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初心者のためのLTspice入門 フィルタ回路の再確認(4)オールパス・フィルタ

 次に示す回路はオールパス・フィルタです。出力の振幅は一定ですが、位相が低域では0°となり、高周波数の領域では-180°と通過する信号の周波数に応じて変化します。R3とC1の値によって、

  f = 1 / (2πCR)

の周波数では、位相は-90°になります。


LTspiceで位相の状況をシミュレーションする

 V1、V2のvoltageでOPアンプの±電源を用意し、V3のvoltageでテスト回路の正弦波の信号を供給するようにしました。
 R1、R2は10kΩ、R4の負荷抵抗は1kΩに設定し、C1は0.01μF、R3は変数VRとして .stepコマンドで1kΩから50kΩまで変化させています。


AC解析

 OPアンプ大全には、0Hzで0°と説明されていました。AC解析ではスタート周波数は正数値を設定しなければならないので0.1Hzと設定し、500kHzを終了周波数としました。
 抵抗R3の値は、

     Step1  1000Ω
     Step2  2000Ω
     Step3  4000Ω
     Step4  8000Ω
     Step5  16000Ω
     Step6  32000Ω
     Step7  50000Ω


と変化します。
 Step4のR3が8000Ω、C1が0.01μFのときに位相が-90°になる周波数を、次のように計算します。

    f = 1 / (2πCR)
      = 1 / (2π × 8000 × 0.00000001)
      = 1989Hz

 R3が8000Ω、C1が0.01μFで位相が-90°になる周波数は1989Hzと計算されました。

 グラフ画面を拡大して次に表示します。
 R3が8000Ωのシミュレーションの位相の結果は緑色の鎖線のラインで、-90°の位相で2kHzの左側で交差しています。計算値と同等の値となっています。

 Step4の結果のみグラフ表示するために、グラフ画面をマウスの右ボタンでクリックし表示されるリストからViewを選択し、次に表示されるリストからSelect Stepsを選択します。この操作で表示される次のSelect Displayed Stepsのウィンドウから該当するStep4を選択します。

 この操作で、グラフには選択されたシミュレーション結果のみ表示されます。

R3とC1を入れ替える

 R3とC1ではローパス・フィルタを構成しています。これを入れ替えるとハイパス・フィルタになります。次は、R3とC1を次のように入れ替えてハイパス・フィルタに変更してテストします。
 シミュレーション結果を次に示します。出力の振幅は高域まで一定で、位相の変化も同様な変化を示しています。



 次のようにグラフの画面を拡大して様子を確認します。位相の変化が周波数の低いところの0.1Hzでは180°で周波数の増加に従い0°に収斂します。

  f = 1 / (2πCR)

で示される周波数fの位相は、90°になります。


 次回は、2次のオールパス・フィルタについてシミュレーションし動作を確認します。

(2019/10/3 V1.0)

<神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門

フィルタ回路の再確認

(1) CR回路ローパス・フィルタを2段接続すると

(2) フィルタの効果を調べるための信号の作成

(3) ホワイト・ノイズをフィルタにかけると

(4) オールパス・フィルタ

(5) オールパス・フィルタの実測

(6) 入出力波形をADALM2000で観測し90°の位相を確認する

(7) R3の値を100kΩに変更して実際の回路と比較する

(8) OPアンプの発振を止める

(9) サレン・キー型ローパス・フィルタをシミュレート

(10) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計①

(11) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計②


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する

◆OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善