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初心者のためのLTspice入門 フィルタ回路の再確認(1)CR回路ローパス・フィルタを2段接続すると

 今回から、10回くらいでLCRのパッシブ・フィルタを扱う場合の入出力インピーダンスの留意点を検討し、この留意点を改善するためにOPアンプなどと組み合わせたアクティブ・フィルタも調べてみます。

一組のCRフィルタは6dB/octで減衰

 CRによるローパス・フィルタは周波数が高くなるにつれて出力の低下を始め、Fc=1/(2πCR)で示される-3dB低下したところをカットオフ周波数として、その後も出力レベルの低下が進み、以後6dB/octの減衰率で出力が低下します。
 次の回路では、カットオフ周波数Fcは計算上1.592kHzになります。

    Fc = 1 / (2π * 1000 * 0.0000001)
      = 1 / (2 * 3.14 * 0.0001)
      = 1592Hz = 1.592kHz


 LTspiceのシミュレーション結果を次に示します。


 次に示すように 1stのアタッチドカーソルを設定して、フィルタ出力が-3dB低下した周波数を測定します。

 -3dBのFcの部分を確認するためにグラフを拡大し、-3dBのラインにカーソルを設定しやすくします。カーソルの測定値も-3.006dBで1.5901kHzとなっています。計算値と同等な結果が得られています。

 アタッチドカーソルの1st、2ndのカーソルを用いて、オクターブ当たりの減衰率を調べます。
 10kHzの出力と20kHzの出力を調べ、次のような結果を得ました。ほぼ誤差の範囲で-6dB/octの結果となっています。


同じローパス・フィルタを直列に接続すると

 同じローパス・フィルタを直列に接続した場合の様子を確認します。次に示すように、1段のCR回路と2段のCR回路に同じ信号を入力し周波数特性を調べました。


 結果は次のようになりました。
 青のV(OUT1)は出力にもう一段CR回路が接続された場合の出力波形です。ピンクのV(OUT3)は単独のCR回路の出力となります。V(OUT1)は出力にCR回路が接続されたためその影響を受け、少し早めに出力の低下が始まっています。位相もその影響を受けて途中に山が作られています。
 赤のV(OUT2)は-12dB/octの減衰率で出力が低下しています。


同じFcだがインピーダンスを変えて接続すると

 2段のCRフィルタのうち、後段のCR回路のインピーダンスを増してシミュレーションしました。2段目の抵抗を10倍の10kΩ、コンデンサの容量を1/10の0.01μFに設定し、時定数は同じにしました。その結果のシミュレーション結果は、茶色のV(OUT5)で示してあります。

 緑のV(OUT4)は、一段のフィルタのピンクのV(OUT3)とほぼ同じ周波数特性となっています。後段のCR回路の抵抗値を上げて前段への影響を削減しているためです。
 茶色のV(OUT5)は赤のV(OUT2)と同じになるはずですが、OUT2の前段のフィルタの特性が後段の入力インピーダンスの影響で単独の特性と異なった特性を示しているためです。

 次に、前後のCRフィルタが相互に影響を与えないようにするため、2段のCRフィルタの間にOPアンプのバッファ挿入してシミュレーションします。


回路間にOPアンプのバッファを用意する

 R6、C6のローパス・フィルタの出力にLT1006のOPアンプを接続し、その後に1kΩと0.1μFのローパス・フィルタを接続し、黄緑のV(OUT7)の出力を得ています。
 V(OUT7)の結果は、後半のフィルタの影響を軽減したV(OUT5)とほぼ同等の結果を得ています。V(OUT2)は、二つのフィルタの入出力インピーダンスの影響のため、異なった周波数特性となっています。

 CR回路のみで構成されたパッシブ・フィルタは前後に接続される回路のインピーダンスの影響を受けます。パッシブ・フィルタの裸の特性は出力インピーダンスが0の信号源から信号を得て、入力インピーダンスが無限大のものに接続することを前提としています。
 次回から、実際の回路にこれらのフィルタ回路を組み込んでみます。

(2019/5/21 V1.0)

<神崎康宏>
 

初心者のためのLTspice入門

フィルタ回路の再確認

(1) CR回路ローパス・フィルタを2段接続すると

(2) フィルタの効果を調べるための信号の作成

(3) ホワイト・ノイズをフィルタにかけると

(4) オールパス・フィルタ

(5) オールパス・フィルタの実測

(6) 入出力波形をADALM2000で観測し90°の位相を確認する

(7) R3の値を100kΩに変更して実際の回路と比較する

(8) OPアンプの発振を止める

(9) サレン・キー型ローパス・フィルタをシミュレート

(10) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計①

(11) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計②


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する

◆OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善