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初心者のためのLTspice入門 OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測(9)LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

 OPアンプの入力IN2の周波数特性を調べます。C1とR3、R4とで構成されたローカット・フィルタとなっています。シミュレーション結果は次のようになります。

 グラフの縦軸がdB表示なので、リニア表示に変更しました。低域はカットされていますが、10kHz以上の周波数になると、位相の変位も0度で電圧値も300mVと入力電圧と同じ値になります。

 各シミュレーション・ラインの測定を行うためのカーソルが二つ、付属カーソルとして用意されています。グラフの上段のトレースラベルV(in2)をマウスの右ボタンでクリックすると、次に示すトレースの編集画面が表示されます。付属カーソル(Attached Cursor)のリストから、Attached Cursorのなし、1st、2nd、両方の表示を選択できます。

 2ndカーソルで位相が0度になるあたりで、出力もマイナス10.45dBくらいで平坦になります。周波数は3.45kHzとなっています。1stのカーソルで出力がマイナス3dB低下する周波数を、カーソルを移動して探します。

 次に示すように、32Hzくらいでマイナス3dBの出力となります。


ADALM2000で実測すると

 LTspiceXVIIでシミュレーションした同じ回路をブレッドボードに再現し、その回路の特性をADALM2000で測定しました。Network Analyzerを選択し、周波数特性を調べます。
 測定にあたって、次のように設定しました。

Reference チャネル1を選択 
 Referenceは、チャネル1またはチャネル2のどちらかを設定します。位相の基準となる信号の入力するチャネルを設定します。ここでは回路図のINのポイントにW1の入力信号接続し、併せてオシロスコープのチャネル1を基準の入力として接続します。

Logarithmicを選択
 周波数の軸を対数に設定します。縦軸にリニアを選択する場合もありますが、周波数の軸は対数表示で利用するのが一般的です。最小周波数は10Hzで、最大周波数は30MHzに設定しました。

入力信号
 入力信号は300mVとキー入力し設定しています。

Display
 Displayの項目は、位相と電圧の表示範囲を設定します。この設定はシミュレーション中、シミュレーション後も変更できます。見やすい範囲に設定・変更できます。

Cursor
 右下にあるCursorをチェックすると2本のカーソルが表示され、このカーソルと測定カーブの交点の測定値が左上に表示されます。


 
出力は相対値

 LTspiceの出力のdB表示は、電圧をdB表示していました。ScopyのdBは、基準になる電圧値に対する相対値で表示されています。そのため、INからの入力電圧とIN2の電圧が等しくなる1kHz以上の高域では、相対値が1となる0dBの表示となっています。
 ‐3dBのカットオフ周波数は約34Hzで、LTspiceの32Hzと誤差の範囲で同等の値となっています。

1kHzの信号の出力

 INの波形とOUTの波形をADALM2000のオシロスコープで実測しました。右下のMeasureを選択すると、オシロスコープに表示された波形の周期、周波数、ピークtoピーク値、平均値の値が表示されます。

 入力値が約300mVで出力が約1.59Vとほぼ想定に近い値となっています。

OUT2、OUTの周波数特性

 LTspiceのシミュレーションに、OUTとOUT2の周波数特性を追加しました。OUT2対してOUTの周波数特性は、C3、R5によるフィルタ効果でより低域がカットされています。高域の周波数特性はLT1006の特性がそのままで、OUT1、OUTで差は認められません。


実際の回路での周波数特性
OUT2の出力

 実際の回路で、OUT2までの周波数特性をADALM2000で実測した結果を示します。
 低域の3dB低下している周波数が68Hzと、IN2に比べ2倍の周波数になっています。これはコンデンサC2による低域での増幅度の低下のためと考えられます。

OUTの出力

 OUTの出力は低域ではC1、C2に追加してC3、R5のフィルタの効果があるために10Hzで‐34dB以下まで低域がカットされ、LTspiceのシミュレーション結果と同様な結果になっています。
 一方、高域は100kHz以上でピークがいくつか生じています。

 実際の増幅の様子を確認するために、1MHzの信号(W1)をINに入力し、チャネル1(1+)でIN、チャネル2(2+)でOUTの波形をオシロスコープでモニタし、次に示します。入力波形にもノイズが入り、出力の波形は大きく乱れ、発振していることがうかがえます。

 フィードバック回路の100kΩの抵抗にパラレルに小容量のコンデンサを接続して、発振を止めることを試みました。
 入力信号を0にして出力を見ると、次のように発振しているのが認められました。

68pFのコンデンサ

 68pFのコンデンサを100kΩの抵抗にパラレルに接続した場合、20kHzくらいから出力の低下が始まり、2MHzで若干のピークがあり、その後低下しています。

15pFのコンデンサ

 100kΩの抵抗にパラレルに接続するコンデンサの容量を15pFに変更しました。高域も100kHzくらいまでは、あまり出力が低下していません。

 15pFのコンデンサを接続したときの1MHzの波形を次に示します。

 LTspiceでは回路の発振までは確認できませんでしたが、その他の状況はLTspiceのシミュレーション結果とADALM2000の測定結果はほぼ同様な結果となりました。ただし、高域の特性はシミュレーションのモデルより実際のLT1006のほうが少し高い領域まで増幅度があり、そのため少し複雑な現象を招いているようにも思われました。

(2019/4/16 V1.0)

<神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門 

OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する