初心者のためのLTspice入門 OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測(8)単一電源でAC信号を大きく振幅させる
AC信号は、プラス側だけでなくマイナス側の振幅もあります。前回は入力信号の振幅がすべてプラス電圧の範囲で振れるように直流の電圧を加えて入力信号としています。今回は、電源電圧の真ん中の電圧を仮想グラウンドとして、振幅を大きく振らせるようにします。
LT1006を使用した非反転増幅器の例を次に示します。
●LT1006のプラス入力に電源電圧の1/2を加える
R3、R4の抵抗で電源電圧を分圧して、その電圧を仮想GND電圧としてOPアンプのプラス端子に加えます。この回路の負帰還回路の-マイナス入力とGNDとの間は、直流的にはコンデンサC2で切断されています。そのため、直流の増幅度は1で、出力の直流分の電圧は入力電圧と同じ電源電圧の1/2となります。C1、C3の内側の入力、出力のAC信号は、電源電圧の1/2の電圧の仮想GNDの電圧を中心に上下に振れた信号となります。
●コンデンサC2でGNDに接続し交流成分を増幅する
負帰還回路は直流分はGNDからコンデンサで切り離されているので、入力、出力が同じ大きさ増幅度1となります。交流成分はコンデンサC2で負帰還回路がGNDに接続されています。C2のインピーダンスが十分小さくなる周波数の範囲では、
(R2 + R1) / R2 |
の増幅率が得られます。
●入力から出力までの各回路での波形の様子
V(IN)の波形は、緑色の波形で0Vを中心に、±0.3Vのピークの正弦波となっています。この波形がC1を通過して青色の波形V(IN2)になります。2.5Vを中心に±0.3Vのピークの正弦波となります。
-INの波形はV(IN2)の波形と同じになるので、V(IN2)の下に重なっています。
OPアンプの出力V(OUT2)は赤の波形で、2.5Vを中心に約±1.6Vのピークの正弦波になっています。その後、C3を通過した出力V(OUT)の0Vを中心に、約±1.6Vのピークの正弦波になります。
単電源のOPアンプの増幅器は、電源電圧の1/2の電圧を仮想GNDとしてプラス電源の範囲で増幅処理を行っています。回路の入力、出力の部分ではC1、C3のコンデンサで直流回路、交流回路の直流分の分離を行い、交流分は通過させています。
●周波数特性を調べる
周波数特性を調べるためにAC解析のシミュレーションを行います。メニュー
Simulation >Edit Simulation Cmd |
を選択し、次に示すようにEdit Simulation Commandのウィンドウを表示し、AC Analysisのタグを選択します。10Hzから10MHzの範囲の周波数特性を調べます。
今回は、INの±0.3V正弦波の信号が、回路の中のそれぞれのポイントでどのような結果になるか調べました。測定ポイントはIN2、OUT2、OUTです。
●IN2のシミュレーション結果
入力信号がC1のコンデンサを通過してOPアンプの入力電圧となるIN2の周波数と信号の大きさの関係は、次のようになります。
C1とR3、R4で構成されたローカット・フィルタを通過するために、カットオフ周波数が約32Hzで低い周波数成分がカットされます。カットオフ周波数fcは、次の式で得られます。
fc = 1 /(2πCR) |
ここで、CはC1、RはR3、R4が平行に接続されたものとみなせます。R4はプラス電源を通してGNDに接続しています。電源のインピーダンスは非常に低いものとみなせるので、R3、R4の合成抵抗は、
R = R3 * R4 / (R3 + R4)= 100k * 100k / 200k = 50kΩ fc=1 / (2π × 0.1μ × 50k) |
で31.83Hzになります。
カットオフ周波数の入力信号に対して‐3dB(0.707倍)となります。入力信号が300mVとわかるように、縦軸をマウスの右ボタンでクリックして、次に示す縦軸の表示の設定画面を表示しLinearを選択しました。Top、Tickなどの設定値はデフォルトで適切な値が設定されていました。
dB表示からリニアの表示に変更され、入力信号が300mVあることが容易に確認できました。
●OUT2のシミュレーション結果
青色のV(out2)でOUT2のシミュレーション結果を示しています。
V(in2)に比べカットオフ周波数が700Hzくらいになっています。これらは負帰還回路のコンデンサC2によるインピーダンスの増加が増幅度の低下を招き、IN2より低域がカットされた結果となっています。
●コンデンサC2の影響を排除してみる
コンデンサC2の影響を受けない場合の周波数特性を確認するために、グラフに増幅回路の増幅率(22k+100k)/22kをIN2に乗算した結果を表示します。グラフの画面をマウスの右ボタンでクリックして、表示されるリストからAdd Tracesを選択し、次の画面を表示します。
V(in2) * (22k + 100k) / 22k |
がC2の影響を受けない場合のOPアンプの出力となります。
茶色のラインが、計算で得られたC2の影響を受けない場合の結果です。低域部での茶色のカーブと青のカーブの差はコンデンサC2による低域のカットのためです。高域部での差は、OPアンプの周波数特性により高域の増幅度が減少しているためです(青色のOUT2の100kHz付近からの出力波形)。
コンデンサのC2の値をC1の影響に比べ十分小さな影響しか与えないようにするために、容量を0.1μから10μFに変更してシミュレーションを行うと、次のような結果を得られました。低域部の青のラインに茶色のラインが重なってコンデンサの影響が無視できます。
●OUTのシミュレーション
C3で直流分をカットした出力を緑色で示します。C3とR5ではOUTに対してローカット・フィルタの構成になっています。カットオフ周波数も318Hzなので、大きくカットされています。
単電源で駆動するOPアンプの場合は、直流カット用のコンデンサはローカットのフィルタの役割も果たします。そのために低域の周波数特性が問題になる場合、コンデンサの容量は注意して選びます。
カットオフ周波数からコンデンサ、抵抗、入出力抵抗を考慮してそれぞれ決めることができます。一方シミュレーションのステップ・コマンドで可能性のある範囲のコンデンサの値を変化させて容易に適切な値を選定することもできます。
アナログデバイセズのADALM2000が、2019/3/27から秋月電子通商でも12,580円で入手できるようになりました。次回、今回のシミュレーション結果を、ADALM2000を用いて実際の回路で確認します。
(2019/3/31 V1.0)
<神崎康宏>