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初心者のためのLTspice入門 フィルタ回路の再確認(9)サレン・キー型ローパス・フィルタをシミュレート

 今回は、アナログ・デバイセズ社の「OPアンプによるフィルタ回路の設計」(OPアンプ大全、CQ出版)の第6章の各種フィルタの設計方法に従い、サレン・キー型ローパス・フィルタを設計・シミュレーションし、実際の回路でも試してみます。
 回路は、図6-12(100頁)の回路を用い、各素子の値を決めていきます。OPアンプは手許にあるLT1006を利用します。

 回路図の各素子の値を116頁の設計方法に従い決めていきます。抵抗の抵抗値、コンデンサの容量値を .paramディレクティブを使って変数で指定します。そのほかにフィルタのゲイン、Q、カットオフ周波数などについても .paramディレクティブを使って変数で定義します。

各素子の値を変数にする

 抵抗値は、R1の抵抗値の変数はra1とし{ra1}と書き換えます。その他の抵抗も、抵抗値を{ra2}、{ra3}、{ra4}と書き換えます。コンデンサの容量も、同様に{ca1}、{ca2}と変更します。電源のV1、V2は、それぞれ5VのDC電源に設定して±5Vの供給電源とします。

 V3は、テスト回路の信号源としてAC解析のため1Vの正弦波を発生できるようにAC 1の設定をしています。過渡解析のために10kHz、1Vの正弦波(SINE波)が出力できるように設定しておきます。
 


回路の各設定値を決めていく

(1) コンデンサC1、抵抗R3の値をまず決めます。ここではC1を0.1μF、R3を10kΩとします。

(2) フィルタのカットオフ周波数fo、フィルタのゲインha、Qの逆数となるダンピング・ファクタを決めます。ここではQを設定して .paramの計算式の中で逆数にしています。
 ここまでの処理が、次の .paramディレクティブで示されます。

  .param ca1=0.1u ra3=10k fo=10k ha=2 aa=1/0.707

 0.707はQの値です。このQの値を .stepディレクティブで変化させピーキングとの関係を調べることができます。その他の設定値も同様に変化させることができます。

(3) 以上の条件で各素子の値を計算します。
 設計手順の、

  k=2πfoC1 m=α2/4+(H-1)

は、次のように記述しました。

  .param ka=2*pi*fo*ca1 ma=aa*aa/4+(ha-1)

(4) R1、R2、R3、C2の値は、設計式に従い次のように設定します。

  .param ra1=2/(aa*ka) ra2=aa/(2*ma*ka) ra4=ra3/(ha-1) ca2=ma*ca1

(5) AC解析でフィルタの周波数特性を確認します。
 以上の結果をもとに、AC解析を次のように設定しシミュレーションを行います。

 シミュレーション結果は次のようになります。


任意のカットオフ周波数の設定値を変更する

 .stepディレクティブで、fo(カットオフ周波数)を2.5kHz、5kHz 、10kHz、20kHzと変化させてみます。
 新たに .stepディレクティブで変化させる変数にfoaを設定し、.paramディレクティブでfo=10kと設定してある10kの代わりに変数foaを設定し、ステップ動作をさせます。次に示す .step Statement Editorでディレクティブを設定します。


 OKをクリックすると、回路図に次のディレクティブが設定されます。

  .step oct param foa 2.5k 20k 1

 シミュレーション結果は次のようになります。

 グラフの画面を拡大すると、各ステップ波形がカットオフ周波数で3dBの減衰になっていることが確認できます。出力も6dBでゲインも設定どおりであることが確認できます。


Qの値を変えてみる

 設計式の中で、Qの値を変えてピーキングの様子を確認します。aa=1/0.707のQの値を変数qaに置き換えます。次のディレクティブで、変数の設定とステップ動作を設定します。

  .step param qa list 0.5 0.707 2.0 5

 シミュレーション結果を次に示します。

 緑色のラインがQ=0.5のラインで減衰がなだらかになっています。青のラインはQ=0.707に設定してあります。この設定で10kHzのカットオフ周波数で3dBの減衰となっています。

各素子の値を確認する

 回路の抵抗の抵抗値、コンデンサの容量値が設計手順に従い求められています。.measディレクティブでエラー・ログに表示するようにします。その後、赤のラインはQ=2.0、青緑のラインはQ=5に設定してあります。Qの増加に応じてピーキングも増大しています。

回路の抵抗、コンデンサの値を確認する

 各設定値は、.paramで設定された変数に格納されています。変数の値を.measディレクティブで読み取ります。読み取られた結果はSpice Error logに記録されます。
 View>Spice Error logで表示された結果を次に示します。ただし、AC解析では計算は複素数の演算で行います。そのため、記録されている値は10kΩの抵抗の設定値が80dB、0°などと表示されています。0.1μFのコンデンサの容量値が-140dBと表示されています。

 dB表示を通常のリニアの表示にするにはdB表示を1/20して得た値を10の指数として計算することができます。少々面倒なので、過渡解析でシミュレーションすると複素数演算を行わないので、リニアな表示の結果が得られます。
 カットオフ周波数前後の10kHzの信号を加えてシミュレーションした結果を次にします。

 各素子の設定値は、次に示すようにわかりやすい値になっています。


 カットオフ周波数10kHzのシミュレーションは、step3のシミュレーションで各素子の値は次のようになります。

R1 225Ω R2 75Ω
R3 10kΩ R4 10kΩ
C1 0.1μF C2 0.15μF

 

 次回、ハイパス・フィルタ、バンドパス・フィルタなども、LTspiceで設計手順に従い設定値を決めてシミュレーションを続けます。

(2019/12/13 V1.0)

<神崎康宏>

初心者のためのLTspice入門

フィルタ回路の再確認

(1) CR回路ローパス・フィルタを2段接続すると

(2) フィルタの効果を調べるための信号の作成

(3) ホワイト・ノイズをフィルタにかけると

(4) オールパス・フィルタ

(5) オールパス・フィルタの実測

(6) 入出力波形をADALM2000で観測し90°の位相を確認する

(7) R3の値を100kΩに変更して実際の回路と比較する

(8) OPアンプの発振を止める

(9) サレン・キー型ローパス・フィルタをシミュレート

(10) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計①

(11) LTspiceに設計データを入力しサレン・キー型ハイパス・フィルタを設計②


◆オームの法則を確認する

(1) 抵抗の設定...(4) 回

◆オームの法則で回路に任意の電圧を作る

(1) 抵抗分割...(4)回

◆LTspiceXVIIはUNICODEに対応して日本語表示もできる

(1) LTspiceXVIIで日本語を表示...(3)回

◆シミュレーション結果を保存しその結果を利用する

(1) WAVEファイルにする...(5)回

◆AC電源から直流電源を作る

(1) ダイオードによる整流回路...(5)回

◆ダイオードの動作確認

(1) ダイオードのモデル

◆コイルを利用した電源回路

(1) チョーク・インプット型全波整流回路... (5)回

◆LCRを用いた回路の検討

(1) 抵抗器(レジスタ)では交流信号の周波数が変わっても抵抗値は変わらない

(2) キャパシタンス(コンデンサ)Cのふるまい

(3) インダクタ(コイル)のふるまい

(4) CR回路のふるまい

(5) CR回路とパルス波の中身

(6) パルス波をフーリエ級数で表現すると

(7) LRフィルタを作る

(8) 電圧依存電圧源で信号を作る

(9) 電圧依存電圧源のLaplace オプション

◆スイッチング電源ICのシミュレーション

(1) LTC1144 (2) LTC1144 (2) (3) LTC1144 (3) (4) LTC3261(1) (5) LTC3261(2) (6) LTC3202(1)

◆ウィーン・ブリッジ発振回路のOPアンプ、フィルタの役割

(1) 低周波の正弦波発振回路

(2) ウィーン・ブリッジ回路各様の特性を.measコマンドで測定

(3) バンドパス・フィルタの出力の減衰とOPアンプの増幅率の関係

(4) ウィーン・ブリッジ発振回路を単一電源で動作させる

(5) ウィーン・ブリッジ発振回路に振幅の制限回路を付加する

(6) ウィーン・ブリッジ発振回路を実際の回路で確認する

(7) ウィーン・ブリッジ発振回路を実測したCRで確認する

◆OPアンプを利用したフィルタ回路のシミュレーションと実測

(1) 実測値を測定するための準備

(2) Scopyのインストール

(3) コンデンサにはインダクタンス成分もある

(4) ムラタ製作所のセラミック・コンデンサのLTspice用のデータを利用する

(5) シミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(6) 非反転増幅器のシミュレーション結果とScopyによる実測値とを比較する

(7) 単一電源で動作させる

(8) 単一電源でAC信号を大きく振幅させる

(9) LTspiceのシミュレーション結果をADALM2000でトレース

(10) 低域の周波数特性の改善