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初心者のためのLTspice入門 OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測(10)低域の周波数特性の改善

 単電源のOPアンプの増幅回路は、直流を分離するためのC1、C2、C3が存在するために、このコンデンサの容量が小さいと低域のインピーダンスが増加し全体の増幅率の低下を招きます。低域のインピーダンスの増加を抑えるために、各コンデンサの容量を0.1μFから10μFに設定しました。
 テスト回路とシミュレーション結果は、次のように低域の増幅率の低下はなくなりました。

500kHzを超えると出力は入力より小さくなる

 LTspiceの周波数特性は、出力電圧のdB表示となっています。一般的には、周波数特性の入力信号は1Vに設定してシミュレーションを行います。そのため、入力信号の大きさは0dBとなります。今回は実際の回路の測定結果と合わせるために、入力信号は300mVとしました。
 実際の回路で入力信号を1Vにすると、出力は電源電圧の範囲を超えてしまうため測定ができません。そのため入力信号を300mVに設定しました。グラフでも入力信号のレベルがわかるように、V(in)も上記の周波数特性の青のラインで載せています。1MHzの周波数では出力は入力信号より小さなレベルに減衰しています。

ADALM2000による実測値

 ScopyのNetwork Analyzerによる回路の周波数特性の測定です。10Hzから30MHzまで300mVの入力正弦波の周波数を変化させながら、出力電圧と位相の変化をADALM2000がScopyの指示に従い自動的に測定してくれます。

 上記の状態から横3本線のメニューのアイコンをクリックすると、左側の測定の選択を行うメニューの項目名および右側の測定や表示の条件などが削除され、グラフ画面を広くとれます。

 同じ実験で回路や測定の条件を変えていないにも関わらず、次のようにところどころにノイズが重なっているところがあります。資料を置くために狭い机の上でブレッドボードをADALM2000の本体の上に載せて測定したときの結果です。ADALM2000の本体から離すと、上記のように外乱はなくなります。

入出力の波形の確認

 周波数が10Hz、ピークが300mVの入力信号に対して、出力信号がどのようになるかシミュレーションで確認します。

 V(in)ピークの測定のため、Attached Cursorの1stを入力、2ndを出力に割り当てます。処理はグラフの上部のV(in)の表示をマウスの右ボタンでクリックすると、Expression Editor V(in)の編集画面が表示されます。Attached Cursorのドロップダウン・リストを表示し、1stを選択します。同様にV(out) の表示をマウスの右ボタンでクリックしAttached Cursorのドロップダウン・リストから2ndを選択し、二つのカーソルを表示します。カーソルの縦軸をそれぞれの波形のピーク値に持っていき、波形のピークと思われる値を測定します。
 その結果を次に示します。V(in)は299.69mVと設定値の300mVと想定されます。V(out)の出力は約1.58Vとなっています。

入力信号が10Hzの場合のADALM2000での測定結果

 Scopyの画面でMeasureをチェックして、ピーク値の測定をADALM2000に任せました。入力信号は300mV、10Hzで、入力、出力をADALM2000のオシロスコープの機能で測定し、次の結果を得ました。

項 目 ADALM2000の実測値 [V] LTspice [V]
V(in) 0.281 0.300
V(out) 1.481 1.58
V(out) / V(in)  5.27 5.27

    V(out)/V(in)は4桁目を四捨五入

 LTspice、実測結果の両方とも、増幅度が5.27とほぼ同等な値となりました。

入力周波数が1kHzのシミュレーションをすると

 同様のAttached Cursorの機能を利用してV(in)、V(out)の値を測定しました。

入力信号が1kHzの場合のADALM2000での測定結果

 それぞれの測定結果は、次のようになりました。

項 目 ADALM2000の実測値 [V] LTspice [V]
V(in) 0.292 0.300
V(out) 1.65 1.65
V(out) / V(in)  5.65 5.5

入力周波数が1MHzのシミュレーションをすると

 周波数1MHz、300mVの入力信号(赤色)を加えたときの出力信号が、次のように得られました。シミュレーション開始時にはプラス側で振幅が始まり、徐々に正弦波は0Vを中心とした振幅に移行していきます。

安定するまでの時間を待って記録する方法

 1MHzの入力信号の場合、波形の形状を確認するために10波形分くらいの時間に相当する10μsの期間をシミュレーション時間としました。出力が安定するまでもう少し時間がかかります。1kHzの入力波形の出力波形は最初の波形から安定した波形となっていました。
 今回は1kHzの1波形分1msを待って10μsのシミュレーション結果を記録し表示するものとします。そのための設定方法は、次のようになります。

入力信号が1MHzの場合のADALM2000での測定結果

 それぞれの測定結果は、次のようになりました

項 目 ADALM2000の実測値 [V] LTspice [V]
V(in) 0.304 0.299
V(out) 1.001 0.638
V(out) / V(in)  3.29 0.21


 周波数特性を調べたとき、LTspiceの結果は1MHzでは入力より出力が減少している結果となり、実測値では高域の減衰も少なく入力より出力が増大し増幅されている結果がここでも確認されました。

(2019/5/1 V1.0)

<神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門 

OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する