの表示になり、回転やミラー反転ができる状態になります。
●シミュレーション結果
プラス電源のシミュレーション結果を次に示します。
青色のラインが、プラス電源の出力のOUT+の電圧の変化です。赤色がレギュレータへの入力V+2の電圧の変化です。平滑コンデンサCXの容量によってリプルの大きさが変わっています。グラフを拡大すると、次に示すように最小の容量のコンデンサのときのみリプルが生じています(青色がV+2、緑色がVout+に変更)。
この回路では、1200μF以上の平滑用コンデンサの容量が必要なのがわかります。600μFの平滑コンデンサの場合リプルの谷は12V以下になるので、安定化出力にもリプルが現れているのが確認できます。
●マイナス電源のシミュレーション
負荷電流が0.2Aですのでリプルは小さく、安定化出力を維持できないような状態にはなりません。
ただし、リプルが大きい場合、出力にも微小なリプルが現れています。リプルの大きい平滑コンデンサ600μFのシミュレーション・ステップの縦軸を拡大してみます。グラフの軸のメモリの上にマウス・ポインタを持って行くと、マウスが物差しの形になります。この状態で左ボタンをクリックすると、スケールの上限値、刻み幅、下限値を設定するダイアログが表示されます。上限値を-11V、刻み幅を0.5V、下限値を-17.5Vに設定した結果です。
出力には、減衰していますがリプルが残っています。また最初の出力電圧は-12Vより絶対値で少し小さい値になっています。出力が安定するまで少し時間がかかります。
●リプルが少ない場合にも同様な結果
次に示すのは画面でマウスの右ボタンをクリックし、Select Stepsでステップ動作の、平滑コンデンサの容量の大きいものを選びました。この場合は4800μFを選んだ結果です。シミュレーション時間を少し長く500msにして、安定化する様子も確認しました。
平滑コンデンサが4800μFになると、リプルも小さくなります。併せて出力の微小なリプルも小さくなっています。出力電圧は300msくらいから-12Vに収斂し、以後安定しています。回路シミュレータがあると、実際の回路を組み立てる前に随分いろいろなことがわかります。
(2018/4/21 V1.0)
<神崎康宏>
(※)入力と出力の電圧差が3V必要なレギュレータICは初期の製品ですが、現役です。LDOと呼ばれる電位差が0.3~0.8VのレギュレータICのではじめは発振しやすかったり、リプルの抑圧比が低いなど問題がありましたが、最近の製品は急速にそれらの性能が向上しています。