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初心者のためのLTspice入門 フィルタ回路の再確認(6)入出力波形をADALM2000で観測し90°の位相を確認する

 前回、AC解析を行いR3の値が10kΩのとき、15kHzの位相が90°になることを確認しました。今回は、過渡解析で15kHzの正弦波をこのオールパス・フィルタに加えて、入出力の位相のずれを確認します。

 位相の確認は、グラフ画面をマウスでドラッグして入出力の波形の位相のずれの時間を調べることで確認できます。大体16μsくらいになり、ほぼ想定の値になっています。

.measコマンドで位相を確認する

 測定は、R3の値を変更したそれぞれの値について .stepコマンドを用いて行います。入出力の波形が0Vを通過するときの、シミュレーション開始時からの経過時間を測定し、入出力波形の経過時間の差を求めます。
 次の図に示すように、シミュレーション開始直後、VRの大きな値の領域では安定していません。そのため、測定は入力波形が0Vを7回クロスしたときから開始することにしました。

入力信号の開始点の経過時間の測定

 経過時間の測定は .measコマンドで行います。CROSS=7を指定して0Vを7回クロスした時点で入力電圧を測定します。このコマンドはTRANを指定しているので、過渡解析のときのみ測定されます。revinは測定した経過時間を格納する変数となります。格納する経過時間はtimeで得られます。WHEN以下に、測定するタイミングが指定されています。入力信号電圧V(in)が0Vを7回交差した時点を指定しています。

  .meas TRAN revin FIND time WHEN V(in)=0 CROSS=7

 同様に、次の .measコマンドで経過時間を測定した入力電圧に対応する、出力電圧V(out)が0Vとクロスしたときの経過時間を測定します。経過時間はrevoutに格納されます。

  .meas TRAN revout FIND time WHEN V(out)=0 CROSS=8

周期の測定

 今回、位相は次の方法で測定します。

  (入出力波形のずれの時間/波形の周期)× 360°


 周期の計算は、次の .measコマンドで行います。revinを測定したのは7回目のクロスですから、180°の1回目と360°の2回目を追加した9回目の0Vのクロス・ポイントの経過時間との差から周期を求めます。求めた結果は変数prdに格納されます。

  .meas TRAN prd FIND time-revin WHEN V(in)=0 CROSS=9

 周期は、入力信号として設定された正弦波の周波数からも求められます。

  周期 = 1/周波数 = 1/15000 = 0.0666ms

位相の測定

 位相の測定は次のコマンドで行いました。

  .meas TRAN ph FIND 360*A/prd WHEN V(in)=0 CROSS=9


測定結果はメニューバーのView > SPICE Error Logで表示される

 次に示すSPICE Error Logには、最初に各ステップの変数vrのオームの単位での値、.measコマンドで測定された各ステップごとの値が記録されています。step1はVRが10kΩ、step2は33kΩ、step3は68kΩ、step4は100kΩです。

revinの測定結果

 revinの値は入力信号の経過時間なので、vrの値に関係なく0.0002の値になっています。0.2ms(200μs)で赤の入力ポイントのINのグラフが200μsで0Vと交差しています。
 この値が基準になります。

revoutの測定結果

 step1、step2、step3ではvrの値の増加に応じて経過時間も延びています。しかし、step3とstep4の間ではわずかの違いになっています。グラフの表示と同様になっています。

revoutとrevinの差の測定

 revoutとrevinの差を変数 A にセットします。下の図では .meas TRAN A FIND revout ? revin WHEN V(out)=0 CROSS=8で計算しましたが、FINDをPARAMに変更すると次のようにシンプルになります。

  .meas TRAN A PARAM revout - revin

 結果は次のようになります。atの項目はありません。


    Measurement: a
        step         revout-revin
          1                1.6551e-005
          2                2.7235e-005
          3                3.04393e-005
          4                3.13624e-005

周期prdを求め位相phを計算

 次に、revinを求めた時点を開始ポイントして2回クロス・ポイントを追加した時間までを周期とします。この周期の終わりの時間からrevinの時間を引いたものが周期prdとなります。入力と出力の波形のずれAを周期で割り、360°をかけると位相の度数になります。

 入力信号周波数が15kHzのとき、R3の値を変えたときに入力出波形の位相は次のようになります。実際の回路でも同じ結果になるかADALM2000で確認します。

    R3が  10kΩ  69°
       33kΩ  147°
       68kΩ  164°
       100kΩ  169

 回路は次に示す、前回周波数特性を測定したものを用いました。


   
R3が10kΩ時の位相の実測値

 ADALM2000をPCと接続しScopyを起動します。次に示すScopyの初期画面(Home)では、ADALM2000との接続処理を行います。

 次のPower Supplyの画面で、プラス/マイナス5Vの2電源の設定と、Enableボタンをクリックして電源の供給を行います。

信号源の正弦波の設定

 次のSignal Generatorの画面で、Waveformボタンを選択し信号源を正弦波に設定します。Amplitudeを2V、Frequencyを15kHzに設定し、runボタンをクリックしてW1端子から信号を送出します。

回路上のV(in)、V(out)の信号をオシロスコープの機能で確認

 チャネル1(橙1+)を入力のINに、チャネル2(青2+)を出力のOUTに接続し、Runボタンをクリックして測定を開始します。
 橙色のラインが入力信号の波形で、紫色の波形が出力信号の波形です。ピークまたは0Vとの交点が周期の1/4くらいずれているのが確認できます。

波形の測定(Measure),カーソル(Cursors)による特定のポイントの測定

 右下のMeasureを選択すると、次に示すように周期(Period)、周波数(Frequency)、ピークtoピーク、平均値(Mean)について、チャネル1は橙色、チャネル2は紫色で表示されます。周期は66.6μs、周波数は15kHz、P-Pは1.92Vの結果が得られています。


 右下のカーソル(Cursors)を選択すると、縦軸、横軸それぞれ二つのカーソルが利用できるようになります。ここでは横軸について、橙色の入力と0Vの交点および紫色の出力と0Vの交点にカーソルを設定しました。


 CurT1でチャネル1のカーソルの位置のタイミングを49.286μs、チャネル2はCurT2で32.542μsと表示されています。この二つの値の差16.744μsとその逆数が表示されています。横軸結果はCurV1、CurV2でカーソルの位置の電圧が表示されています。
 ADALM2000の測定結果です。

  ADALM2000 LTspice
周期 [μs] 66.6 66.66
差  [μs] 16.744 16.551
位相 [°] 90.5 89.38

 R3が10kΩの回路のとき、LTspiceと実際の回路での様子がほぼ同等な結果が得られました。次回、ほかの抵抗値に変更して結果を確認してみます。

(2019/11/6 V1.0)

<神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門

フィルタ回路の再確認

(1) CR回路ローパス・フィルタを2段接続すると

(2) フィルタの効果を調べるための信号の作成

(3) ホワイト・ノイズをフィルタにかけると

(4) オールパス・フィルタ

(5) オールパス・フィルタの実測

(6) 入出力波形をADALM2000で観測し90°の位相を確認する

(7) R3の値を100kΩに変更して実際の回路と比較する


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する

◆OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善