初心者のためのLTspice入門 スイッチング電源ICのシミュレーション(1)LTC1144
アナログ・デバイセズ(リニアテクノロジー)製の多くの電源ICでは、シミュレーション・モデルと併せてテスト回路も用意されています。秋月電子通商などで入手可能なスイッチング電源ICを題材に、LTspiceでそれらの動作確認を行います。 LTC1144、LTC3202などを当面の題材に予定しています。
●アナログ・デバイセズ(リニアテクノロジー)のスイッチド・キャパシタ電圧反転IC
アナログ・デバイセズ(リニアテクノロジー)のスイッチド・キャパシタによる電圧反転用IC、LTC1144が秋月電子通商で入手できます(@400円)。このICとコンデンサで、マイナス電源が簡単に作れます。このICは次に示すように、8ピンDIP形状なので、ブレッドボードですぐにテストできます。
LTC1144のLTspice用のモデルも用意されています。LTspiceを起動して、ツールバーの新しい回路図をクリックして新規の回路図を開き、コンポーネントをクリックし、[PowerProducts]を選択してLTC1144を選ぶと、次に示すようにこのデバイスのモデルが選択できます。
「Open this macromodel’s test fixture」のボタンをクリックすると、次に示すように、このLTC1144を使用したときのテスト回路が用意されます。
リニアテクノロジーが用意しているテスト回路は、そのままシミュレーションを実行できます。シミュレーションを実行すると次に示すように、15Vの入力電圧から-12Vの出力電圧が得られ、244Ωの負荷抵抗に約50mAの電流が流れています。
緑のV(in)が入力電圧(15V)、青のV(out)が出力電圧(-12V)、赤のI(Rload)が負荷に流れる電流(50mA)です。黄色いLTC1144のデバイスのシンボルをマウスの右ボタンでクリックすると、次に示すようにテスト回路の表示のほかに、リニアテクノロジー社のWebページのLTC1144のページにジャンプすることのできる「Go to Anlog’s website for datasheet」のボタンが用意されています。
このボタンをクリックしてLTC1144の製品情報のページに移動してデータシートを入手できます。ただしリンク先が英語のページで、データシートも英文のものです。次のURLがアクセスされた英文のデータシートのアドレスです。
http://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/1144fa.pdf
データシートは日本語のものもあります。次のアドレスで日本語のデータシートを入手できます(2018年8月現在)。
http://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/j1144fa.pdf
●スイッチド・キャパシタによる電圧反転
スイッチド・キャパシタを利用した電圧反転ICによるマイナス電源は、プラス電源からコンデンサに充電した後に、プラスの電位に充電された端子を内部のスイッチ回路でGND側に接続し、GNDに接続されていた端子をマイナス電圧の出力とします。このスイッチの切り替えを約10kHzの高速で行っています。
LTC1144の内部の仕組みのブロック図をLTC1144のデータシートから転載し次に示します。
●LTC1144の内部ブロック
内蔵の発振器はデフォルトで10kHzのクロックを作成し、そのクロックを1/2に分周して外付けのポンプ・コンデンサ(C1)の充放電を切り替えるスイッチS1、S2のON/OFFを行います。S1とS2のスイッチは一方がONになると他方は必ずOFFになります。
●コンデンサの充電
クロックによりS1がONになると、コンデンサのプラス端子に入力電圧が接続され、マイナス端子はGNDに接続されてコンデンサは充電されます。
●充電が完了後
次のクロックでS1がOFFになり、S2のスイッチがONになります。このとき、コンデンサのマイナス端子が出力に、プラス端子がGNDに接続されます。その結果、出力にはマイナスの電圧が現れます。C2のコンデンサは平滑化のための出力用です。
データシートの図4の回路の外付けのポンプ・コンデンサはC1、出力の平滑用コンデンサをC2と表記しています。一方LTspiceXVIIのテスト回路では外付けのポンプ・コンデンサはC2、出力の平滑用コンデンサをC1と反対の表記となっています。ここでの説明は図4の表記に合わせることにし、LTspiceXVIIの回路の説明は回路図に従います。
●LTC1144の動作を確認
シミュレーション結果をわかりやすくするために、各端子に端子名と同じラベルをつけました。
●シミュレーション結果から動作を確認
コンデンサC2の端子電圧、OSC端子、出力のOUTの電圧を確認しました。C2のプラス端子Cap+は+15V近くまでのパルスの波形になっています。C2のマイナス端子のCap-は-12Vのパルスとなっています。OSCのパルス波形1.5Vくらいの三角波が出力されています。出力電圧のOUTは約-12Vの出力電圧になっています。
波形の細部を確認するために、グラフの時間軸を90msから100msまでの10msに変更します。グラフをドラッグする方法もありますが、マウスの右ボタンで出てくる次に示す水平軸の編集ダイアログボックス内でも、同様の変更ができます。
次に示すように、各波形の様子が少しわかるようになりましたが、細部の確認がまだできません。
99msから100msの表示に変更しました。次に示すように、緑のCap+の波形がプラスに触れているときはコンデンサに充電中、青のCap-のマイナスの波形のとき、コンデンサのマイナス端子が出力に接続され、出力にマイナスの電圧で放電されます。
茶色のV(out)は、C1の10μFのコンデンサによる平滑化作用で若干のリプルはありますが、約-12Vのマイナス電源を出力しています。
このC1の平滑化効果がない場合はどのようになるか確認するために、次に示すようにC1の容量を10pに変更してみました。
次の波形は、C1の容量を1/1000000にして平滑化効果を無視できるようにしてシミュレーションを実施した結果です。Cap-とOUTの電圧波形はほぼ同じ電圧波形になっています。赤の三角波のクロックは2倍の周期となり、波形の上昇期にコンデンサの充電、波形の下降期にはコンデンサから出力への放電となります。放電電圧は約10kHzのパルスとなります。このパルスをC1のコンデンサで平滑化したマイナスの電源となります。
引き続き、次回は負荷の変動に応じた電圧および電流の変化、/SHDNの機能を確認していきます。
(2018/8/21 V1.0)
<神崎康宏>