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電流ブースタ・アンプの製作 (4) シミュレーション

  「ひずみの小さい電流ブースタ・アンプはどっち?」のWebページの最後のほうにあるLTspice040.zipをダウンロードします。解凍して出てきたファイルから、current_Boost_A.ascをクリックしてLTspiceを立ち上げます。

 負荷抵抗RLの上にマウスをもっていき、右クリックし、出てくるパネル内で10から10kへ変更します。人の形をしたアイコンをクリックして実行します。プローブをOutへ持っていきマウスのボタンを押すと、次のグラフが得られます。

 電圧源は正弦波50mVの5kHz、非反転増幅回路で10倍に増幅しているので、500mVの出力が得られています。コレクタの電流が見たいので、エミッタ側に10Ωを入れ、抵抗の上にプローブをもっていって電流を表示します。

  -835uAから-910uAの電流が流れています。波形は正弦波の形状をしています。

 次の増幅度を上げます。R1を18kから100kに変更します。増幅度は約50倍です。

 電流の波形がひずんでいます。R1を200kに変更します。

 電流の波形はさらにひずんでいます。出力電圧は5Vなので、100倍正しく増幅されています。

負荷抵抗を小さくする

 負荷抵抗RLを10kから50Ωに変更します。R2は18kに戻し、増幅度は10倍です。

 電流は入力電圧が正のときだけ流れ、0~11mAです。前回の電流ブースタ回路では2SC1815L-GRを使いました。絶対最大電流Icは150mAです。直流のときの値なので、パルスではもっと流せますが、その値はデータシートに書かれていません。

 R1=100kに変更し、増幅度を50倍にします。

 電流は0~50mAと増えました。R1を200kに変更し、増幅度を100倍にします。

 電流は0~100mAになりました。少しピークでクリップしています。負荷抵抗RLを10Ωにします。

 R=10Ω、E=2.2Vなので、電流ブースタの電流は220mAです。シミュレーションの値も220mAでクリップしています。長時間通電すると、小信号用トランジスタは熱暴走して壊れるかもしれません。

 以上の実験から、

  • 増幅度を上げると、コレクタ電流は増える
  • 負荷抵抗を下げるとコレクタ電流は増える

 どうしても100倍の増幅器が作りたいので、RLを70Ωにしました。すると、電流はクリップしていません。取り出せる電流は70mAです。NJM4580DD単体でも約60mA取り出せたので、電流ブースタ回路はほとんど役に立っていないかもしれません。ただ、IC自体から大きな電流を取り出したときに発熱するので、ほかの特性や寿命に影響が出るかもしれません。

R3とR4の抵抗値

 トランジスタのバイアスはダイオードを入れているので約0.6Vです。抵抗値を変化させると何が変わるのでしょうか。上記の最後の回路で、R3=R4を100Ωにします。

 正常な増幅ができていません。R3=R4を1kΩにします。

 正常な動作に見えます。

  • R3=R4を2kΩにするとR3の電流が15mAから3mA
  • R3=R4を3kΩにするとR3の電流が2.5mA
  • R3=R4を4kΩにするとR3の電流が1.6mA

になり、次のように出力波形がクリップしました。抵抗値をさらに上げると、クリップの度合いはひどくなります。

 抵抗R3の電流は小信号用のダイオードに電流が、トランジスタのベースに電流が流れます。シミュレーションのグラフから実際の電圧と電流を読み取ります。

R3、R4[Ω] 抵抗を流れる電流[mA] D1電流[mA] ベース電流[uA] ベース電圧[mV]
100 71.81 71.76 48.8 818
1k 7.32 7.31 6.8 678
1.5k 4.894 4.89 4.0 658
2k 3.677 3.674 2.7 645
3k 2.458 2.456 1.4 626
4k 1.847 1.845 0.9 612
5k 1.479 1.478 0.6 602

連載 電流ブースタ・アンプの製作

(1) 40dBのアンプ

(2) 40dBのアンプの特性

(3) PNP/NPNのトランジスタ

(4) シミュレーション

(5) 実機で動作検証

(6) 中電力のトランジスタ

(7) ダーリントン接続