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初心者のためのLTspice入門 LCRを用いた回路の検討(3)インダクタ(コイル)のふるまい

 今回は、LCRのLのインダクタを対象に、次の回路でその特性を調べてみます。ピーク値が±1Vで1Hzから1GHzまでの正弦波をインダクタL1に加えます。そのときのL1に流れる電流の値をAC解析で調べます。

AC解析の結果

 AC解析の結果を次に示します。電流値は約60dBから-120dB近くまで減少しています。電圧波形と電流波形との間には、約300Hz以上の周波数からは90°の位相となる関係があります。

 1kHz、1Hz、1GHzの周波数の電流を .measコマンドで測定した結果を次に示します。

pik: i(l1)=(4.03863dB,-89.9088°) at 1000 1.591A
pi1: i(l1)=(58.5549dB,-32.1419°) at 1 846.6A
pig: i(l1)=(-115.964dB,-90°) at 1e+009 1.786μA


        

過渡解析
正弦波を加えた場合

 1kHzの正弦波信号で、4サイクルとなる4msをシミュレーション時間とした結果を次に示します。250μsごとの目盛りになるように修正しています。電流値と電圧値の波形のピークのずれは250μsで、波長の1msの1/4で位相は360×(1/4)で90°となります。ここでは、電流値はほぼ全体がプラスの電流値の範囲の振幅となります。


 
 電流値の振幅の状態を確認するために、シミュレーション時間を400msまで伸ばしてみました。シミュレーション結果を次に示します。電流が流れ始めるときプラスの電流値となり、時間の経過とともにプラス・マイナスのピークとなります。

 このシミュレーション結果の250ms経過した後の4msを、グラフに表示するために時間軸を次のように設定しました。

 電流の軸も+2.8Aから-2.8Aになるように修正してあります。

 電流値は若干プラス側にオフセットがありますが、ほぼプラス・マイナス同等の波形となっています。電流波形と電圧波形の間には90°の位相のずれがあります。

1Hzの正弦波の場合

 1kHzに対して低い周波数1Hzの場合は、最初の4サイクルでプラス・マイナスがほぼ同等な安定した正弦波の電流波形が得られています。AC解析で確認したように位相ずれは少ないものになっています。

1GHzの周波数の場合

 1GHzの場合も1kHzのときと同様に、シミュレーション開始直後の電流波形はプラス側にシフトされた振幅から始まっています。

 このシミュレーション・データのうち、396nsから400nsのデータを表示するように時間軸を修正すると次に示すようになります。

 電流の波形と電圧のピークの位相は90°となっています。電流のピーク値は+1.6μAと -1.2μAの値となり、入力信号の増加に従い大幅に電流値が減少しています。

電流の三角波を加える

 コイルに流れる電流の変化にコイル(インダクタ)のインダクタンスを掛けると、コイルの両端に生じる電圧になります。次の回路では100μHのインダクタ(コイル)に0.5msで1A変化する三角波の電流を流しています。その際インダクタの両端に生じる電圧は、次に示すように±200mVのパルス(方形波)になります。

   V = L × dI / dt = 0.0001 × 1/0.0005
           = 0.0001 × 2000
           = 0.2V = 200mV
   C:  100μH = 0.0001H インダクタの容量
   dI:  1A      インダクタに加わる電流の変化
   dt:   0.5ms    時間 

 

 抵抗器の抵抗値は、加える信号の周波数に無関係に同じ値になります。しかし、インダクタ(コイル)は加える信号の周波数が大きくなるほど電流が流れにくくなります。キャパシタと反対の性質です。
 次回からはLCRの素子を組み合わせて、いろいろな周波数特性をもった回路のシミュレーションを行います。

(2018/6/27 V1.0)


<神崎康宏>

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