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初心者のためのLTspice入門 スイッチング電源ICのシミュレーション(4)LTC3261(1)

 LTC3261は、4.5~32VとLTC1144と比べて入力電圧範囲が広く、反転したマイナス電圧出力が得られます。チャージ・ポンプ出力電流は最大100mAで、低静止電流のBurst Modeと低ノイズの固定周波数モードが選択できます。イネーブル端子が用意されているので、外部信号で機能のON/OFF制御を行えます。
 パッケージは12ピンMSOPです。リードのピン間が0.65mmと狭く、手はんだでも利用できますが、マルツエレックからこのICを用いたモジュールIVR3261が販売されています。

LTC3261のテスト回路

 アナログ・デバイセズが用意してあるLTC3261のテスト回路は、コンポーネントのPowerProductsのLTC3261を選択し、次に該当するコンポーネントLTC3261を選択表示します。

 この状態で、「Open this macromodel’s test fixture」のボタンをクリックすると、次のテスト回路が表示されます。

 C-(ピン5):フライング・コンデンサのマイナス側の接続ピン
 C+(ピン8):フライング・コンデンサのプラス側の接続ピン
 Vin(ピン9):入力電源のプラス側の接続ピン。コンデンサのチャージ・ポンプに電力を供給。
 EN(ピン10):High/Lowの論理入力。スレッショルドは約1V。Highのとき、チャージ・ポンプがイネーブルに、Lowではチャージ・ポンプの機能が停止しマイナスの出力は得られなくなる。
 MODE(ピン11)High/Lowの論理入力。スレッショルドは約1Vで、HighのときBurst Mode動作になり、Voutは-0.94×Vinの出力電圧で安定化される。Lowでは固定周波数モードになり、Voutは-Vinの電圧になる。
 RT(ピン2):MODEがGNDに接続されたときの固定周波数モードとなり、この端子の状態により発振周波数が決まる。この端子をGNDに接続すると、デフォルトの500kHzの発振周波数で動作する。
 Vout(ピン4):マイナスの出力電圧がこの端子から得られる。

テスト回路のシミュレーション結果

 上記のテスト回路のシミュレーション結果を次に示します。V(out)の赤の曲線は入力電圧と同じ絶対値ですが、マイナスの-15Vに収斂しています。V(in)の青のラインは、シミュレーション開始後すぐに15V電圧になり安定しています。I(Rload)の茶色のラインは負荷に流れる電流値を示しています。

Modeによるリプルの違い

 次は、モードによるリプルの大きさの違いを確認します。あわせて負荷が変動したときの様子もシミュレーションします。

電流源で負荷の変動をシミュレート

 今回は、負荷の抵抗の値を変数で設定する代わりに電流源Iを用います。シンボル名はcurrentですので、次に示すようにコンポーネントのリストにはcurrentと表示されています。

 currentのシンボルを選択し、回路図に配置します。マウスの右ボタンでシンボルをクリックして、次のIndependent Current Source I1の設定ウィンドウを表示し、仕様の詳細を決めます。
 電流源の動作は、次に示すようにPWLで経過時間ごとの電流値を設定します。

 PWLの設定値が多いので「Additional PWL Points」のボタンをクリックして次の表を表示し、必要な数の設定値を設定します。出力が安定するまでの2ms間は負荷なし、次の2ms間は5mAの電流が流れ、次の2ms間は2mAの電流が流れ、次は6mA、その後は2mAとなります。設定期間以後の電流は最後に設定された値2mAの電流が流れ続けます。

 

Burst Mode動作時のシミュレーション結果

 次に、Mode端子とVin端子を接続してBurst Modeでシミュレーションした結果を示します。負荷抵抗のRloadは300kΩに設定し直して、この抵抗の影響を極めて小さくしています。

 1msを超えると出力も安定し、入力電圧15Vの0.95倍の14.25Vを中心の波形になっています。

負荷の変動との関係を表示

 Plot Paneを二つにして、一つにはV(out))電圧軸を拡大し、変化相がわかるようにします。もう一方のPaneには、赤のV(out)で出力電圧、緑色の-I(C5)-Ix(U1:Vout)の両方の負荷に流れる電流の合計値、青のV(in)の入力電圧、茶色のI(Rload)の抵抗R1に流れる電流を表示します。

 

 負荷へ流れ出す電流の大きさに従って、出力電圧のリプルの数が増大しています。この操作で負荷が変動しても、入力電圧の95%の安定な出力電圧が得られています。

固定周波数モードのシミュレーション

 固定周波数モードでシミュレーションするために、Mode端子をGNDに接続し直してシミュレーションした結果を次に示します。
 赤のV(out)のリプルがなくなっています。負荷の変動があると電圧が若干変動しています。負荷の増大に従い出力電圧は少しずつ低下しています。しかし、リプルはなくなっています。固定周波数モードはノイズが少ないという、データシートの記述が確認できました。

 次回、このLTC3261を使用したモジュールIVR3261DC-DCコンバータ・モジュールを確認します。

(2018/9/14 V1.0)

<神崎康宏>

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