初心者のためのLTspice入門 フィルタ回路の再確認(10)LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計①
LTspiceの .paramコマンドを用いて、フィルタの設計式に基づき各素子の特性値を算出し、シミュレーションして各素子の選定を行うことができます。
今回は、アナログ・デバイセズ社の「OPアンプによるフィルタ回路の設計」(OPアンプ大全、CQ出版)の第6章の各種フィルタの設計方法に従い、サレン・キー型ハイパス・フィルタを設計・シミュレーションし、実際の回路でも試してみます。
回路は、図6-31(117頁)の回路を用い、各素子の値を決めていきます。OPアンプは、手元にあるLT1006を利用します。
●設計するサレン・キー型ハイパス・フィルタ回路図
図6-13(101頁)の回路に、電源とテストのための信号源を追加したものを次に示します。
この回路をもとに、図6-31に示された設計のための手順に従い、フィルタの条件と最初に決める素子の値を決め、その条件を元に残りの素子の値を決めていきます。
(1) カットオフ周波数、C1のコンデンサの容量を設定します。
カットオフ周波数 fo = 10kHz C1の容量 0.1μF |
増幅率(ゲイン)は前回と同じ「2」とします。
フィルタのQは一般的にはピークのない0.707を想定しましたが、予備試験でピークが認められたので0.3、0.5、0.707に設定します。ダンピング・ファクタは、
aa = 1/Q |
とします。Qの値は .stepコマンドで変えます。
LTspiceで設計を行う .paramコマンドで、各素子の特性値などの値を格納する変数とその関係を示す演算式を設定します。
●パラメータの各変数と計算式の確認
まず、必要とする各パラメータの変数の定義と計算式の確認を行います。
中間値 ka = 2π×fo×ca1 カットオフ周波数 ca1 = 0.1μF ゲイン ha = 2 R1 の変数はra1、R2の変数はra2、C1の変数はca1、C2の変数はca2 ダンピング・ファクタの変数 aa = 1/qa (qaは0.707 0.5 0.3) |
●算出のための計算式
ra4 = ra3/(ha-1) ra1 = (aa+ sqrt(aa×aa + (ha-1)))/4ka ra2 = 4/((aa+ sqrt(aa×aa + (ha-1))))×ka |
以上の手順で各素子の値を決めていきます。
●設計手順を .param で記述
① 設計のための初期条件を最初に設定できるようにします。この設定を変更すれば、任意の設計条件に対応できるようになっています。C1とfoの値はパラメータで設定します。Qに対しては、その値によってどのように周波数特性が変わるか確認するために、複数のQの値について次に示す .step コマンドでシミュレーションします。
.param ca1=0.1uF fo=10kHz ha=2 aa=1/qa .step param qa list 0.3 0.5 0.707 |
② 上記の条件で順次設計を進めていきます。最初に中間値kaを求めます。
.param ka=2*pi*fo*ca1 .param ra1 =(aa+ sqrt(aa*aa + (ha-1)))/(4*ka) .param ra2 =4/((aa+ sqrt(aa*aa + (ha-1))))*ka) |
③ R3、R4の値はゲインの設定に関係し、フィルタの特性に関係しません。ここではOPアンプの入力抵抗値を合わせて、R2の値とR4の値を同じにして、その値をもとにR3を決めます。
.param ra4=ra2 ra4= ra3/(ha-1) |
●LTspice に以上の設計条件を計算できるようにする
LTspice で設計条件に従い決めた各素子の値は、それぞれの変数に格納されて値を見ることができません。各素子の値を確認するために .measコマンドでエラーリストに表示できるようにします。
●シミュレーションの結果
以上の条件を設定し、シミュレーションした結果を次に示します。Qが0.707の値では10kHzでピークが生じています。また高域のMHzの周波数では-7dBと低下しています。これはLT1006の高域のゲインが低下しているためと思われます。別途LT1115など高域特性の良いOPアンプとの比較を予定しています。
●グラフを拡大すると
周波数特性を確認するために、グラフを全面表示にして拡大します。カットオフ周波数10kHzのハイパス・フィルタを構成していることが確認できます。ゲインは5.6dBとなっています(入力1Vに対して1.7V)。
●過渡解析で出力波形のチェック
信号源の1Vの信号は青色で表示されています。Qが変わっても入力信号は同じですから、重なって一つとなっています。赤のピークの小さいほうからQが0.3、0.5で、頭がつぶれているのが、Qが0.707のカットオフ周波数でピークが認められたシミュレーションの結果です。
●信号源の周波数を50kHzにすると
信号源の周波数を50kHzにすると、次に示すように、Qの値にかかわらずほぼ同じ値になっていますが、Qが0.3の結果は若干小さなピークとなっています。
50kHzの正弦波の出力は1.7V(P-P 3.4V)となります。
●各素子の設定値を確認する
過渡解析で得られた .measコマンドの結果は、実数演算で実数表示となっています。そのため、各素子の設定値も次に示すようにわかりやすいものになっています。
●実際の回路で確認する
LTspiceのフィルタの設計で得られた値の素子を用いてテスト回路を組み、ADALM2000で周波数特性などを調べて実測値とシミュレーション結果を比べてみます。
Q=0.5時、R1=1685Ω |
●周波数特性の実測結果
Qが0.5のとき、ADALM2000のNetwork Analyzerで周波数特性を次に示します。LTspiceのシミュレーションでは400kHzくらいからゲインが低下していますが、実際の回路では40kHzくらいから低下しています。高域の結果は差がありますが、それ以下の周波数の領域ではLTspiceと実際の回路の結果はほぼ同じようになっています。
●波形の観測
50kHz、1V(P-P 2V)の正弦波を加えたときの、入力波形/出力波形を次に示します。50kHzの信号では少し出力が減少し1.59Vくらいになっています。
●30kHzの信号を用いた場合の結果
周波数を30kHzにすると、次に示すように出力波形は1.78V(P-P 3.57V)となり、LTspiceのシミュレーション結果と同等な値となりました。
Qが0.707時、R1=1252Ω R2=2023Ω。 R3、R4も同じ。 C1、C2 = 0.01μF 使用した素子; カーボン抵抗 R1は1kΩ+220Ω R2 、R3、R4 は2kΩ フィルム・コンデンサ C1、C2は0.01μF |
この条件で周波数特性を測定した結果を次に示します。LTspiceのシミュレーション結果と同様に10kHzの周波数にピークが認められます。高域の特性Qの値とは無関係で同じ様相となっています。
●10kHzの正弦波では
カットオフ周波数の10kHz、1Vの正弦波を入力信号した場合、次に示すように、出力はピークアウトした頭がつぶれたものになっています。これは周波数特性でQが0.707時、10kHzのときにピークが生じているためで、LTspiceのシミュレーション結果と同じになりました。
次に出力が安定している40kHzの正弦波は、Qの値と無関係に1.8Vくらいの値になっています。実際の回路とLTspiceのシミュレーション結果は、高域のゲインが低下している以外はほぼ同様な結果が得られました。
今回、LTspice でフィルタの設計を行い、目的のフィルタの特性をシミュレーションで確認しました。実際の回路でもほぼ同等の結果を得ました。次回は、より高域の特性の良いOPアンプを用いて高域の状況がどのようになるか確認します。
(2020/2/12 V1.0)
<神崎康宏>