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トランジスタの働きをLTspiceで調べる(3)2N4401

実際のトランジスタで動作を確認する

 実際のトランジスタを利用してトランジスタの動作の確認をしていきます。10kΩのボリュームでトランジスタのベースに電流を供給します。ベースには直列に10kΩの抵抗が挿入されています。この抵抗の電圧降下を測定してベース電流を求めています。コレクタには50Ωの抵抗を直列に接続し、電流の制限とこの抵抗の電圧降下からコレクタ電流を求めています。

テスト回路
 このブレッドボード上のテスト回路は、LTspiceの回路図では次のようになります。

 ボリュームを1秒間でフルに回転させ、ボリュームのセンタ・タップからの出力電圧を0Vから電源電圧まで変化させます。
 ボリュームはR3とR2の抵抗で表現し、シミュレーションの経過時間に従い変化するようにしてあります。1秒間で最小から最大まで変化し、R3+R2は常に10kΩです。電源は5Vの直流電源を一つ用意しました。最初はデフォルトのNPNトランジスタでテストしました。
 過渡解析をするときに使われるパラメータとしてUICを追加しました。

 .tran 1 uic

 
 トランジスタ回路のベースに回路図に示したボリュームを接続すると、シミュレーションを行うことなく終わってしまいます。同じ回路でトランジスタをFETに交換したら正常にシミュレーションが行われます。トランジスタ回路でもシミュレーションが続行できるようにUICのオプション指定を行いました。この指定で、過渡解析に先立ってSPICEが安定動作点の解を求める処理をスキップするようにします。その結果、中断することなくシミュレーションが行われるようになりました。

シミュレーション結果
 この回路のシミュレーション結果を次に示します。V(n003)はボリュームからの出力電圧で0Vから5Vまで変化します。V(n004)はトランジスタのベース電圧で、0.7Vから0.8Vまで増加しますが、それ以上の電圧になりません。Ib(Q1)はトランジスタのベースに流れ込む電流で、ベース電圧が0.6Vくらいから流れ始めます。

 この電流は、R1の抵抗に流れる電流と同じで、次の式で決まります。

 (ボリュームの出力電圧 - ベース電圧)/ (R1の抵抗値)

  
 このベース電流は、ボリュームの出力電圧を調整することで制御できます。
 デフォルトのトランジスタでは、次に示すように電流増幅率hfeは100前後の値で、コレクタ電流は40mAくらいまで増加しています。

現実に入手できるトランジスタでシミュレーション
 今回使用したトランジスタは、秋月電子通商で10個入り100円で購入した2N4401です。最大定格600mA、Vceo 40Vの3本足のトランジスタです。このトランジスタのシミュレーション・データがLTspiceに用意されています。

2N4401のデータのセット
 LTspiceに用意されたデータは次のようにセットします。トランジスタのシンボルをマウスの右ボタンでクリックすると、次に示すトランジスタの仕様を設定するダイアログボックスが表示されます。
 このダイアログボックスの「Pick New Transistor」をクリックして、トランジスタを選択するウィンドウを表示します。

 表示された次のトランジスタのリストから2N4401を選択し「OK」のボタンをクリックすると、2N4401のシミュレーショ・データがセットされます。

 新しいトランジスタのデータがセットされると、次に示すようにトランジスタのシンボルの表示も2N4401と変わります。

 シミュレーション時間を5秒にしたのは、経過時間とボリュームからの出力電圧の値とほぼ同じ値の表示にするためです。
 トランジスタの回路に接続していない場合のボリュームの出力電圧は、経過時間に対応して直線で変化して経過時間と出力電圧の値は一致しています。ボリュームの出力をトランジスタのベースの回路に接続するとベース回路に電流が流れ、そのためボリュームの変化と出力電圧の関係が少し直線とずれたものになります。


シミュレーション結果
ベース電圧の変化
  V(n004)はトランジスタのベース電圧で、0.6Vくらいまでこの回路に電流が流れないため直線的に増加しています。そのため、ボリュームの出力電圧V(n003)と0.6~0.7Vくらいまで同じ変化を示しています。ベース電流が流れだすとR1の電圧降下分離れていきます。
コレクタ電流の変化
 Ic(Q1)のコレクタ電流は、ベース電流が流れだすのに呼応して流れ始めます。このシミュレーションでは最大85mAまで増加しています。V(n002)で示されるコレクタ電圧は、コレクタ電流が流れないときの電源電圧の5Vからコレクタ電流が増大するに従いR4の電圧降下により下がっています。
 電流増幅率 hfe = Ic(Q1)/Ib(Q1) は、約200の値となっています。

実測の結果
 実測の電源は、5V表示のAC-DCアダプタを電源としてボリュームを変化させながら、SANWAのディジタル・マルチメータPC5000でそれぞれの電圧を測定しました。
 測定は、①ボリュームのタップ電圧、②トランジスタのベース電圧、③R1の電圧降下、④電源電圧、⑤トランジスタのコレクタ電圧、⑥R4の電圧降下です。
 ①、②、④、⑤の測定は電源のマイナス端子をGNDとして測定し、抵抗の電圧降下は抵抗の両端の電位差を測定しました。

 実測値のベース電圧とベース電流の関係を次のグラフで示します。0.7Vくらいからベース電流が流れだし、最大で0.42mAくらいの電流が流れています。シミュレーション結果とほぼ同じ結果が得られています。


 コレクタ電流とベース電圧の関係を次のグラフに示します。

 シミュレーション結果は、ボリュームの変化を横軸にしています。ボリュームのタップの出力電圧を横軸にすると、同一ではありませんが同様なグラフが得られます。タップの出力電圧とベース電流の関係が次に示されています。タップ電圧とベース電流の関係は電流が流れだした以降は直線的に変化しています。シミュレーションでは経過時間でボリュームの変化を表し、ボリュームの変化と出力電圧はベースに流れ込む電流の影響を受けて比例関係にずれが生じているためです。
 電流の変化の範囲、最大値などシミュレーション結果と同様な結果が得られています。



 タップ電圧とコレクタ電流の関係を次に示します。ベースの抵抗を介して加えられる電圧値と出力電流の関係が中間部分では直線的に変化しています。この部分を利用してトランジスタの増幅回路が構成されます。

 次回からは、トランジスタが実際に使用されている具体的な回路をもとに検討を進めます。

(2017/1/4 V1.0)

<神崎康宏>

バックグラウンド

UIC;Use Initial Condition。初期化をせずに計算を始める指定。

トランジスタの働きをLTspiceで調べる

(1) 第1歩

(2) 実トランジスタ

(3) 2N4401

(4) エミッタ接地

(5) .measコマンド

(6) .measコマンドで測定

(7) .measコマンドでAC解析

(8) .measコマンドでDC解析

(9) 定電流回路