初心者のためのLTspice入門 LCRを用いた回路の検討(7)LRフィルタを作る
今回は、カットオフ周波数が1kHz のローカット、ハイカットのLRフィルタ回路を作成し、このフィルタに500Hz と2kHz の正弦波を加算したテスト信号を通します。テスト信号の500Hz と2kHz の成分の大きさをLTspiceのFFTで調べ、フィルタの効果の確認を行います。
LR回路のカットオフ周波数は、次の式で求めます。
f = R /(2πL) f :カットオフ周波数 [Hz] R :抵抗値 [Ω] L :インダクタンス [H] |
カットオフ周波数が1kHz になるように、
R 62Ω L 10mH |
と設定します。回路は次に示すようになります。
●信号源
上記のフィルタのテストのための信号源として、ピーク値±1Vの2kHz と500Hz正弦波を加算したものを用います。この正弦波の加算にはコンポーネントbvを用います。bvのアトリビュートの設定画面でバリューの設定値を次のように設定します。
V=sin(2*pi*2000*time)+sin(2*pi*500*time) |
次に示すように、B1により作成された信号(insig)は、二つのフィルタに供給されハイパス・フィルタ(ローカット・フィルタ)の出力はout1、ローパス・フィルタ(ハイカット・フィルタ)の出力はout2にそれぞれ出力されます。
シミュレーションの結果を次に示します。緑色の波形がフィルタの入力信号insigです。赤のout1がハイパス・フィルタ、青のout2ローパス・フィルタの出力です。
●波形の時間軸を4msとする
各波形の様子をわかりやすくするために時間軸を拡大しました。緑の入力波形に対して、赤のout1、青のout2の波形も共に振幅が少なくなっています。しかし、赤のout1の波形は0.5msの周期の波が大きく、青のout2の波形は赤に比べ0.5ms周期の波形はなだらかになって長い周期の波が赤の波形に比べ目立ちます。
●各波形のFFTの結果
信号源のinsigは500Hz と2kHzの正弦波を加算したものです。このinsigの波形をFFTで解析します。FFT解析で波形の要素となっている正弦波の様子を確認できます。
FFTの対象となるグラフ画面をマウスの右ボタンでクリックします。リストの名からViewを選択し、次に表示されるリストからFFTを選択します。グラフ画面を選択してメニュー・バーからは、View > FFT でも同じになり、これを選択すると、次に示す「Select Waveforms to include in FFT」のFFTの設定ウィンドウが表示されます。
グラフの中の対象となる信号名が選択されています。表示する信号名を選択します。複数の信号名、ノードを選択することもできます。複数の信号名を選択するときは、Ctrlキーを押しながらマウスで該当する信号名をクリックしていきます。
OKボタンをクリックすると解析を始めます。しばらくすると、次の表示する波形の選択ウィンドウが表示されます。複数の解析結果を表示できます。
解析を行った全波形の結果を、Ctrlキーを押しながらマウスで選択しました。
複数の波形を選択すると、次に示すような表示になります。500Hzと2kHzの2種類の正弦波で構成されているのが、この結果からも確認できます。
各波形の様子を確認するために、insig、out1、out2について個別にFFTを行い、表示もリニア表示して0dBから-20dBの範囲を拡大して表示します。
● insigのFTTの結果
500Hzと2kHzのピークの高さはほぼ同じになっています。
縦軸をマウスの右ボタンでクリックすると、次のグラフの縦軸の設定ダイアログが表示されます。LinearをチェックしてDecibel表示をLinear表示に変更します。
リニア目盛りにして確認すると、左側の500Hz のピークの高さと右側の200kHz のピークの高さが、おおよそ705mVでほぼ同様な値になっています。同じピークの500Hz と2kHzの正弦波を加算して作成したので、各波長のピークもほぼ同じピーク値になっています。
●ハイパス・フィルタout1からの波形のFFT
out1の出力波形についてもFFTの処理を行い、結果のグラフ表示の縦軸をDecibel表示からLinear 表示に変更したものを次に示します。
500Hz の波形のピークは約307mVで、500Hzの入力信号insigの半分以下までカットされています。それに対して、2kHzの波形のピークは620mVでinsigとの間であまり大きな変化はありません。
●ローパス・フィルタの出力out2からのFFTの結果
今度はout1と対照的に、500Hz の波形の成分のピーク値は636mVであるのに対して、2kHzの波形の成分は半分以下の314mVまで減衰しています。
ハイパス・フィルタ、ローパス・フィルタのカットオフ周波数は1kHz になるように設定し、insigのテスト信号は1kHz のカットオフ周波数から1オクターブ低下した周波数の500Hz と1オクターブ高い周波数の2kHzの正弦波で構成しています。したがって、ハイパス・フィルタ、ローパス・フィルタにより500Hz 、2kHz の成分の減衰は1kHz を対照軸として対称な減衰曲線を描いています。
今回、コンポーネントbvとFFTを利用してフィルタの動作を確認しましたが、フィルタの特性を確認するには正弦波の掃引によるのが一般的です。
(2018/8/12 V1.0)
<神崎康宏>