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初心者のためのLTspice入門 LCRを用いた回路の検討(9)電圧依存電圧源のLaplace オプション

 ハイカット(ローパス)フィルタの周波数特性を調べます。メニュー・バーの、

  Simulation >Edit Simulation Cmd


を選択して表示されるEdit Simulation Commandのウィンドウで、AC Analysisのタグを選択します。スイープのタイプはOctaveを選択し、オクターブ当たりのポイントの数を20に設定しました。開始周波数を0.1、終了周波数を1MegHzに設定して、シミュレーションした結果を次に示します。

 次に、波形グラフを全画面表示します。out1、out3はオクターブ当たり6dBの減少でout2、out4はフィルタが2段になっているので倍のオクターブ当たり12dBの減少となっています。位相を見ると、out1、out3は100kHz以上になると90°シフトされています。out2、out4は倍の180°のシフトになります。

 

負荷を接続すると

 out1からout4の各出力に1kΩの抵抗負荷を接続します。シミュレーション結果は次のようになります。

 コンポーネントeの出力のout1、out2には、1kΩの負荷を接続しても出力は負荷の影響を受けず、負荷がないときと同じ出力です。一方out3の出力はピークが0.5と元の信号の半分になっています。これは負荷のR6を接続したことによりR1とR6で入力を1/2に分割するためです。このタイプのフィルタに負荷を接続する場合、フィルタ回路の抵抗値(インピーダンス)より十分大きな抵抗値(インピーダンス)の負荷を接続しないと、フィルタの特性が変わってしまいます。

「R2、C2」と「R3、C3」と2段重ねのハイカット・フィルタ

 out4の出力は「R2、C2」と「R3、C3」と2段重ねのハイカット・フィルタの出力です。R3とC3のフィルタは、R2とC2で構成されるハイカット・フィルタの後段に接続するハイカット・フィルタとなります。そのため、後段のフィルタのR3に使用する抵抗はR2の100倍の抵抗値の100kΩのものを用いています。同じ時定数になるようにコンデンサの容量は1/100の値を設定しています。
 1kΩと100kΩの抵抗が直列に接続されているout4に1kΩの負荷を接続すると、この負荷のため入力信号は1/102に縮小されてしまいます。このように、LCRのみのパッシブ・フィルタでは前後に接続する回路に制限が生じるので、OPアンプなどと組み合わせたアクティブ・フィルタも利用されます。

OPアンプのバッファを利用すると

 OPアンプを等倍の非反転増幅器(ボルテージ・フォロア)としてフィルタの出力を受け、このOPアンプで負荷の1kΩの抵抗をドライブします。

 

シミュレーション結果

 CRフィルタの出力out3、out4は負荷が入力インピーダンスの大きなボルテージ・フォロアだけなので、負荷のないときと同じ波形になっています。そのため、R1、C1のハイカット・フィルタの出力out1、out3、out31が負荷の有無にかかわらず重なり、同一の波形となっています。同様にR2、C2、R3、C3のハイカット・フィルタの出力out2、out4、out41も負荷の有無にかかわらず重なり、同一の波形になりました。

 

OPアンプによるフィルタ回路

ハイカット・フィルタ
 R1とC1で構成したハイカット・フィルタをU3のOPアンプの負帰還回路に組み込み、ハイカット・フィルタとしました。R4の抵抗を10kΩにしたので同じ時定数にするためにC3は0.01μFにしました。負帰還回路のR4、R5が同じですのでゲインは1です。
ローカット(ハイパス)フィルタ
 C2、R2でローカット・フィルタを構成しています。このC2、R2のローカット・フィルタの伝達関数は次のようになります。

  CRs / ( 1 + CR s ) = 0.1[μF] × 1000[Ω] × s / ( 1 + 0.1[μF] × 1000[Ω] × s )
           = 0.0001 * s / (1 + 0.0001 * s )


 E2の電圧依存電圧源のLaplace オプションでローカット・フィルタのシミュレーションを行います。
 このローカット・フィルタをU4のOPアンプの負帰還回路に組み込み、ローカット・フィルタを構成しています。ローカット・フィルタは直流を通過させないので、フィルタの出力はプラス・マイナスの交流信号になります。

  

 

反転増幅器

 OPアンプは反転増幅器として利用しています。そのため、OPアンプからの出力はマイナスの負号が付いた値になります。

ローカット・フィルタのグラフの確認

 out3、out4と同様な波形にするためには、Add Traces to PlotでV(out5)またはV(out6)を選択して、Expression(s) to addの欄で *(-1)を乗算すると重なるグラフが得られます。または、-V(out6)と頭にマイナスを付加するだけでも同じ結果が得られます。

 次のグラフでは、緑のV(out4)の上に、out6に(-1)を乗算した赤のV(out6)*(-1)のラインが重なって赤になっています。青のV(out6)は、0Vのラインを軸に上下対称になっています。

 

ローカット・フィルタのグラフの確認

 ローカット・フィルタの出力out3に反転増幅器のOPアンプの出力out5の出力を反転して、重なるか確認します。次に示すように表示項目を選択します。


 次に示すように、R1、C1のローカット・フィルタ出力の緑色のout3の出力の上にOPアンプのローカット・フィルタの出力を反転した青色の(-1)*out5の波形が重なっています。赤のout5の波形はout3の波形と対象になっています。

 9回にわたって、LCRを利用したフィルタについて、基本的なふるまいの初歩的な事項についてLTspiceで確認を行ってきました。また、LTspiceでは電圧依存電圧源を利用することで実際の回路を用いることなく多様な関数を利用してシミュレーションを行うことができます。さらに、電圧依存電圧源ではLaplace オプションを利用すると伝達関数を利用できることも確認しました。フィルタ回路はOPアンプと組み合わせて多くのアクティブ・フィルタが提案されています。これらについては別シリーズで取り上げます。

(2018/8/14 V1.0)

 <神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門 ◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

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(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144

(2) LTC1144 (2)

(3) LTC1144 (3)