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初心者のためのLTspice入門 スイッチング電源ICのシミュレーション(2)LTC1144(2)

 この電圧コンバータはプラスの電源からマイナスの電源を得られますが、安定化回路は組み込まれていません。そのため、負荷の大きさに応じて出力電圧が変化します。この確認のために、次の回路の負荷抵抗Rloadの抵抗値244Ωを変化させてみます。


 この負荷の抵抗値を変数XLとして .stepコマンドで開始の抵抗値を100Ωで以後倍々に変化して3200Ωまでの6ステップのシミュレーションを行います。
 具体的なコマンドは次のようになります。

  .step oct param XL 100 3.2k 1
     oct : ステップの刻みがオクターブ単位、倍々で変化する
     XL : 変数
     100 : 開始値  3.2k : 終了値
     1  : オクターブ当たりのシミュレーション・ポイント


 Rloadの抵抗値を変数XLとし{}で囲み{XL}と設定します。
 回路図は次に示すようになります。

 

 シミュレーション結果を次に示します。ステップ1の黄緑のラインは100Ωの抵抗で一番負荷が大きく、出力電圧も10V弱の最小になっています。ステップ2の青の負荷抵抗が200Ωで、ステップ3の赤は400Ω、ステップ4の緑は800Ω、ステップ5のピンクは1.6kΩ、ステップ6の灰色は3.2kΩとなります。

負荷が増大するとリプルが大きくなる

 負荷の大きなステップ1の電圧ラインのが一番大きく、負荷が小さくなるに従いラインの幅が狭くなっています。状況を確認するためグラフ画面の波形を書き出しました。ステップ1、2、3ではリプルが確認できます。

 縦軸を-9Vから15Vに変更しグラフ画面だけの表示にしました。ステップ1のシミュレーションで約1V強のリプル、ステップ2のシミュレーションで約0.6Vのリプルと負荷に応じてリプルが小さくなっています。

 

出力電圧、リプルを調べる

 グラフを拡大して詳細を確認することもできますが、.measコマンドで出力電圧の平均値や、リプルの大きさなども測定できます。

出力電圧の測定

 出力電圧は20msくらいまで徐々に電圧が上昇し、その後安定します。そのため、出力電圧を測定する期間を30msから100msまでとして、その期間の平均値を求めることにします。
 ツールバーのop.アイコンをクリックし、Edit Text on the Schematicのダイアログを表示し、テキストの編集面をマウスの右ボタンでクリックして表示されるリストから「Help me Edit」を選択し、次に表示されるリストから「.meas Statement」を選択して.meas Statement Editorで、

  .meas TRAN vout AVG V(out) FROM 30ms TO 100ms


を設定します。

リプルの測定

 同様に、.measコマンドで30msから100msの期間のV(out)のピークtoピークの値を求めてリプルの大きさとします。
 次のコマンドをmeas Statement Editorで設定します。

  .meas TRAN vmn PP V(out) FROM 30ms TO 100ms

 以上の.measコマンドを設定し、シミュレーションを実行後にメニューバーの、

   View >SPICE error log

 
を選択すると、次のエラー・ログが表示されます。

エラー・ログ

 エラー・ログには、ステップごとの変数XLで示した負荷の抵抗値が最初に示されています。次に、30msから100msの期間の平均出力電圧voutが-9.7Vから14.7Vの6ステップの値が示されています。その後、同じ期間のリプル電圧が最大の大きさが1.1V、0.68V、0.37V、0.2V、0.1V、0.05Vと負荷抵抗の減少と同じようにリプルも小さくなっています。

 

リプル電圧を少なくする

 負荷が大きい場合、リプル電圧が大きくなっています。このリプルをより小さくする必要がある場合は、対応の一つとしてC1の平滑コンデンサの容量を増大する方法があります。入力側のC2のコンデンサに接続されているときはC2からC1への充電と負荷へ電流が流れます。その後C2のコンデンサは出力と切り離され、電源からC2への充電が行われます。C2と出力が切り離されている期間はC1に充電された電力が負荷に供給されます。この切り離されている期間の電圧降下を少なくすることで、リプルを小さくできます。
 
コンデンサの容量

 コンデンサに入出力する電流、コンデンサの容量とコンデンサの端子電圧の変化の関係は、次のようになります。コンデンサの同じ電圧の変化であれば、コンデンサの容量を増加すると比例して電流が増加します。リプルの減少にはコンデンサの容量増加が効果的でしょう。C1の容量を50μFに増加して試してみます。

  I = C × dV/dt


 この関係は「初心者のためのLTspice入門 LCRを用いた回路の検討(2)キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい」のページにも説明しているので、そちらも参考にしてください。

 

 出力電圧のラインの幅が大幅に細くなり、リプルが減少していることが期待できます。.measコマンドでの測定結果をエラー・ログで確認します。
 次に示すように、リプルの値vmnは概ね1/5くらいの値になっています。

 次にグラフを拡大して確認します。次に示すように、リプルが縮小したのを確認できます。

 

 次回は/SHDNなどのほかの機能の確認を行います。

 (2018/8/31 V1.0)

<神崎康宏>

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