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初心者のためのLTspice入門 LCRを用いた回路の検討(5)CR回路とパルス波の中身

フィルタに1kHzのパルスを加える

 正弦波の代わりに、1kHzのパルス波(方形波)を加えてみました。ローカット・フィルタを通過した青色のout1の出力は、急峻な立ち上がりの波形と直流がカットされているのでプラス・マイナスの鋭い形状の波形となっています。
 ハイカット・フィルタを通過した赤色のout2の波形は、もとのパルス波形がプラス電圧だけで構成されており、このフィルタは直流が通過するので、プラス電圧だけの波形となっています。電圧はゆっくりと変化しています。

 フィルタを通過した正弦波は、波形が小さくなっても元の波形と同じ形状をしています。しかしパルスの波形の形状はまったく異なっています。この原因を確認するために、これらの波形をLTspiceの FFT(Fast Fourier Transform)で処理します。

FFT

 FFTは、対象の波形を振幅や周波数が異なった複数の正弦波に分解する処理です。
 十分な波形データを得るために400msの過渡解析のシミュレーション時間を設定し、400パルスの波形データを次のように得ています。
 緑色が入力波形、青色がout1のローカット・フィルタの出力、赤がout2のハイカット・フィルタの出力です。

 

FFTの処理

 シミュレーション結果の波形データをもとに、FFTの処理を行います。グラフ画面を選択して表示されるメニュー・バーのViewを選択すると、次に示すようにFFTを含んだリストが表示されます。

 リストからFFTを選択すると、次に示すFFTの波形選択ウィンドウが表示されます。対象のグラフ表示画面(Plot Pane)に表示されているグラフ・データが反転表示されています。

 入力のパルスのFFTの結果です。
 ピークの最大値は1kHzのとき-7dBで、後3kHz、5kHz、7kHz、9kHz、11kHzと1kHzの奇数倍の周波数にピークが認められ、順番にピークの大きさも減少しています。

out1のローカット・フィルタ出力のFFT

 次は、ローカット・フィルタ出力out1の出力波形のFFT結果です。ピークは1kHz、3kHz、と入力のパルスに含まれているピークと同じです。ただし1kHzのピークの値は-10dBと入力パルスの値より小さな値となっています。

 

out2のハイカット・フィルタ出力のFFT

 次に、ハイカット・フィルタ出力out2の出力波形のFFT結果を示します。ピークは1kHz、3kHz、と入力のパルスに含まれているピークと同じです。ただし1kHzのピークの値は-10dBとout2の入力パルスの値より小さな値となっています。高い周波数の領域はハイカット・フィルタにより大幅にカットされています。

 これらのグラフはピーク値がdB表示で全体像はわかるのですが、1kHz近辺の各信号の大きさをわかりやすくするためにリニアな表示にして各グラフを並べます。
 dB表示をリニアな表示に変更するには、グラフ表示の縦軸をマウスの右ボタンでクリックして、次の縦軸の設定ダイアログを表示します。デフォルトではDecibelがチェックされています。Linearを選択して次のように設定します。

 1kHzのピーク値は、ローカット・フィルタ、ハイカット・フィルタのカットオフ周波数ですので、入力信号に対して-3dBの値になります。
 1kHzの入力はグラフから読み取ると450mV、out1、out2の1kHzの値は320mVでほぼ入力より3dB低下した値になります。

out1

 青色のout1の出力は入力に対して1kHzで3dB低下し、それ以上低い周波数領域の信号を通しません。そのため1kHzのピークは450mVの0.71倍の320mVと-3dBとなっていますが、それ以上の周波数のピークは入力と同じような値になっています。

out2

 赤のout2はハイカット・フィルタからの出力で、1kHzで3dB低下しそれ以後はオクターブあたり6dBの割合で出力が低下します。そのため、赤のグラフでは1kHz以上の周波数のピークはごくわずかとなります。
 比較のため、次に上のグラフの縦軸をもとのdecibel表示にしたものを示します。

 次回は、パルス波はフーリエ級数でどのように表示されるか確認し、要素となる正弦波を発する電源をvoltageで作成し、コンポーネントの bv(Arbitrary behavioral voltage source)で合成してどのようになるか確認します。

(2018/7/9 V1.0)

<神崎康宏>

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