初心者のためのLTspice入門 スイッチング電源ICのシミュレーション(3)LTC1144(3)
●スイッチング周波数
電圧反転用のコンデンサC2の充放電を切り替えるタイミングを決めるクロックの周波数は、OCS端子で確認できます。
このクロックは、デフォルトでは10kHz、Boost端子に8番ピンのVin(High)を接続すると10倍の可聴範囲を超えた高い周波数となります。可聴範囲のノイズが問題になる場合の対策となります。
それぞれのクロックの状態を、次のようにシミュレーションして確認してみました。
青色はデフォルト10kHzのクロックで、赤色は10倍の周波数のクロックです。U2の電源はU1に接続されているV1を利用しています。接続はラベルINで同じ電源を利用していること示しています。
クロックの周波数は、波形のピークからピークをドラッグして、ステータス・バーに表示される周波数で確認します。約10kHzと約95kHzとなりました。
●シャットダウン端子(/SHDN)
シャットダウン入力で電圧変換の動作が停止することを確認します。シャットダウン入力は、ほかのディジタル出力を想定し、電圧源V2から得ます。
V2の出力は、次に示すPWL(Piece Wise Linear)でシミュレーション開始時間から順番に経過時間と電圧を指定し、この間を直線で結んだ値がV2の出力電圧になります。この設定値が複雑で量が多いときはファイルとして保存し、保存したファイルを読み取り出力電圧を作ることもできます。ここでは電圧が12Vと0Vへの変化を一度行うだけなので、次のように3点の設定だけで済ませました。
開始時 time1 [S] 0 value1[V] 12 time2 [S] 50m value2[V] 12 time3 [S] 50.01m value3[V] 0 |
と次のように開始時は12Vで/SHDNはディセネーブル、50msまでの間12Vの値を持続します。次の0.01ms後には0Vを出力します。この時点で/SHDNはイネーブルになります。
シミュレーションを開始して50.01ms後に/SHDNを0Vにして、電圧変換を停止します。
シミュレーション結果を次に示します。
●赤色のライン
赤色のラインは、/SHDNのシャットダウン入力への制御電圧です。50.01msの時点で0Vになっています。この時点で、DC-DCコンバータ回路の変換機能が停止して、V1からの出力電流が0mA近くになっています。
●茶色のライン
茶色のラインは、V1からこのDC-DCコンバータへ供給される電流が示されています。最初は出力への負荷に併わせて、C1のコンデンサへの充電電流も流れるので大きな値になり、コンデンサの充電が進むと定常状態になります。/SHDNが0Vになると、DC-DCコンバータの機能が停止し、即座に出力V1からの電流の出力も停止しているのがよくわかります。
●青色のライン
青色のラインが変換出力です。シミュレーションの開始時と、-12Vになるのに少し時間がかかっているのは、出力のコンデンサC1の充電のための遅れです。また、シャットダウンされても少しなだらかに出力が0になるのも、コンデンサに充電された電荷が放電されているためです。
●シャットダウン時のVin電流
シャットダウン時の電流を確認するために、V1の出力電流のグラフを拡大しました。15μAくらいの消費電流となっています。データシート上の2~18μAの範囲と示されている値と対応しています。
●スイッチのコンポーネントを利用する
LTspiceでは、実際のスイッチのシミュレーションを行うことのできるコンポーネントもいくつか用意されています。そのなかで、電圧制御スイッチsw(Voltage controlled switch)のコンポーネントを用いて、LTC1144の/SHDNを制御するシミュレーションを行います。コンポーネントswは、次に示すようにスイッチのON/OFFを外部の電圧源によって制御できます。
このスイッチの動作条件を .modelディレクティブで指定する必要があります。今回は次のように設定しました。SWはデバイス名で回路図のデバイス名を記入して、ディレクティブの該当するswを指定します。SW()でスイッチの仕様を指定します。
.model sw SW(Ron=0.01 Roff=10MEG VT=1) Ron スイッチがONのときの抵抗値。デフォルトでは1Ω Roff スイッチがオフのときの抵抗値。十分大きな値を設定する (コントロール・パネルで定義) デフォルト 1/Gmin Gmin=1e-012 VT 制御電圧のスレッショルド値。この値以上でスイッチがON、以下でOFF |
この場合、制御電圧がVTで設定した電圧1V以上ではスイッチがON、1V以下でスイッチがOFFになります。シャットダウンをSWで制御した例を次に示します。
SWの制御電圧としてV2の電源を利用します。V2の出力は50msまでは12V、50.01msからは0Vとなります。スイッチは50msまでONで、/SHDNはHighになりoutはマイナス電圧を出力しています。50.01msからはスイッチがOFFになって/SHDNは0Vになり、出力outは0Vにシャットダウンされます。
●シミュレーション結果
シャットダウン端子、出力電圧、出力電流のシミュレーション結果を次に示します。
当然、前回示したのと同じ結果が得られています。低消費電力の回路を考えるときはプルダウン、プルアップ抵抗に流れる電流も問題になります。この場合はプルダウンしてあるので、シャットダウンの待機時にはこのR1には電流が流れません。待機時の低消費電力化が図れます。
●/SHDNをプルアップすると
/SHDNをプルダウンしていたR1を、プルアップする回路に変更してシミュレーションします。R1をプルアップ接続し併せてSWをGNDとR1およびSHDNの間にセットし、次に示すように接続します。
シミュレーション結果は次のようになりました。スイッチは50msまでONになっていますから、赤色の/SHDNは0Vになり休止状態で青色の出力とともに同じ0Vを示しています。50.01ms以降は/SHDNはHighになり、マイナスの電圧を出力しています。
50msまでのシャットダウンがイネーブルになり、/SHDNが0Vになっている休止時間中にはR1は電源とGNDに接続され12V/100kΩで12μAの電流が流れています。この消費電流はLTC1144の休止時の消費電流の8μA以上の電流になります。休止時や待機時の消費電流が特に問題になる場合のプルアップ抵抗、プルダウン抵抗について留意する必要があります。
(2018/9/5 V1.0)
<神崎康宏>
補足:
LTC1144の/SHDN端子は何も接続していない場合、シャットダウン機能はディセーブルとなります。したがって、電源とスイッチSWの間の抵抗R1はなくても動作します。本文の説明は一般的なプルアップ、プルダウンを前提にしています。
R1を外した次の回路ではプルアップ抵抗がないので、休止時の消費電流の増大もありません。